16.作戦を決行しているのだけど③
波乱の昼食も終わり、いよいよデート作戦の本番・水族館に行くこととなった。
「ほう、水族館は滅多に来ないが、こんなに色んな生物がいるんだな」
「そ、そうだね、敦くん!」
今回も原田と敦が先に進んで、俺と今井さんが後から追う展開。
そして、デート作戦は前を行く2人に聞かれないようにL●NEでやり取りをしている。
Akina『この後に、この水族館の目玉の一つである大量のイワシが音と光とともに回遊する大型水槽があるの』午後2:14
高瀬結樹『ほう』午後2:14
Akina『そこで、私達2人がはぐれたフリをして、杏香と与田くんを二人っきりにする段取りよ』午後2:15
高瀬結樹『りょーかい(スタンプ)』午後2:15
…………。
ちっ、可愛い感じの『りょーかい』スタンプを送ったのに無視された。くそう。
しかし、良いアイディアだ。パンフレットを見ると中々幻想的な演出らしく、デートにはもってこいだ。
「よし、2人が目的地に着いたわ! 隠れましょう!」
「了解! あ、でもこれだと2人の様子が分からないね」
「大丈夫。こんな時のために杏香に盗聴器を仕込んでいるから」
「なるほど……っていや、何しれっと友人に盗聴器仕掛けてんの!?」
「うるさい、静かにして」
いや、盗聴器はおかしいでしょ!? なんで持っているわけ!?
盗撮マスターの梨乃ちゃんといい、最近の女子中高生ってみんなこうなの!?
『あ、敦くん。その綺麗だねっ!』
『そうだな、イワシの1匹1匹をみてもそんなに感動しないが、こうして群で回遊しているのを見ると中々に素敵だな』
あ、良い雰囲気。
「よし、良いわよ、杏香!」
今井さんが隠れている物陰から顔を出し、双眼鏡で観察し始める。
なんか本格的に梨乃ちゃんといるみたいになってきた。
いや、まぁ今井さんが百合ではないことは分かっているんだけどさ。
「そうよ! 杏香! そこで手を握ってしまいなさいっ!」
なんていうか若者を応援するおばちゃんみたいだ。
原田が震えながらも敦の腕に手を近づける……
『あれ、そういえばユーキ達がいないな?』
『えっ』
『こんなに綺麗なものが見られるのにもったいない! ちょっと、探してくる!』
『ちょっ、敦くん!?』
そうして原田を置いて、一人でうろつき始める敦。
あのバカ! 何で隣に女の子がいるのに俺のことを気にするんだよ!
『ポッ』
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原田 杏香
現在の心境:またなの……? また、高瀬なの……?
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ほら、俺の命が危うくなるから本当にやめてよ!
「与田くんって……ホモ?」
「ちげえよ! あいつはただのじゅ……」
「じゅ?」
「いや、とにかくあいつはそんなんじゃねえし、俺と敦はただの友達だよ!」
あー、もう熟女好きだってバラしてやりたいわ、ちくしょー!
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Akina『さっきは失敗に終わったけど、今度は成功させるわよ』午後3:04
高瀬結樹『おうよ』午後3:04
今度は水族館の定番イルカショーでリベンジである。
Akina『さっきの失敗は、私達2人が理由もなく、いなくなったからだと思う』午後3:06
高瀬結樹『なるほど』午後3:06
Akina『だから今度はイルカショーの席を4人分確保した上で、理由をつけて2人っきりにするっていう段取りよ』午後3:08
高瀬結樹『ふむふむ、理由はどうするんだ?』午後3:08
Akina『その辺は考えているわ。任せておいて!』午後3:09
高瀬結樹『分かりやした、姉御!』午後3:09
Akina『その呼び方キモいからやめて』午後3:09
高瀬結樹『あ、はい』午後3:09
『リンッ』
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今井 明奈
結樹への評価:役立たず
- 好感度 5→4 (パラメータが更新されました)
- 信頼度 8
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順調に下がるねぇ!
ちょっとふざけただけなのに……。
ともかく、作戦実行だ。
「丁度よく4人分の席が確保できて良かったな」
「そうね!敦くん!」
ふむ、やはり原田は大分気兼ねなく話せるようになってきたな。
さて、今井さんはどう理由をつけて2人っきりにするんだ……?
ゴスッ!
「ガハッ!?」
なんで!? なんで急に殴るの、今井さん!?
あと、顎の先を狙うのはやめて! 意識が刈り取られちゃうよ!
「た、高瀬くん!? 急にぐったりしてどうしたの!? はっ、もしかして熱中症!? こうしちゃいられない! 早く日陰で水分を取らなくちゃ!」
そういうことか、今井さん……謀ったな……!
「なに!? ユーキ、大丈夫か!? よし、俺が連れて行こう!」
「ううん、与田くん! これは私が楽しくて、つい高瀬くんを引っ張り回しちゃったせい……! 責任を持って私が面倒みたいの!」
心にも思ってないだろ。
「ううむ、いや、しかし……」
「いいから、いいから! 与田くんと杏香はここでイルカショーを観ながら待ってて! 多分すぐに戻ってこられるから!」
そうして、俺を軽く担ぐようにして歩み出す今井さん。
そして、耳元でこう囁く。
「体重かけないで。ちゃんと自分の足で歩きなさい」
ちょっと俺の扱いひどすぎませんかねぇ!?
ここは嘘でも『ごめんね、本当は殴りたくなかったんだけど……』とか言ってよ!
敦たちが見えなくなるぐらい離れると、今井さんは担いでいた俺をポイっと放り投げた。
なにこの所業。悪魔か。
そして、今井さんは盗聴器で2人の様子を窺い始めた。
『ふむ……ユーキの奴、大丈夫だろうか……』
『あ、イルカショー始まったよ!』
原田も少しくらい俺の心配してよ。
始まったイルカショーはこの水族館の目玉と言うだけあって、中々すごい出し物を披露していく。
超高くイルカが飛び上がったり、イルカが直立しながら海面を進むなど、遠くで見ていても思わず歓声が漏れてしまうものが続く。
『ほう、イルカショーなど久しぶりだけど、イルカの身体能力はやはりすごいな……』
『ねっ! あんなに高く跳ぶなんてね!』
「よし、杏香……雰囲気は悪くないわよ……! さぁ、手を握って……いや、もう腕を抱きしめて一気に距離を縮めるのよ!」
熱の入った応援をする今井さん。
やっぱなんかおばちゃんっぽいよな。
とそこに、思わぬ闖入者が現れた。
「あら、すみません、この席空いてなかった……ですか?」
俺と今井さんが座らなかった席が、空席だと思って座ろうとしてきた中年女性2人が現れた。
うん? いや、あれ、まさか……
「あ、ここは遅れてくる友人の席で……って、菜美さ……ユーキのお母さん!?」
「あら、敦くんじゃないの! 奇遇ね!」
なんでここで俺の母親が出てくんだよ!?
あ、朝に隣の奥さんと出かけるって言ってたけど、まさかのここかよ!
あと、敦! 俺の母親のこと名前で呼ぶのやめろって言ってんだろ!
「はい、そうですね! あ、この席、ユーキと他のクラスメイトの席なんですが戻ってくるまで座ってもらって大丈夫ですよ!」
「あら、ありがとう」
そういって席を勧める敦。
大丈夫か、原田のやつ? 居心地悪いでしょ、絶対。
「え、えーと、高瀬……くんのお母さん……?」
「あ、はい、そうです。あら、もしかして敦くんの彼女さん?」
「い、いえ、私まだ、そんなんじゃ……」
「あはは、残念ながら仲の良いクラスメイトです」
おい、原田。『まだ』って自分の欲望漏れてるぞ。
それにしても、敦のやつ、熟女好きなのに『残念ながら』とか言って原田のことを持ち上げる器量を持っていたか。
『ポッ』
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与田 敦
現在の心境:菜美さんとこんなところで会えるとは運命を感じてしまうな……!
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勝手に他人様の母親に運命感じてんじゃねぇ!
クソ、感心して損したわ!
その後も原田をそっちのけで俺の母親と談笑を続ける敦。
あぁ……原田の顔がどんどん暗く……。
『ポッ』
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原田 杏香
現在の心境:あれ、おかしいな……さっきまで敦くんと仲良く話していたのに……。今は敦くんは高瀬のお母さんとずっと話している……。え、なんで……。う……。
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うわぁ、マジで心苦しい……。
『シュッ』
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原田 杏香
現在の心境:あれも……これも……高瀬が悪いよ、高瀬が!
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え? あれ!? 俺が悪いの!?
いや、俺の母親のせいなのもあるけどちょっと理不尽じゃない!?
『シュッ』
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原田 杏香
現在の心境:八つ裂きにしないと……!
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逃げなきゃ! イルカショーが終わったらすぐに逃げなきゃ殺されるっ!
内心焦る俺に対して、隣にいた今井さんが呆れた顔をこちらに向けてきた。
「いや、あのさぁ…… 、与田くん……なんであんたの母親とあんなに仲良いの……?」
ドン引きしていた。
すみません! 俺の親友が熟女好きで本当にすみません!!
こうしてデート作戦は、敦以外は誰も喜ばない形で失敗に終わることとなった。
いや、本当にダメだよ、敦……。こいつ、早くなんとかしないと……。
俺は、原田の抱く恋心をなんとかして自分の親友に理解させようと心に誓った。
デート作戦編、終わります。
今回で終わりと言っておきながらアレですが、デート作戦編のちょっとした後日談的なものを次回投稿する見込みです。