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35.気になる人と遊園地デートなのだけど②

俺は水瀬と一緒に遊園地に入場したのだが、初っ端からどこに行けば良いのか分からなくなっていた。

いや、一応どのアトラクションを回るのかのプランは考えたんだ。

でもさ、例えばジェットコースターに誘ったとして、水瀬に『速いのは得意じゃないんだよね……』とか言われたらどうする!?

例えばお化け屋敷に誘ったとして、『暗がりでなんかするつもりじゃ……』とか勘ぐられたらどうする!?

例えばゴーカートに誘ったとして、『そういう子どもっぽいのはちょっと……』とか蔑まれたらどうする!?

決められるわけないじゃん! 世の中のデート慣れしている男達はこういう局面をどう乗り越えてきたんだよ!?


「高瀬くん、それでどうしよっか?」


先を歩いていた水瀬がこちらをくるりと振り返って、無邪気に尋ねてきた。可愛い。

仕方ない、最初からこういう事態の最終奥義を使おう。


「水瀬はどこか行きたいとこあるか?」


選択権を相手に委ねる……!

優柔不断に思われるかもしれないが、水瀬の行きたくないところを俺がお勧めすることは避けることはできる。

いくつか水瀬の行きたいところを回って、どういう感じのアトラクションが好きそうかを探っていけば良いだろう。


「んー、私は元々亜里沙任せのつもりだったし、全然考えてなかったんだよね。高瀬くんの行きたいところで良いよー」


はい、万策尽きたー!

再び選択権が俺に返ってきました。

あぁ、どうしよう。母親に『夕飯に何食べたいー?』って聞かれた時に、子どもが『何でも良いー』って答えた場合の母親の困る感じとよく似ている。何でも良いから何か言って欲しかった。


「ええと、そうだなぁ……。俺もあんまり考えてなかったからなぁ……」


どうする!? どうすれば良いんだ、俺!?

水瀬が首を少しだけ傾けながらこちらを見ている。

早く答えなければ……って、待てよ? 水瀬の心を読んで少しでも行きたそうなところをチョイスすれば良いだけの話じゃないか!


『ポッ』

=================

水瀬 詩織

現在の心境:あはは、困ってる高瀬くん、なんか可愛いな。

=================


Sっ気発動させているだけじゃないですか!?

少しはアトラクションのことを考えててよ!


あぁ、もうどのアトラクション行こうかで悩んでも仕方ない気がしてきた!


「じゃあ、とりあえずそこで!」


俺は、一番近くにあったアトラクションを指差した……コーヒーカップだ。


「コーヒーカップとは、中々渋いチョイスだね」

「いや、その、お互いに行きたそうなとこ無かったし、あれに乗りながらゆっくりどこ行こうかを話しても良いかと思って」

「あ、なるほどね」


あ、なんか適当にそれっぽい理由を後付けすることができた。凄いぞ、俺。


コーヒーカップはほとんど順番待ちしておらず、俺と水瀬はすんなりカップに案内された。

コーヒーカップなんて、全然乗ってないな。俺は、小学校の低学年ぐらい時に乗ったのが最後かもしれない。

その時は母親と妹と乗った気がするが、今回は水瀬とである。

なんかこの状況を改めて考えると、ちょっとドキドキする。

高校生とはいえ、大人になりつつある男女が狭いコーヒーカップで二人っきりで仲良く喋りながらハンドルを回す姿は、よく考えるとなんかすごく青春っぽい気がする。

適当に乗ることにしたけど、コーヒーカップは良いチョイスだったかもしれない。


「うわー、コーヒーカップとか久しぶりだなぁ。いつ以来だろう?」

「水瀬も久しぶりか? 俺は多分小学校1、2年生の時以来だなぁ」

「私もそれくらいかなぁ……。家族と遊園地とかに来ても、コーヒーカップにはあまり乗せてもらえなかったんだよね」

「え、それどういうこと……?」


俺の質問に答える間も無く、水瀬は突然凄まじい勢いでコーヒカップのハンドルを回し始めた。

遠心力で俺は背中をカップの縁に押し付けられる形になる。


「ちょちょちょ、水瀬さん!?」

「あははははは、やっぱりコレを回すのって凄く楽しいんだよねー!」

「笑いながらものすごい勢いでハンドルを回す姿はただのヤバイ人にしか見えないんですけど!?」


数あるコーヒーカップの中で俺と水瀬のカップだけが竜巻の如く激しい回転をし続ける。

アレか、水瀬って車とか運転したら物凄くぶっ飛ばすタイプの人間でしょ!?

本当に人は見かけによらないなぁ!?


「あははははは、高瀬くん、それでこの後はどこを回ろうかー?」

「このダイナミックすぎる環境下でそんなことを考える余裕ないよ! ちょっとハンドル緩めて!」


もはや周りの景色は全く見えず、ただの横線だけの世界になっていた。

そりゃ水瀬の家族も、水瀬と一緒にコーヒーカップに乗ることを拒否するわ!

俺の想像した男女二人の青春っぽいコーヒーカップのイメージは、カップの高速回転とともに脆くも崩れ去った。



-----------------------------------------------



「はい、どうも三井です。今日はね、『高校生友人二人の遊園地デートを追跡してみた』ということでやっていきたいと思います」

「おいコラ、急にYoutuberみたいな話し方をするんじゃねぇよ」

「こういうノリの方が面白いかと思いまして」

「とりあえずその追跡対象を見つけてからにしろ」


俺と三井は遊園地に入場してみたは良いものの、未だに先に行った結樹達を見つけられずにいた。


「しかし、見つからないものっすねー」

「どこぞの日本最大級のテーマパークとかよりはずっと規模が小さいとは言え、それなりに園内は広いからな。一度見失うと中々見つけられなそうだよな……」

「いやー、さっさと見つけないと面白いとこを見逃しちゃいますからねー」

「誰のせいで見失っていると思ってんだ……。……そういや、なんでお前は結樹のことを応援してんだ? わざわざこんな遊園地デートまでセッティングして」


結樹達を探している間に話す時間もあるので、俺は三井に対して感じていた疑問を何の気なしに聞いてみた。


「え? そりゃ初々しいカップルの初デートとか、どんな行動をしてようが小説や漫画を描くのに役立つからですよ」

「おい、お前はそんなことに友人を利用するのか」

「いやいや、もちろん詩織や高瀬くんには幸せになってほしいと思っているっすよ? 高瀬くんとは付き合いは短いっすが、良い人なのは分かるし。で、その幸せを応援するご褒美として、ちょっとしたネタ提供を頂きたいなぁ……という感じっすよ?」

「お、おう……」


俺は創作とか全くせずに、作品の受けるだけなので良く分からないが、こういう実際の人間観察って役立つものなんだろうか……?


「しかし、結樹や水瀬みたいなどっちも大人しい性格のデートで役に立つのか? お前の書きそうなBでLな作品とかには向かなそうな気がするが……」

「基本的にはどんな性格でもアリですよ。そういう需要もあると思うっす。あと、一応言っておきますけど、BL以外も描くっすよ?」

「お、おう、そりゃ失礼した」


ふーむ、俺は好きなジャンルが如何にも男性向けの作品に偏っているせいか、ちょっと分からない部分があるな。

とその時、すれ違った大学生ぐらいのカップルの会話がふと耳に入ってきた。


『さっきの高校生カップル……かな? あれ、ヤバかったね……』

『あぁ、コーヒーカップのやつな。あんな高速でカップが回っているの見たことねぇよ。あそこまで速く回ってたら、普通恐怖心が出てきて本能的にスピード緩めるって』

『回してたの、女の子の方だったよね……。男の子の方、カップから降りた時にチラッと見たけど軽くグロッキーだったよ』

『ヤベェ女子高生がいるもんだなぁ……』


高校生カップルか。結樹達のことかもしれないが、水瀬がそんな激しいことをするとは思えない。恐らく別の人間だろう。


「コーヒーカップか。ただ、結樹達じゃなさそうだな」

「うーん、詩織ならなんかやりかねないような気がしないでもないっすが、流石に別ですかねぇ

……。それにしてもコーヒーカップか……。アリっすね」


三井は急に目を輝かせると、ポケットからメモ帳を取り出し何やら書き始めた。


「おい、急にどうした」

「ちょっと思いついた設定があるのでメモっす」

「お前、別に直接デートの様子を観察しなくても、小説書けるだろ」

「細かい表現を描くときに、じっくりと観察した経験が活きてくるものなんすよ!」

「そ、そうか……」

創作に疎い俺があまり口出しすることじゃなさそうだな。


「よし……こんな感じっすね……。体の弱い男の子・雪人は,あまり外に出られない子だったが近所に住む普通の男の子・陽大と偶然知り合う。陽大は度々雪人の家で遊ぶようになるが、そこで陽大は『遊園地に行ってみたい』という雪人の願いを知る。ある日、雪人の家族に内緒で陽大は雪人を遊園地に連れ出す。外で少し辛そうにしながらも、憧れのコーヒーカップに乗ってはしゃぐ雪人の姿を見て、陽大は不覚にもときめいてしまう……」

「急にプロットを語りだすな。誰だよ、雪人と陽大って。あと、長い」

「もう少し続きます」

「続くのか」

「陽大は雪人に手を出したくなるのを必死に我慢する。一方で、雪人も陽大のことが好きであったため、陽大の煮え切らない様子に耐えられなくなる。そして、遊園地からの帰り道、雪人は建物の陰に陽大を引っ張り込み、壁に押しつける……! それで陽太は思う。『雪人のやつ、華奢だと思っていたけどいつのまにか身体が大きくなっていたんだな……』って! ひゃあ!」

「いや、何で勝手に興奮しているんだよ」


自分の世界に入りつつある三井に俺はとりあえずツッコミを入れる。


「おっと、失礼したっす。……引いたっすか?」

「いや、別に。俺もオタクだし、別にどんなものが好きでも良いと思うぞ? まぁ、いまいち男同士のそういう話の良さが俺には分からないんだけど」

「ふむ。試しに女の子同士に変換してみれば分かるんじゃないっすか? 小さい頃からの幼馴染の女子中学生二人。一人は大人しくて地味な女の子・柚、もう一人は活発で友達の多い女の子・咲。咲は柚をいつも守ってくれる正義感の強い子で,柚は咲が好きになってしまう。しかし、中学で咲が運動部に入ってからお互いに距離を感じてしまう。そのことに耐えきれなくなった柚が建物の陰に咲を引っ張り込んで、顔を真っ赤にして叫ぶの。『もう我慢できないの……私、咲のことが好きなの!』……みたいな」

「……ありかもしれないな」

「他にもBL設定を百合に置き換えれば割と男性でも理解できる説を検証してみるっすか? 多分、どこかで女性と男性の感性の違いで成り立たない部分が出てきそうな気がするんすっけど……」

「よし、やってみるか」


その後、俺と三井は小一時間この話で盛り上がった。

……結樹達を探すの忘れてたよ。



最近になって、『ダンベル何キロ持てる?』を観たんですけど面白すぎる。

オープニングからして面白い。

ナイスバルク!

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[一言] この話見たとき、広告に百合の漫画とBLの漫画出てきて草
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