34.気になる人と遊園地デートなのだけど①
日曜日。俺は水瀬とのデートのため、遊園地に来ていた。
手には、事前に三井さんから受け取った遊園地のペア招待券。
水瀬には、三井さんと水瀬と俺と正志の4人で集合して、その後男女別で行動する予定だと伝えられているはずだ。
そして、俺と水瀬だけ集まった状態のところに、三井さんと正志がドタキャンするとの連絡が来て、俺と水瀬とのデートに持ち込むという流れだ。
集合時刻の10時半の10分前に、俺は遊園地のメインゲートの前に着いた。
そこには既に水瀬が着いていた。
水瀬はマリンカラーのボーダーのトップスにベージュのロングのスカートを着こなし、白い帽子を被っていた。なんだかちょっと大人っぽくてドキッとする。
「あ、高瀬くん。こっちこっちー」
水瀬は俺に気づくと、胸の前で小さく手を振って俺に合図する。可愛い。
「おーす、早いな」
「10分前は普通だよー。竹野くんは? 一緒じゃないの?」
「それが正志の奴から、急に『行けない予定だったライブに急遽行けることになったから、遊園地には行けない!』ってL●NEが来たよ、全く」
「そうなんだ……。うーん、実はね、亜里沙も急に来られなくなっちゃったの……」
「あ、そうなの?」
もちろん俺は正志も三井さんもドタキャンするのは分かっているが、知らないふりをする。
「うん。なんか『うああぁぁ! 昨日の夜に食べた鶏肉が腹にキタっす! マジ無理、遊園地に行けないぃ↓↓ 高瀬くんに招待券を渡しているからそれでEnjoyしてきてくれYo!』って連絡がついさっき来たの」
「なんで三井さんはL●NEでも発言がそんなにエキセントリックなの?」
三井さんはウケを取ろうとしないと死んじゃう病気にでもかかっているんだろうか?
「亜里沙はいつもトチ狂っているからね」
「自分の親友に対しての評価が結構えげつないね」
「親友だからだよー」
「そんなものかなぁ……」
「それにしても2人だけになっちゃったね。どうしよっか?」
水瀬がちょっと上目遣いで俺に訊ねてきた。うひゃう、可愛い。
いや、水瀬の可愛さに感動している場合ではない。ここはしっかりとデートに誘わなければ!
「まぁ、三井もそう言っていることだし、水瀬が嫌ではなければ一緒に遊園地を回らないか?」
「……うーん、どうしよっかなぁ……」
そう言って水瀬は首を少し傾けて迷うような表情をする。
え、ここまで来てお断りですか!?
「え、あ、その……」
「ふふっ、冗談。私は高瀬くんと二人でも大丈夫だよ。さっ、早く行こう?」
水瀬は悪戯っぽく微笑み、くるっと身を翻し遊園地のゲートへと歩み出した。
あーもう、そういう小悪魔的な行動は俺の心臓に悪いよ!
水瀬の微Sここにありって感じだ。
「ちょっ、からかうのはやめてくれよ」
俺は慌てて追いかけながらも、水瀬が一緒にデートに行くのを嫌がらなかったことに安堵する。
良かった。三井さんがいなくとも水瀬が楽しそうで。
『ポッ』
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水瀬 詩織
現在の心境:高瀬くんと二人っきりっていうのも悪くないかも。
ふひひ、もしかしたら何か面白いプレイが楽しめるかもっ!
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…………プレイ?
え、あの、遊園地のアトラクションの間違いですよね?
そうですよね!?
そんな俺の心配は他所に、水瀬は軽やかな足取りで進んでいくのだった。
……そういえば三井さんと正志は、俺と水瀬の後をつけるみたいなことを言っていたがどこに潜んでいるのだろう?
ざっと見渡した限りどこにも見当たらないが……。
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俺は友人の結樹のデート模様を観察できるという面白イベントの情報を聞きつけて遊園地まで来たのだが、この遊園地の招待券を持っている三井亜里沙が一向に姿を見せない。
時刻は10時40分。既に結樹と水瀬は遊園地内に入ってしまっている。
このままだと遊園地内を探し回らなければなってしまう。
「早く来いよ、三井……!」
俺がそうぼやくと同時に最寄りのバス停に1台のバスが到着し、遊園地目当ての家族連れやカップルがぞろぞろ降りてきた。そして、その中から三井が姿を現した。
三井は紺のジーンズに、上は白地のTシャツというラフな出で立ちだった。Tシャツには平仮名で大きく『わさび』と書かれている。なんだそのクソダサいネタTシャツは。
「いやーごめんねー、正志さーん。ちょっと服のコーディネートに迷っちゃって☆」
「1秒でバレる嘘をつくんじゃねえよ! そのクソダサ適当ファッションのどこに迷う余地があるんだよ!」
「む、女の子の服装にクソダサなんて言うとは、竹野くんは乙女心が分かっていないなぁー」
「そんなセリフは乙女らしい服装ができるようになってから言いやがれ! 完全に休日の部屋着だろ!」
「私の休日の部屋着はジャージだよ、ナメるな!」
「どこにナメる要素があるんだ!? より雑じゃんかよ! まぁ、お前のファッションセンスなんてどうでも良いわ! 結局のところ、なんで遅れたんだよ!?」
なんなんだ、こいつは! 話しているとツッコミだけで時間が延々と消費されてしまう!
こんなんツッコミ大好きの結樹じゃないと相手しきれないだろ!?
「ふっ、遅刻の理由ですか……。それには紆余曲折・苦心惨憺・艱難辛苦の物語があってですねぇ……」
「手短でおけ」
「布団が私を抱きしめて放してくれなかった」
「ただの寝坊じゃねぇか! 何してんだ、コラ!」
「おわわわっ!? ちょっと女の子の頭を鷲掴みにしようとは何事ー!?」
ちっ、俺の男女平等拳を躱すとはな……。
「あーもう、遅れちまったもんは仕方ねぇ! さっさと結樹達を追いかけるぞ! あいつらはもうとっくの前に入っちまってるぞ」
「なんとっ! 素早い奴らだな……」
「お前一人だけが遅かったんだよ! くそ、先が思いやられるな……。ほら、早く招待券だせ」
「招待券?」
三井がポカンとした顔をする。
おい、こいつ……
「おまっ、まさか招待券を忘れたんじゃないだろうな!? だとしたら俺は何のためにお前をここで待ってたんだよ!?」
「まぁ、持っているんですけど」
「おちょくってんのか、お前はよぉ!!」
「痛イィ! 頭を掴まないでぇ! ただでさえ小顔の私がより一層スリムになっちゃうぅぅぅ!」
なんでこいつは攻撃を受けているのに余裕があるっていうか、ネタに走るんだ……?
俺と三井は、三井の持っていた招待券で遊園地のゲートをくぐり、あたりを見渡す。
ダメだ、結樹達の姿はもう見えない。どこかに行ってしまったようだ。
「やっぱりいないか……。くそっ、見失っちまったじゃねぇか!」
「俺を!」
「モラトリアムだな。……って、これは、BLE●CHの序盤で霊体状態の主人公が本体を乗っ取られちまった時のル●アとのシュールなやり取りじゃねぇか!? このネタ通じるやつ少ないだろ!?」
「いやー、まさか通じるとは思わなかったっす。持つべきものはオタ友っすねー」
「おう、そうだな! ……って感心している場合か! さっさと探すぞ!」
うっかりしていると、こいつと駄弁ってるだけで今日が終わっちまう!
「探すってどこに行きそうか心当たりあるんすか?」
「え、そうだなぁ……。結樹は主体性がないから、水瀬の行きたい場所に行っているかもしれないな……」
「ほうほう」
「あと、結樹の決断力のなさから、その辺りをただ歩いているだけの可能性もありうる」
「うんうん」
「お前は水瀬が行きたそうな場所とか思いつくか?」
「ちょっと何言っているか分からないですね」
「何で分かんないんだよ!? 少しは真面目に考えろ! さっきから適当な相槌しやがって!」
「うーん、詩織はああ見えて意外とアクティブな性格っすからね……。いきなり激しい乗り物に連れって高瀬くんを困らせている可能性もありそう」
「急に真面目に答えたな。分かった、じゃあそういうアトラクションに向かいながら、その辺に結樹達がうろついてないか探すぞ」
「アイアイサー!」
三井と話していると本当に疲れるな……。
やれやれだぜ……。




