表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/42

(幕間)休日の映画館

ちょっとした小話。

主人公が能力を手に入れるよりも前の話です。


「あ、ごめんね、梨乃。土曜日はちょっと用事があって……」


いつも可愛い結菜ちゃんが顔を曇らせながら私に伝えてきました。

時期は4月。なるほど、今年もちょっと時期を遅らせて観に行くんですね、分かります。

結菜ちゃんは毎年春頃に公開されるプリ●ュアの映画を欠かさず観に行っています。

例年の傾向から今年もそろそろ観に行くと思っていたので、まず間違いないでしょう。


でも、それに私を誘ったりはしないです。結菜ちゃんとしては、中学生になってもプリ●ュアを観ていることが恥ずかしいらしく、映画にもこっそり行くことにしているみたいです。

映画は3月には公開されているのだけれど、ピーク時期からズラして観に行くのもこっそりと観たいがためです。

ふふふ、そうしてコソコソする結菜ちゃんも可愛いです。


「あら、そうなの……。残念だけど、用事なら仕方ないね」


大丈夫よ、結菜ちゃん。私もちょうど今、用事ができたから。

土曜日は映画館に結菜ちゃんを鑑賞しに行かないと。


「本当にごめんね、今度は一緒に遊べるようにするから!」

「ううん、気にしないで」


本当に気にしないで、結菜ちゃん。

むしろ、私の方が後ろめたいところあるし。


—————————————————


土曜日の朝8時。高瀬家の近くの茂みからいつも通り結菜ちゃんの部屋の様子を窺います。

規則正しい生活を送っている結菜ちゃんは、いつも土曜日はこのくらいの時間に目覚めます。

そう思っていると、予想通りに結菜ちゃんがカーテンをちょっとだけ開けて顔を出しました。外の天気の様子を確認していようです。

あー、寝起きのパジャマ姿の結菜ちゃんはマジ天使……。

私は結菜ちゃんに見惚れながら、持っていたカメラでその様子をカシャカシャと撮影します。

ふぅ……。


と、結菜ちゃんはカーテンを締め直す。どうやら着替えるのでしょう。

私としてはカーテンを開いたままにしてもらって、着替えの様子を見たいものです。

でも、結菜ちゃんの着替えを覗こうとする不審者さんがいるかもしれませんからね。ちゃんと用心してくれるに越したことはありませんね。

私は一応、辺りを見回して、そのような不審者がいないことを確認します。

よし、今日も平和です。


着替え終わった結菜ちゃんは、カーテンを今度はしっかり開け、部屋からいなくなりました。

朝食と身支度を整えるんですね。

映画は他の客が比較的少ない午前中に行くでしょうから、きっと直に外出するでしょう。


私の予想通り、結菜ちゃんは9時半過ぎに家から出てきました。

あー、もう、目立たないように地味なパーカーを着てても結菜ちゃんは本当に素敵です。

結菜ちゃんと結菜ちゃんを追跡する私は、映画館に電車で向かう。映画館は二駅隣の駅近くにあるのです。


映画館に着くと、結菜ちゃんはそそくさと映画の発券機に向かいました。

ここが重要なのです。発券機に表示される結菜ちゃんの予約した座席を確認する必要があります。

私はお母さん仕込みの隠密行動で発券機の近くに寄り、結菜ちゃんの操作する発券機の画面をスッと盗み見ます。

ふむ、この番号だと……スクリーンに向かって右側の真ん中ぐらいの席ですね。


さて、私の席はどうしようか。私は席の予約をせずに来ている。

毎年、結菜ちゃんに見つからないように後方の席にするのですが、それだと結菜ちゃんの表情がちゃんと見えないのです。

私はまだ残っている席をひとしきり睨んだ後、まだ残っていた結菜ちゃんの前の席を二席分確保しました。

今回はチャレンジです。前の座席の隙間から結菜ちゃんを鑑賞するのです。


————————————


さて、問題は座席に着くときです。

座席に着く時に結菜ちゃんに見つかってしまうと、折角の結菜ちゃんの至福の時間を私が邪魔することになってしまいます。それは避けなければ。

私が結菜ちゃんより先に座席に行く場合も後に行く場合も、前の座席だと結菜ちゃんに見つかるリスクが高いです。

うーん、先だと隠れる場所が無いから、結菜ちゃんの隙を見て、後から行くのが良いかな……。


おっと、結菜ちゃんがスクリーンに移動するようです。追いかけないと。

…………?

なんか映画館の係員さんと揉めているようですね?

どうしたのでしょうか?


「すみません、来場者特典のミラクル☆ステッキは、丁度さっき在庫切れになってしまいまして……」

「そん……な……」


あぁ、プリ●ュアの映画で配られている特典のミニステッキが無くなってしまったんですね。映画でプリ●ュアがピンチになった時に子供たちがそれを振って応援するために配られるものですね。それぞれの映画館で在庫に限りがあるようですから、観る時期が遅いと無くなることもありますからね…。うーん、結菜ちゃんは流石に運が悪いですねぇ……。


結菜ちゃんは落ち込んだまま座席に着いた。

落ち込んで下を見ているので、私が座席に向かう時に結菜ちゃんに見つかりにくくなるとは思いますが、結菜ちゃんが落ち込んでいるというのはなんとも心が痛いです。

私は、結菜ちゃんの目線に気を使いながら自分の座席に向かいます。

もう少しで私の座席に着くというところで、結菜ちゃんの隣の座席に座っていた女の子が結菜ちゃんに話しかけた。


「……お姉さん、どうされましたか?」


!!??

声に反応して結菜ちゃんがパッと前を向いたので、私は慌てて身を屈め、自分の座席の下に潜り込む形になっりました。

あ、危なかった……。私の席の周りにまだ人がいなくて良かったです。

私は、座席の下の隙間から、後ろの席に座っている結菜ちゃんを見上げる形で覗き見ます。

あ、このアングル良いですね。私の身体は同年代でも小さいほうなので、ちょうど確保していた二つ分の座席の下に身体を納めることができそうです。

このまま座席の下から結菜ちゃんを鑑賞するのも良いかもしれません。

私はこの体勢のまま、結菜ちゃんと隣の女の子の会話を聞き続けます。


「え? 私?」

「はい、そうです。暗い顔をしていたのでどうしたのかと……」

「あ、えーと、なんでもないよ?」

「そう……なのですか? 折角、プリ●ュアを観ることができるのに楽しく見れないのは良くないと思いまして……」


女の子の方は、私たちよりは幼そうです。小学校高学年くらいでしょうか?

その割にはちょっと胸が大きいですけど……。ちょっと恨めしいです。


「うーん、実はね、ミラクル☆ステッキがもらえなくて、ちょっと落ち込んじゃって……」

「そうでしたか……。それは確かに落ち込んでしまうかもしれません……」

「うん。でも、それだけだから! プリ●ュアの映画はちゃんと楽しむよ!」


あぁ、女の子に心配をかけまいと気丈に振る舞う結菜ちゃんも素敵です……。

ここが映画館じゃなければ撮影しまくって、帰ってからじっくり楽しむというのに……。


「……お姉さん、プリ●ュアを応援する時に、一緒に応援しませんか? 私はステッキを貰えていたので、このステッキを一緒に握りましょう」

「……いいの? 一緒に使わせてもらって……?」

「はい。プリ●ュアを応援する仲間ですから、遠慮しないで下さい」


あぁ、結菜ちゃんの顔に笑顔が……!

そこの優しい女の子、グッジョブです! 結菜ちゃんの笑顔を取り戻してくれたこと、陰ながら……というか座席の下ながら感謝申し上げます!


「……ありがとう。あの、お名前は?」

「桃香。原田桃香と言います」

「ありがとね、桃香ちゃん」


そう言って桃香ちゃんの手を握る結菜ちゃん。

う、羨ましい……。羨ましいですよ、桃香ちゃんとやら!

私も結菜ちゃんの手を舐めたい! ……いえ、間違えました。 私も結菜ちゃんの手を握りたい!


と、その時、ゆっくりと場内が暗くなりました。

どうやら間も無く上映が始まるようです。

結菜ちゃんと桃香ちゃんは手を離して、ウキウキしながらスクリーンを見つめ始めました。

気づけば、いつの間にか私の席の近くに人が座っていたようです。

どうやら私が座席の下にいることには気付いていないようなので、いよいよここから出られなさそうです。いきなり映画館の座席の下から人が出てきたら軽くホラーですからね……。


上映中、私は結局座席の下から結菜ちゃんを鑑賞し続けました。ちょっと姿勢は辛いけどなんという至福……。物語の展開に合わせてコロコロ表情が変わるので、見てて飽きません。まぁ、座席の下に潜り込んでいるせいで、映画自体はまったく見えてないんですけど。

隣の桃香ちゃんも、上映前はなんだか眠そうな目をしていましたけど、上映中は目をキラキラさせていました。プリ●ュアの力、恐るべし……。


『みんなー! ミラクル☆ステッキを振って、プリ●ュアを応援するんやー!』


映画に出てくる何故か関西弁の妖精キャラが映画を見ている子ども達に呼びかける。

結菜ちゃんが桃香ちゃんに目配せした後、ステッキを持つ桃香ちゃんの手を握る。

そして、2人で叫んびました。


「「プリ●ュアー!! 頑張れー!!」」


あぁ……こんなに近くで結菜ちゃんの懸命な応援を聞けて、私は幸せです……。

私は、思わず「ふへ……ふへ……」とちょっとはしたない声を出しちゃいました。

私の心のアルバムにしっかりと刻み込みましたよ。

結菜ちゃんと手を取り合っているのが私じゃないのはちょっと残念ですけどね。


映画はエンディングになりました。

プリキュアのエンディングは大体ノリの良いダンス曲なので、子ども達も思わず動いちゃっています。

結菜ちゃんも少し上気した顔で腕をちょっと動かしています。可愛いでしゅ……。

思わず結菜ちゃんの香りを嗅ぎたくなります。スーハースーハーッ……あ、息が荒くなってしまいました。


上映終了後、結菜ちゃんは桃香ちゃんに改めてお礼を言って、帰って行きました。

私もすぐに追いかけたかったんですけど、他のお客さんがいなくならないと座席の下から出られません。悔しいですが、今日の結菜ちゃん鑑賞はここまでにしておきましょう。既にいっぱい堪能しましたからね。


こうして、今年は例年よりもプリ●ュアを鑑賞する結菜ちゃんをじっくりと鑑賞することができました。いやはや、実に良い日でした。

ちなみに、後日、観に行った映画館では映画の上映中に座席の下から危ない息遣いが聞こえてくるという都市伝説が生まれ始めていたのですが、私は気にしないことにしました。うん、気にしませんとも。


休日出勤が入ったため、遅くなりました。

前々から言っているように、仕事の都合でここから2週間ほど更新ができなくなる恐れがありますので、ご理解いただければと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ