24.クラスメイトの妹に会ったけど
ストックが尽きたのと急用が重なって投稿が遅れました......
翌朝、起きて学校に行く支度をしようとしていたのだが、ふと今日が祝日であったことを思い出した。
うわ、完全に忘れてた。危なく制服を着て自室を出るところだった。
結菜に見られたら、ひとしきりからかわれかねない。間一髪だったな。
俺は、とりあえず私服に着替え直す。
しかし、祝日か。
特に何も予定を入れていなかったので、特別やることがあるわけではない。
うーん。
あ、水瀬から借りた本があったんだった。あれを読まないとな。
俺は鞄から借りた本を取り出す。
水瀬から借りた本にちょっとでも傷をつけたくないという思いから、本を教科書で挟んだ上でビニール袋に包んでいた。
その状態の本をやっとこっさ取り出し読み始める。
時代設定はほぼ現代なのだが、書かれたのが20年近く前らしく、少し古く感じる。出だしとしては、現代に生きる人達が昔から伝わる幻の本を求めてあれやこれやするものであった。登場人物の周りで起こる少し不思議な現象と幻の本の存在により、確かに幻想的な世界観が出来上がっている。そして、驚くほど描写が丁寧なので、それを理解するために読む速度も自然とゆっくりになる。
まだ物語は序盤なのに、いつの間にか昼に近い時間になっていた。
これは確かに水瀬の言っていた通り、読み切るのに時間がかかってしまいそうだ。
俺は、一旦本を置いて昼食を取ることにした。
そして、午後。俺は本屋に出かけることにした。
水瀬から借りた本の続きを読もうかとも思ったが、水瀬から教えてもらった作家さんが他にどういう本を書いているかとかも調べておきたいし、もし他に気になる本があったら水瀬が読んでみたことがあるかどうか聞くという話題探しをしておこうと思ったのだ。
近所の本屋に行き、借りた本の作家でもある恩野空の本を探す。
「お、多いな……」
この作家さんの本は一つの出版社だけでとりあえず10冊近くあった。
他の出版社も含めたらもっと多いだろう。
ううむ。とりあえず何冊かあらすじを読んで面白そうなものをチェックしておこう。
あとは、他の作家さんも少し探してみようかな……
「……わぷ……」
俺が振り返って他の棚に行こうとしたところで小さな女の子にぶつかってしまった。
「あ、ごめんね。大丈夫かい?」
「……はい」
女の子は小さく答えた。
なんだか瞼が半開きでちょっと眠そうな顔をしている。
強くぶつかったわけでは無いので大丈夫だとは思うが、表情が読みにくくて本当に大丈夫なんだかよく分からない。
「桃香ー? 何してるのー?」
と、そこに女の子に話しかける人が現れた……と思ったら原田じゃん。
「あれ? 原田?」
「え、高瀬? 何してんの……って、あんたまさか桃香に変なことして無いでしょうね!?」
会ってすぐに言いがかりをつけてくるあたり流石原田だ。
「何もしてねぇよ!」
「本当でしょうね?」
「本当だよ!」
「……その人は……まぁ、一応変なことはしてないですよ、お姉ちゃん」
小さい女の子が原田を止めに入る。
ん? お姉ちゃん?
「うん? 原田、この子ってお前の妹か?」
「あぁ、うん、そう。妹の桃香。手を出したら刈り取るよ?」
そう言ってフォークを二本交差させるように持つ原田。
「何を!?」
「え、命?」
「相変わらず物騒ですねぇ!?」
フォークが命を刈り取る形しちゃってるよ!
いや、それにしても……
「なぁ、原田……? 本当にこの子はお前の妹なのか?」
「はぁ? だからそう言ってんじゃん」
『ポッ』
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原田 桃香
年齢:11
職業:小学生
- 女子小学生 Lv. 28
- お昼寝 Lv. 22
- 読書 Lv. 7
- アニメ好き Lv. 9
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ううむ、確かに名字が原田だ……。
でも、にわかに信じられないよ……!
だって、この桃香ちゃんって女の子……原田と違って、胸がデカイんだもん。
「高瀬、静脈の本数を増やしてあげようか?」
そう言って首元にフォークを突きつける原田。
「普通にやめてもらえませんかね!?」
静脈を増やしているんじゃなくて、切って分割しているだけですよー、って笑えないからやめて!
いや、でもね! この桃香ちゃんって子、多分結菜よりも小さくて、小学校高学年ぐらいだと思うけど、身長に比べると大きんだもん! 本当に血が繋がっているの!?
「くっ、私だってね……私だってね……! 毎日揉んでるのに全然大きくならないのよ! それなのにまだ中学生にもなってない妹がこれって我慢できないのよ! ううううう!!」
「原田!? 本屋で叫ぶことじゃ無い! 落ち着け!」
急に泣き出す原田。こんな原田の姿は見たことないよ!? 本当に苦しんでるんだな……。
小学生の妹に胸の大きさで負ける姉……。
あぁ、こうしてコンプレックスをこじらせてしまったんだな、原田は。
「あの、あんまり姉を泣かせないでください。姉に薄くて厳しい現実を突きつけないであげてください」
「桃香ー! 暗に煽ってるでしょ、あんた!」
「お姉ちゃん、後頭部を鷲掴みしないでください。結構痛いです。何にせよ、私に暴行してもお姉ちゃんのそれは増加しませんよ?」
「それを言わないでええええええ!」
妹に煽られて泣き崩れる原田。そのまま本棚の陰で膝を抱えて丸くなり、『どうせ私は壁なんだ……』とかブツブツ独り言を言い始めた。流石にかわいそうだ。
「ふう。姉が取り乱してしまって失礼しました」
「君がトドメをさしていたと思うんだけど。あと、あの状態のお姉さんを放置して良いのかい?」
「まぁ、気にしなくて大丈夫ですよ」
「姉と違ってマイペースだね、君は……」
あの原田がこうも簡単に戦意を喪失するとは。原田にとって、桃香ちゃんはある意味弱点みたいな存在なのかもしれない。
当の桃香ちゃんは相変わらずの眠そうな表情のままで、こちらを見上げる。
「あの……あなたは、敦くん……ではないですよね?」
敦を知っているのか?
「いや、俺は高瀬結樹。敦……与田敦は俺の友達だ」
「あぁ。やっぱりあなたは残念な高瀬さんでしたか」
「なんで初対面の女の子に残念とか言われなきゃならないのかな?」
「姉から色々聞いています」
「……ちなみに俺のことはなんて聞いているの?」
「敦くんを奪おうとする恋のライバルだと」
「いや、おかしいでしょ!? 俺も敦も男だし!」
「それを聞いて、てっきり高瀬さんはホモかと思っていましたが」
「違うよ!」
なんで原田の中ではそうなってしまうんですかねぇ!?
「高瀬さんが果たして本当にホモかどうかの真偽はどうでも良いとして、お願いしたいことがあるのですが」
「それ俺にとってはちゃんと真偽をしっかりしてほしいことなんですけど!?」
「分かりました。真ですね」
「偽だよ!」
ホモ認定しないで!
「お願いしたいことは、その敦くんとやらの人に関することなんです」
「え、敦に何かあるのか?」
「……姉の話からの推測なのですが、姉が敦さんのことをとても好きなことは高瀬さんも知っているかと思います」
「そうだな」
「全く、私はその敦くんとやらに会ったことすら無いのに、姉は毎日のように敦さんのことを私に話してきますからね……」
うわー、それめちゃくちゃ反応に困るやつだ。
桃香ちゃんは少し遠い目をしながらため息をつく。
「ただ、姉の話から察するに、姉は普段から敦さんを好きなことを隠せてないと思うのですが、当の敦さんはそれに気づかないんですか?」
「あー、それが本当に気づいてないんだよなぁ……」
「そうですか。相当に鈍感な人なんですね」
なにせ女性の興味の対象が一般的な高校生と異なるからな、敦は。
「まぁ、そうかもしれん」
「そこでお願いです。敦さんに姉の想いを……少しだけ伝えてはいただけませんか?」
「……え?」
「あの姉はあれだけガサツなのに、変なところで乙女なので、きっと自分からきちんとした告白とかできないと思います。そして、相手の敦さんはそんなことに気づかない鈍感な人となると、多分姉がいくつになっても進展しないと思います」
「君のお姉さんに対する評価は結構辛辣なんだね……」
「なので、姉の恋路を少しでも進めて欲しいのです。姉からすると迷惑かもしれません。でも、姉がこれだけ愛しているのに、その恋路が全く先に進まないのは正直見ていられません。というか毎日愚痴とか色々聞かされるのに耐えられません」
「君はお姉さんに優しいのか厳しいのか本当にわからないね」
「まぁ、あれでも大切な姉ですから。良いところもいっぱいあるのですよ? その姉の恋が成就するならこんなに嬉しいことはないです」
こんなに妹に想われているなんて、幸せじゃないか、原田。そこで膝を抱えて俯いている場合じゃないぞ?
「なるほど。ちなみに、お姉さんの良いところって例えばどんなの?」
「………………」
「………………」
「………………それはさておき、お願いできますか?」
「そこは即答してあげようよ……」
しかし、前々から今井さんに原田のことを応援するように頼まれてたし、やぶさかではないんだけど……。そういうのってやっぱり原田の了承なしに進めて良いのかなぁ……。
「うーん……遠回しでも良ければ、何かするよ? その敦に『好かれてるっぽく見えるけど、実際のとこ原田のことどうよ?』みたいな感じの軽めのノリで聞いてみるとか……」
「そういった感じで構いません。少しでも姉を意識させていただければ十分です」
この程度で意識……するのだろうか? あの熟女好きは……?
「そういえば……あと一つ聞きたかったのですが……」
「なんだい?」
「この間、姉が嬉々として手作り弁当を持って出かけたのですが……、犠牲者は出てしまいましたか?」
「あー……」
原田の料理の恐ろしさは家族も理解しているんだな……。
「件の敦がやられた」
「!? ということはもう敦さんはこの世に……?」
「いや、気は失ったが、生きている。しかも、今の所、料理以外に別の原因があると勘違いしてくれているみたいだ」
「なら良かったです。それが最大のネックだったんです。今後は姉に料理をさせる機会を与えないでください。私、犯罪者の家族になりたくないので」
「君、時々お姉さんに対してドライだよね……」
と、ここで今までショックで虚脱状態にあった原田が、膝を抱えたままだがようやく俺達に声をかけた。
「……はん。私に隠れて何をコソコソ話してたわけ?」
「いや、その、大したこと話してないが」
「ふーん、へぇ、そう……」
「お前、まだ落ち込んでいるのか?」
「そりゃ、落ち込むわよ。小学生より貧乳な私を笑うが良いわ」
「いや、笑えないよ……」
「いいのよ? 遠慮しないで。笑えばいいわ。アーハッハッハッって」
「……アーハッハッハッ」
「コロス」
「流石に理不尽でしょ!?」
どうすれば良かったのさ!?
「お姉ちゃん。人様に迷惑をかけるのはそこまでですよー」
「ちょっと桃香!?」
「では、高瀬さん。先ほどの件、宜しくお願いします」
「お、おう」
「ちょっと、先ほどの件って何!? あんた高瀬と何を話していたの!?」
「はいはい、胸部装甲が厚くなったら教えてあげますよー」
「ふざけないでよ桃香ーー!」
桃香ちゃんが原田の腕を引っ張りながら去っていった。
あの原田をあそこまで完封するとは……。本当にすごいな。
原田姉妹……。どうやら妹の方が性格も胸も大人のようだった。
……などと考えた俺の頭に向かってフォークが飛来し,今まさに刺さろうとしていたことは言うまでもない。




