26.先生達がなんかバトルしてるんですけど①
ちょっと本業が忙しくなってきてしまったので更新ペースが落ちるかもしれません......。
もしそうなる場合は活動報告とかでお知らせします。
あと、7月の前半は電波がつながりにくいところに出張に行くので、もしかしたら更新できなくなるかもしれません。予め、ご了承ください。
次の日の放課後。運動部も活動を終え、日が暮れかかった頃、校庭に二人の教員が立っていた。
一人は、ジャージ姿で体をほぐす阿部先生。体育科の教師で、野球部の顧問。そして、道川先生の非公式ファンクラブの会長でもある。
『ポッ』
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阿部 幸助
現在の心境:これで決着をつけてやる……!
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もう一人は、スーツの上着だけ脱ぎ、スーツとミスマッチな運動靴を履いた坂下教諭。数学科の教師で、冷静な外見とは裏腹にメンタルがとことん弱い人だ。
そんな二人が、校庭の一画で短距離走を始めようとしている。
『ポッ』
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坂下 亨
現在の心境:負ければ……死……。逃げたい……。
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なぜこんなことになったのか。話は、その日の朝に遡る。
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いつも通り、俺は敦とともに学校に登校した。
昇降口で靴を履き替え、廊下に出たところで阿部先生がいるのを見つけた。
なにやら野本先生と話しているようだ。「何!? それは本当か!?」などと話している声が聞こえてくる。阿部先生も野本先生もMKMの一員。もしかして何かあるのではないかと勘ぐり、心境を開く。
『ポッ』
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阿部 幸助
現在の心境:道川先生と坂下先生が……デート……だと!?
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あ、昨日のことがもうばれている。
MKMの情報網早くない?
『ポッ』
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野本 輝
現在の心境:やはり休日も道川先生に虫が寄り付かないかどうか見守っていて良かったですね……。
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え、なにこの人!? 昨日、スタバにいたの!?
尾行は俺だけじゃなかったのかよ!?
人のこと言えないけど、相変わらず頭がおかしいなMKM!
「どうしたユーキ? 教室に行かないのか?」
「敦、ちょっと急用ができた。すぐに行くから、先に教室に行っていってくれ」
「お、おい!?」
俺はそう言って、ゆっくり阿部先生と野本先生に近づく。
このままではまた坂下教諭がヤバイ。
「どうします、会長? また坂下を呼び出します?」
「うーむ。しかし、前に道川先生が言われたように教師間での揉め事……特に荒っぽいのは禁物だ」
「し、しかし、もし我々の道川先生が坂下の手に堕ちでもしたら……!」
「ふむ……。よし、私が直接、坂下先生と話をつけよう」
「頼んでよろしいのですね……?」
「あぁ」
マズイ。やっぱりまた坂下教諭が狙われている。
『ポッ』
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阿部 幸助
現在の心境:ちゃんと坂下先生と話(物理)をつけてやらんとな……!
こうしてはいられない。早く話をつける段取りを整えねば!
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話(物理)って要は力づくですよね!? さっきの教師間での揉め事は禁物云々はどうした!?
何を考えているのかの詳細が知りたかったが、それを把握しきれないまま阿部先生は、野本先生に礼を言って廊下を足早に歩き去って行ってしまった。
何をしでかすのか不安だな……。
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冷静な顔をしながらも心の中では焦っていた坂下教諭の心境を読み取り、またしても坂下教諭が放課後に呼び出されたことが分かった。
そして、放課後。俺は空き教室に向かう坂下教諭を尾けていた。坂下教諭が心配なのもあるけど、俺の野次馬根性も大概だな……。
俺は少し開けた教室の扉から中の様子を窺う。
空き教室は前回とは違い、物々しい雰囲気にはなっておらず、中にいる人も坂下教諭を含めて5人と少なかった。いるのは坂下教諭に、阿部先生、武内先生、野本先生、あと……誰だ? 後ろ姿だけでよく分からない。
「坂下先生、ここに呼び出された理由は分かりますね?」
「……正直、図りかねるのですが……」
「タレコミがありました。昨日、坂下先生が道川先生を誑かしていたと」
いや、一緒にスタバ行っただけで、誑かしてないし……。誘ったのはむしろ道川先生だし……。
あと、タレコミっていうか、休日もせっせとストーキングしていた野本先生の情報でしょ。
「……いえ、断じてそんなことは……」
「言わずとも分かります。道川先生のあの可愛さと美しさを兼ね備えに加え、我々を魅了する神聖さ。坂下先生もその魅力に気づかれたのでしょう」
「……はい?」
『ポッ』
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坂下 亨
現在の心境:……私の同僚は皆どこかおかしい……。
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坂下教諭も十分に変だと思うが、阿部先生をはじめMKMメンバーが特別クレイジーなのは確かにそうだと思う。
「私も恋愛は自由であるべきだと思います。しかし、しかしですよ! 我々が信仰する道川先生を、失礼ながら坂下先生にお任せするわけにはいきません! あなたには、道川先生を守り通すというッ、情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ! そしてなによりもォォォオオオオッ!! 筋肉が足りないッ!」
絶対に筋肉関係ないだろ。
「……はぁ」
「その点、私は道川先生を守り抜くという騎士道と筋肉がある!」
まぁ、MKMという変態騎士団の頭だしな。
「……それで、結局何が言いたいのでしょうか……?」
「坂下先生! 道川先生をかけて、男と男の真剣勝負に臨んでいただきたいッ!」
「……えぇ……」
勝手に道川先生をかけるなよ。
『シュッ』
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坂下 亨
現在の心境:……また、変なことに巻き込まれてしまった……。
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可哀想に……。
「勝負の内容は3つ! 私と坂下先生、それぞれの得意分野から1つずつ。そして、勝負に不公平がないように第三者が決めた勝負が1つです。この内で、先に2勝した者の勝ち……いかがでしょうか?」
『シュッ』
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阿部 幸助
現在の心境:勝負に不公平が無いように正々堂々と勝負ですよ……! 必ず勝って、誰が道川先生を守るにふさわしいかを理解させていただきましょう!
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あ、一応真剣勝負なんだ。
「……いや、いかがも何も……。私は別に勝負するとは……」
「男と男の勝負ですよ? 逃げたり負けたりすれば……分かっていますね?」
『シュッ』
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阿部 幸助
現在の心境:逃げたり負けたりすれば……もう二度と道川先生に手を出さないと誓っていただこう!
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そういうことね。
『シュッ』
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坂下 亨
現在の心境:逃げたり負けたりすれば……け、消される!? あのMKMとかいうよく分からない組織に今度こそ消される!? 捕らえられた挙句、どこかの洞窟に連れ去られて、岩の中に永久にしまわれてしまうのだろうか……? あぁ……もうダメだー……。
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あぁ、坂下教諭の被害妄想が逞しすぎる!
流石にそこまで非人道的なことはしないでしょ!?
「…………」
「その無言は了承と受け取りましょう。では、最初の勝負です。まずは無関係な第三者から勝負を一つ提案していただきます」
始まっちゃったよ。いいのか、坂下教諭?
ていうか誰が出題するの?
「あ、私このために呼ばれたんですか……」
「ご足労をおかけしてしまい申し訳ありません、川島先生。では、最初は非MKMメンバーの川島先生から公平に勝負内容を考えてもらいます」
「はぁ……そうですね……」
さっきまで後ろ姿だけでよく分からなかったが、英語科の川島先生がいたようだ。確か道川先生と歳がちょっと近い……でも少し年上だったかな? まぁなんにせよ、それもあって道川先生と親しそうにしている女の先生だ。
『ポッ』
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川島 深雪
現在の心境:阿部先生ってこんなに変な人だったんですね……。引くわー……。
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あ、普通の感性を持っている人だ。
この学校で俺の周りにいる人って先生も生徒もなぜかみんなクレイジーだから、すごく安心する。今後は英語の授業に頑張って取り組むことにしよう。
「ええと、よく分かりませんけど、道川先生を巡っての争いなんですよね? なら……そうですね、道川先生のことをどれだけ知っているか、というのはいかがですか? 星座とか血液型とか」
「なるほど、良いですね。では、先に正解を答えられた方が勝ちという早答え形式にしましょう。何問ぐらい出します?」
「え、そうですね。私も別に道川先生に特別詳しいわけじゃ無いから……5問くらいかしら」
そう言ってスマホで何やら調べる川島先生。道川先生と雑談したメッセージとかSNSとかでも見ているのだろうか?
「よし、では早速始めましょうか」
「……は、はぁ……」
自信満々の阿部先生と戸惑い続けている坂下教諭。
いや、MKMとかいう変態集団を率いている阿部先生の方が有利でしょ、この勝負……。
川島先生もMKMの頭のおかしさを知っていれば安易にこんな勝負にしなかったかもしれないが、もはや俺にはどうにもできない。
こうして、阿部先生と坂下教諭による、男と男の真剣勝負が始まった。
1話で終わらせようと思ったのに、意外と長くなったので次に続きます。




