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28.妹の友達の家に行ったけど①

坂下先生の生還劇を見届けた後、俺はスマホにL●NEのメッセージが来ていることに気づいた。

送り主は梨乃ちゃん。

この間、俺の家に来た時にL●NEのIDを交換したのだった。

ふむ、一体何の用だろうか?


りの『結菜ちゃんの洗濯物を被っているところ失礼します』午後5時48分


してねーよ。この子は普段俺が何をしていると思っているのだろうか。

普通に『お忙しいところ失礼します』でいいだろ。

ていうか、梨乃ちゃんは結菜の服を被りたいのかよ。


りの『突然ですが、今週の日曜日って空いてますか? ちょっとお誘いしたいことがありまして……』午後5時49分


うん? 何の誘いだろう? 結菜のストーキングかな?


高瀬結樹『特に予定は無いけど、何の用事かな? あと、結菜の洗濯物は被ってない』午後6時51分


ほどなくして梨乃ちゃんから返事が来た。その内容はちょっと予想外だった。


りの『隠さなくて良いんですよ? 日曜日は是非、私の家に来ていただきたいのです』午後6時57分


水瀬の家に続いて、人生2回目の女の子の自宅訪問をすることになったのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後、梨乃ちゃんと色々やり取りしたところ、どうやらこの間俺の家で結菜の昔の写真を見せてもらったお礼に、梨乃ちゃんによる学校での結菜の盗撮セレクションを見せたいとのことだった。

……いや、そんなことをされても、俺には反応に困るだけで礼にならないのだが……。


日曜日の昼過ぎ、俺は梨乃ちゃんの家に向かっていた。

俺の家からは歩いて数十分程だったが、ちょっとした丘になっているところに家があるようで、商店街や学校からも遠くなる方向になり、俺がこれまで行ったことの無い場所だった。


「梨乃ちゃんの家……ここなのか……」


梨乃ちゃんの家は、はっきり言ってかなり立派だった。

漫画に出てくるような金持ちのお屋敷とまではいかないが、立派な観音開きの門に広めの庭、家自体は二棟に分かれた近代建築。奥に中庭もありそうだった。

お金持ちだったんだな、梨乃ちゃんの家……。

確かに、盗撮機材とかかなり充実してたからお金持ちな方なんだろうとは思っていたけれども。


俺は少し躊躇しながらも呼び鈴を鳴らす。


『はい、松川です。何のご用事でしょうか?』


インターフォンから落ち着いた女性の声が聞こえてきた。

梨乃ちゃんではない。お母さんかな? それにしては事務的な口調だな……。

門の高い位置にカメラが付いているので、相手には俺の姿が見えているのだろうな。


「ええと、高瀬結樹と言います。梨乃ちゃ……、梨乃さんから呼ばれてきたのですが」


『高瀬さんですね、伺っております。今、門を開けます。大きい方の建物の玄関までいらして下さい』


すると、すぐに門が自動的に開かれた。すげえ、俺の家のセキュリティとは段違いだ。

俺は言われた通り、二棟ある内の大きい方の玄関に向かう。

俺が玄関にたどり着くぐらいのタイミングで梨乃ちゃんと一人の女性がドアを開いて現れた。


「お兄さん、わざわざ来ていただき、ありがとうございます!」

「あぁ、このくらい大丈夫だよ。それと、ええと……?」


俺がもう一人の女性に何と挨拶すれば良いか迷っていたら、梨乃ちゃんが慌てて補足してくれた。


「あ、お兄さん。この人は、八代さん。たまにうちに来てもらって、色々家の仕事を手伝ってもらっているの」

「八代(つむぎ)です。宜しくお願いします」

「あ、はい。こちらこそ」


お手伝いさんとか初めて見たよ……。


『ポッ』

=================

八代 紬

年齢:30

職業:派遣社員

- 掃除 Lv. 27

- 料理 Lv. 25

- 書類作業 Lv. 19

- 動じない心 Lv. 31

=================


ふむふむ。家事スキルの高さそうな人だ。

それにしても最後のスキルかっこいい。俺も欲しい。


「梨乃ちゃんの家すごいね……。広いし、お手伝いさんもいるとか思わなかった」

「あ、驚かせてしまって、すみません。でも、お手伝いさんは八代さんだけで、いつも居るわけではないから、そこまで凄くは……」


いや、十分に凄いって。


「梨乃さん。高瀬さんがいらしたことを聖一さんと美里さんにお知らせしますか?」

「え、あー、ええと、ややこしくなりそうだから、私の友達が来たとだけ言っておいてもらえませんか?」

「分かりました」


そう言うと、八代さんは家の中に戻っていった。


「梨乃ちゃん。聖一さんと美里さんって?」

「私の両親です」

「ええと、挨拶した方が良くない?」

「いや、きっと面倒になるのでやめておきましょう……」


あぁ、そうか。俺が友達の兄だとしても、彼氏じゃないのかとか色々言われるかもしれないからな。確かに面倒くさくなるかもしれない。


「まぁ、とりあえず上がって下さい。部屋まで案内します」

「分かった」


梨乃ちゃんについて歩いていく。どうやら目的地はもう一つの建物(梨乃ちゃんは離れと呼んでいるらしい)にあるらしく、そこに向かう。


「そういえば、梨乃ちゃん。前に持って行けなかった結菜の写真のデータを持ってきておいたよ」


俺はデータを収めたUSBメモリを梨乃ちゃんに手渡す。


「本当ですか! わぁ、ありがとうございます! これでより(はかど)ります!!」


何が捗るんだろう。


「それは、まぁ、良かった」

「お兄さん、もしかして他にも何かあったりしません??」

「他に……って?」

「例えば、お土産代わりに昨日お兄さんが被っていた結菜ちゃんのパンツとか!」

「だから、被ったりとかしてないよ! あと、持って来るわけないでしょ!? 」

「そうですか、分かりました……。じゃあ、結菜ちゃんの可愛いブラジャーでも良いです」

「君は何も分かってないよね!? 『私、妥協しました』みたいな感じに言ってるけど、ブラも持ってないから!」

「ちょっと、何も分かってないのはお兄さんですよ! そこは『おいおい、結菜は基本的にブラトップだぜ』って言うところですよ?」

「知らねえよ!! なんで妹のブラジャー事情を把握してなきゃなんないんだよ!?」


女性の下着の違いは一介の男子高校生の俺には全然分からねえよ!


「あ、ここです」

「ん? ここが梨乃ちゃんの部屋?」

「いえ、ここは結菜ちゃん専用の上映室です」

「なにそれ!? 自宅にそんな施設を作ってんじゃねえよ!?」


梨乃ちゃんは俺のツッコミを無視して部屋の扉を開ける。

防音なのか映画館の扉みたいに分厚い扉だ。


「中は更に3室に別れています。それぞれ140インチ大スクリーンと80インチスクリーン、あと32インチテレビ用の部屋になります。その日の気分に合わせて使い分けができます。ちなみにどれもフルハイビジョンで上映可能です」

「めちゃめちゃ金かけてますね!?」

「これも結菜ちゃんが可愛すぎるのがいけないんです……!」


これだけの施設を結菜の盗撮映像を流すためだけに使うのか。どうかしている。


「ええと、もう一つ扉があるけど……」

「それは映像の保管庫兼上映用のPC部屋です。これまで撮影してきたものを記録したハードディスクをそこに大量保管しています」

「うわぁ……」

「ふふふっ、感動で言葉も出ないようですね」

「どちらかと言うと、呆れてモノも言えない」

「あと、ゆくゆくはVRルームも作ろうかと画策しています! 何らかの形で結菜ちゃんの体格データを入手して、それを元にVR空間で結菜ちゃんを表示できるようにします! そうすれば、色んなシチュエーションでバーチャル結菜ちゃんと触れ合えることができるようになります!」

「君のやることは本当に僕の予想の遥か上を行くねぇ!?」

「いやー、ついに結菜ちゃんも3次元化の時代ですよ!」

「一応言っておくけど、結菜は元々3次元の存在だからね!?」


変態に金と技術を与えた結果がコレだよ!


「分かってますよ。もちろん、私は現実世界の結菜ちゃんのことが一番大切です! これからも撮影や聖遺物の調査に余念はありませんよ!」

「堂々と俺の妹に対する犯罪行為を宣言しないで!」

「でも、会えない日に私の心を慰めてくれる存在が欲しい……。だからこその上映室とVRルームですよ!」

「それはこの変態施設の建造の正当な理由にならないからね!?」

「良いですよね、お兄さんは。家に帰ればいつでも結菜ちゃんの生鑑賞や結菜ちゃんの部屋で結菜ちゃんの香りに溺れることができるんですから」

「できたとしてもしないから! 妹にそんなことする兄貴はこの世から絶滅してしまえ!」

「え? そんな……急に自殺をほのめかされても……」

「俺がそういうことをしている前提で話を進めるのやめてもらえません!?」


この子が結菜の友達にさせたままで良いかどうか分からなくなってきた!


「それはそうとお兄さん。早速ですが、学校での結菜ちゃんを色々お見せしますよ。授業中に体育に着替え、運動中の時間、生徒会での様子などなど何でもござれですよー」

「撮影ばっかりしてないで君は真面目に学校生活を送ろうよ!? あと、体育の着替えは完全にNGだ!」

「お着替えシーンに興味を持つとは流石にお目が高いですね。結菜ちゃんがブラトップであることが確認できますよ?」

「だから、NGだって言ってるだろうが!」

「まぁ、流石にお着替えシーンは私もお気に入りなので、他の人にはあまり見せたくないんですけどね」

「データを消せ! 今すぐに!」

「じゃあ、去年の運動会の練習シーンとかにします? あの日は普段から運の悪い結菜ちゃんが、輪をかけてツいてなかった日で、これでもかというぐらい転んで可愛いんですよー」

「結菜の一番の不幸は君を友達にしてしまったことだと俺は思い始めたよ!」


梨乃ちゃんは俺の激しいツッコミを無視して、保管庫に入って目的のデータを漁り始めた。

マイペースというかなんというか……。

と、そこに先ほどの八代さんが上映室に入ってきた。

この人はこの怪しい上映室のこととかどう思っているんだ……。


『ポッ』

=================

八代 紬

現在の心境:また、梨乃さんはご友人の鑑賞部屋ですか……。

しかも、まさかご友人の兄もそっちの人だとは……。

=================


分かっていてスルーしているのか……。

あと、俺は自分の妹を偏愛してないから誤解しないで欲しい。


「梨乃さん。聖一さんと美里さんに高瀬さんがいらしたことをお話ししたのですが、是非高瀬さんと会いたいと言われまして……」


え、わざわざ俺に会いたがるの?


「え!? お友達が来たとしか言わないように言いましたよね?」

「あ、その、そう言ったんですが、聖一さんが『お友達とは、高瀬結菜さんか?』と具体的に聞いてきましたので……やむを得ず、高瀬さんという高校生ぐらいの男性だとお伝えしました」

「うわぁ、ややこしくなりそう……」

「申し訳ありません」

「いや、今週末にお父さんもお母さんもいることを忘れて、お兄さんを誘った私が悪いだけだから……」


うーん、梨乃ちゃんはご両親と俺を会わせたくなかったんだな。まぁ、俺も結菜が男子高校生とか連れてきたら何事かと思うしな。

確かにややこしくなりそうだ。


「お兄さん、すみませんがちょっと私の両親にお付き合いいただいてもよろしいですか?」

「お、おう。分かった」


こうして、俺達は梨乃ちゃんのご両親のいる大きい方の建物に再び戻ることになった。

一体、どうなるのだろうか……。


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