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25.先生達がデート(?)しているんですけど

原田姉妹が去った後、俺は本を一冊だけ買っていくことにした。

水瀬から借りた本の作家と同じ人だが、あらすじにスピード感のある群像劇とか書いてあったので、幾分読みやすそうだと思ったからである。

まぁ、水瀬の本から読む必要があるので、買ったこの本を読むのはまだ先だろう。


本をレジに持っていこうとするところで、ふと見知った顔が本屋いることに気づいた。

あれは、坂下教諭だ。

坂下教諭は『教育心理』と書かれた棚を中心に何やら本を漁っているようだった。

休日なのに、熱心だ……。正直に言って感動する。


『ポッ』

=================

坂下 亨

現在の心境:はぁ……今後も私などに相談してくる生徒は現れるのだろうか……?

しかし、もし現れてちゃんと対応できなければ……私に明日はない……。

=================


あ、俺のせいだった。

俺が生徒にしては珍しく坂下教諭に相談ごとをしたことを受けて、こうして坂下教諭はスクールカウンセリングの類の本を読みながら悩んでいるようだ。

まぁ、坂下教諭が考えすぎなところと謎の保身に走っているのは確かだが、生徒のために悩んでいることには相違ない。

頑張っている坂下教諭を邪魔するわけにはいかないので、俺はそのまま立ち去ろうとした。

だがそこにもう一人教員が現れた。


「坂下先生ー、奇遇ですねー」

「……道川先生」


道川先生だった。この2人の組み合わせを見る機会が最近多いな。


「相談心理ですか? 熱心ですねー」

「……あ、いえ、これは……」

「ここって、教育関係の本も多いので助かりますよねー」

「……そうですね。……道川先生も何かをお探しで?」

「え? あ、そ、そうですね!」


そう言って道川先生はさっと何か本らしきものを持っていた右手を後ろに隠す。

なんだ?


『ポッ』

=================

道川 早希

- 装備品

右手:恋愛小説

左手首:バングル

首:ネックレス

身体:ブラウス・カーディガン・ロングスカート

足:ヒールサンダル

=================


恋愛小説? 道川先生がそういうのを読むのはなんか意外だ。


『シュッ』

=================

道川 早希

現在の心境:坂下先生は熱心だなぁ。

今日は休日だし、仕事を忘れて小説でもと思ったんだけど……(^^;)

見習わないとなー

=================


あぁ、それで本を隠したのか。俺は休日だったら趣味のことだけ考えてても別に良いと思うけど。


「その学校カウンセリングの本、新しいですね。坂下先生は生徒から相談されることとか多いんですか?」

「……いえ、ほとんどないです」

「あー、まぁそんなもんですよね。私も勉強とか恋愛とか全く相談されないんですよねー」

「……私に至っては先日、一人の生徒が相談してきたぐらいですよ」

「あ、でもいるんですね。というかそれでこうして本を探されてたんですね。もし、その子のことで私も手伝えることがあればおっしゃってくださいー」

「……はい、ありがとうございます。とりあえずその生徒のことは大丈夫そうです」


自分が話題になっているかと思うと内心穏やかではいられない。

まぁ、あんまり坂下教諭も掘り下げて話すつもりがなさそうなので良かった。


「そうだ、坂下先生。この後の時間って空いてます?」

「…………はい?」

「先日いただいたケーキ、結局そのお代を払わせてくれなかったじゃないですかー。お礼にお茶ぐらいご馳走しますよー」

「…………は……い……?」

「近くに良い喫茶店があるんですけど、いかがですか? あ、それともスタバとかにしておきます?」

「……え、いや、その私は……」

「……あ、そっか、すみません。急な提案でご迷惑でしたよね。失礼いたしましたっ」

「……いえ、……ご一緒します……」

「本当ですか! ありがとうございますっ!」


今にも気を失いそうな虚ろな表情の坂下教諭と、対照的に満面の笑顔の道川先生。

え、なにこれ? デートなの? ねぇ、デートなの!?


『シュッ』

=================

坂下 亨

現在の心境:……断り……きれなかった……。

……私は知っている……。これはきっと……美人局だ……。

=================


坂下教諭は素直にデートだと解釈してよ!

喜ぼうよ! 相手は道川先生だよ!? Fだよ!? はぁー嫉妬するわー!


道川先生は坂下教諭を促し、二人とも本の会計を済ませた後、結局スター●ックスに向かった。

俺も慌てて本の会計を済ませた後、二人の後を追いかけた。


スタバで坂下教諭と道川先生が席に着くのを見届けると俺も入店した。

よく考えたら俺、スタバに入ったことなかったわ。

ええと、って高っ! なんで飲み物の1杯でこんなに金を取るんだよ!?

あと、聞いてはいたけどサイズ! S・M・Lで良いじゃん! なんでTallとか格好つけるんだよ!?

レジの前で固める俺に若い男性店員さんが話しかける。


「ええと、いかがされます?」


マズイ。不審に思われてしまう。

尾行中はなるべく自然に振る舞い、その環境に溶け込むことが重要だ。

少しでも変なことをしていると目立って、対象にバレる可能性がある。

俺はなるべく平静を装って、とりあえず目についた品を注文する。


「スター●ックス・ラテ、トールサイズで(キリッ)」


よし、どうだ? いい感じだろ?

俺はちらりと店員さんの心境を読む。そこには『初めてのスタバみたいだな……可愛いもんだ』と書かれていた。

……どうやらスタバで自然に振る舞うにはまだ俺は早いらしい……。


俺は、坂下教諭と道川先生が座る席のやや近く、そして二人の席に対して背を向けるような方向の椅子に座る。カモフラージュに買ったばかりの文庫本を開いた上で、聞き耳を立てる。

顔見知りの尾行をする際は、尾行が見つかる可能性が高い。そのため、見つかった際に相手に納得のいく言い訳……すなわち、別のことをしていたと言えるようにしておくことが重要だ。


以前、梨乃ちゃんがこっそり教えてくれたが、梨乃ちゃんは結菜を撮影する際は同じ型の別のカメラを用意し、その別のカメラで道にいる猫などを撮影しておき、もしストーキングが見つかった場合にはカメラをすり替え『猫を撮っていたら偶然結菜に会った』などの言い訳をするつもりだと言っていた。全く用意周到だ。


ここでの俺は偶然スタバで読書をしていただけで、先生達には全く気づいていないという設定で通すつもりだ。

…………なんで俺はこんな技術に詳しくなってしまったのだろう……。梨乃ちゃんのせいだ……。


「坂下先生、本当にただのドリップコーヒーだけで良かったんですか? お菓子とかも頼んで良かったんですよ?」

「……いえ、私にはこれで十分です」


どうやら道川先生の奢りにはなっているようだ。

ほら、坂下教諭。これで美人局なんて違うってわかるでしょ?


『シュッ』

=================

坂下 亨

現在の心境:……少しでも変な発言をしたり、例え事故であったとしても手など触れたら、その瞬間に検挙される可能性があるな……。

=================


いや、用心深すぎでしょ……。


「そういえば、先日の相互授業参観で坂下先生の数学を見に行きましたよ」

「……あぁ、いらしてましたね」


うちの学校では教員同士が授業を見学し合うことで、教員としての技量を研鑽することを行なっている。

そういえば先日やってたな。


「いやー、私って根っからの文系だったので、数学って難しくて」

「……わかり……にくかったですか?」

「あ、そういうことじゃないですよ。ただ、昔の私は『数学』って聞くだけで敬遠しているところあったんです。でも、教える立場から坂下先生をはじめとして色んな人の授業を見ると、教え方も人それぞれ工夫しているのが分かって、『数学』ってだけで苦手意識を持つのは良くなかったな、って思えるようになったんです。坂下先生の授業も演習問題を多めにした上での生徒の回答の細かいチェックをされていて、生徒の負担は大きいかもしれませんが実力は伸びるんじゃないかなーって思いましたよ」

「……そうですか。ふむ……、生徒の負担……そこはやはり考えものですね」


あれ、すごい真面目に話してる。なんか浮わついた気持ちでついてきた自分が恥ずかしいんですけど。


「坂下先生は、昔から数学がお好きだったんですか?」

「……あまりそういうわけでも無かったですね」

「え、じゃあどうやって好きになったんです?」

「……他に取り柄がなく、結果的に数学ばっかりになってしまっただけなんです」

「でも、今では好きなんですよね?」

「……そうですね。ずっと取り組んでいるうちに好きなれたと思います。道川先生はどうでしたか? 国語が好きになったきっかけは?」

「私は、国語というか古文が最初っから好きでしたね。あの趣のある文章が昔から使われていたと思うと感動しますし、昔に存在した人が残した特徴的な文章や感性とかが好きで! でも、古文以外がからきしだったので、先生になるのに苦労しちゃいました」

「……私も数学だけでしたよ。それに最初からその教科が好きだったのは羨ましいです」

「私からすると最初は好きで無かったものを得意なものにして、努力を続けて好きなものにしてしまった坂下先生の方が素敵だと思いますよ」

「……そ、そうですか……」


もしかして今、坂下教諭照れた!? くそう、ステータスを見るには直接その人を見なきゃいけないから、バレないように背を向けている今の状態だとできない! なんとか首をちょっとひねってステータスを……確認!


『ポッ』

=================

坂下 亨

現在の心境:……私を認めてくれる……珍しい人ですね……。

=================


これは……照れているのだろうか? ちょっとよく分からないな。


『リンッ』

=================

坂下 亨年齢:31

職業:高校教員

- 高校教員 Lv. 16→17 (パラメータが更新されました)

- 強迫観念 Lv. 47→45 (パラメータが更新されました)

- 数学 Lv. 31

- 頭痛 Lv. 21→20 (パラメータが更新されました)

=================


なんか道川先生とよく絡むようになってから徐々に改善されてくよな、教諭のステータス。


「それで、数学が得意だったから先生になったんですか?」

「…………」

「…………?」

「……いえ、そういうわけでも無かったのですが……。その、大学に行く際の進路を考える時、当時私は特になりたいものがなかったんです。ただその時、中学の時の先生が数学の成績とか数学に取り組む姿勢を褒めてくれた先生がいたことを思い出しましてね。気がついたら大学に進んだ後に、数学の専門教育の他に教職課程も取っていました」

「……素敵な先生だったんですね」

「……そう……だったんだと思います」


人に歴史あり……か。

坂下教諭もこれまで色々あったんだろうな。

その後坂下教諭と道川先生は、学校のことなど少し話してたが,しばらくして席を立った。

今日の会話は聞いちゃいいけなかったかな、と俺は正直反省した.

ごめんなさいと思いながら坂下教諭の背中を見る。


『シュッ』

=================

坂下 亨

現在の心境:……店を出た瞬間に変な男が出てきて美人局のイチャモンをつけてきたりは……し、しないよな? 道川先生に限ってそんなことは……ないよな?

=================


頑張れ・坂下教諭、負けるな・坂下教諭、いつか必ず道川先生を信頼できる日が来ると信じて!



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