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15.作戦を決行しているのだけど②

公園にやってきた俺達4人は、バレーボールで軽く汗を流す運びとなった。

一応、2対2のチーム戦になっているのだが、ネットがあるわけでもないのでパス回しの延長のお遊び程度だ。

ちなみに、チーム分けは俺と敦の男チームと、今井さんと原田の女チームになっている。

最初は、敦と原田を同じチームにしようと画策したのだが、2人が経験者なので別チームにせざるを得なかった。


「ほれ、いくぞー!」

「わ、敦くんっ! スパイク強いよー!」


敦と原田は良い感じにワイワイしながらバレーボールを楽しんでいる。

敦は基本的に誰に対しても明るく接することができるから、原田の緊張が解けてきたお陰で仲良く見えるのだろう。

こうも楽しそうに遊ばれると、相手があの原田(ひんにゅう)であっても敦が羨ましいと思……ガスッ!……頭に原田からの強烈なスパイクが決まりましたねぇ! こんな状況でも俺は狙われるんですか!

いや、まぁ今の原田の様子は喜ばしいと思うよ。

それに引き換え……


「はぁはぁ……」


血走った目でボールを追い続ける今井さん。正直怖い。


『ポッ』

=================

今井 明奈

現在の心境:早く……あの呪われた弁当箱を……破壊しろォ! 高瀬ェ!

=================


心の中まで怖い。生死がかかると人はこんなにもおかしくなってしまうんだね……。

ていうか普段は高瀬『くん』って呼んでくれてたよね? 心の中では呼びすてですか。

今井さんも原田の成長を喜んでよ。いや、まぁ胸こそは成長してないけ……ガスッ!……ははっ、原田のスパイクは痛いなぁ!


しかし、弁当箱は本当になんとかしなければならないので、俺もタイミングを見計らって、弁当箱のある方向に向けてスパイクを放つのだが……


「おっと、ユーキ、まだ終わらせないぜっ!」


敦がファインセーブを連発して全て不発に終わっている。

今井さんもスパイクを……


「砕け散れェ!!!」


……呪詛の言葉と共に放っているが、


「よっと、これはアウト。力みすぎだよ、今井さん」


敦が瞬時に拾いに行って受け止めるので目標物の破壊に至っていない。

敦……お前の命のためにやっていることでもあるんだぞ? 少しは手を抜いてくれ……。


そして、そうこうしているうちにお昼時になってしまっていた。


「あ、敦くん! そろそろ終わりにする?」

「お、そうだな。いやー、部活でやるの違ってこういうバレーボールも楽しいもんだな! ユーキも今井さんも力みがちだったけど、スパイクとかすげー鋭いし、きっと上手くなるぜ!」

「お、おう、ありがとな……」

「……」


敦先生からお褒めの言葉をいただいたがまったく嬉しくない。

今井さんに至っては、BLE●CHで万策尽きた主人公みたいな絶望的な表情をしているし。


『シュッ』

=================

今井 明奈

現在の心境:終わりだ……。……パパ……ママ……、さようなら……。

=================


今井さん……こんなことで死を受け入れないでよ……。

しかし、俺と今井さんは失敗してしまったのだ……弁当箱破壊ミッションに……。


「えへへ、美味しくできていると思うんだけど……」


そう言いながらビニールシートにお弁当箱を並べる原田。

中身は、おにぎりと野菜炒めと、ハンバーグか。

見た目は割と美味しそうに見えるけど……。


「フシューフシューフシュー」


今井さん、呼吸がおかしい。息の仕方を思い出して。


「えーと、原田…シェフ、メニューの解説をお願いしても良いかな?」

「え、解説と言っても、割と普通だよ?」

「フシューフシュー(フルフル)」


今井さんが呼吸を忘れたまま首を振って『普通なことあるものか!』と主張している。

俺からすると今井さんが普通じゃない。


「普通? 具とかは?」

「うーん? ふりかけとかだから特に工夫してないよー」


なんだ、おかしな要素は特にないじゃないか。

ただのご飯なら安心して食べられそうだな……


『シュッ』

=================

原田 杏香

現在の心境:お米をちゃんと洗剤で洗って、漂白剤で綺麗にしてそのまま炊いたから大丈夫!

=================


前言撤回。全然安心できない。

待って、高校生にもなって何でこいつは米もロクに炊けないんだよ!?

他の食べ物もヤバいんじゃ……?


「え、えーと、野菜炒めは……?」

「あ、これはね、うちの家庭菜園で採れた野菜を使っているの!」


家庭菜園とな?


『シュッ』

=================

原田 杏香

現在の心境:色々育ててるんだよねー。カイワレ大根やジャガイモ、玉ねぎ、スイセンとか!

=================


ん? スイセン……?

えっと、確かそれってニラに似ているけど、毒……だよね?

この野菜炒めのニラみたいなやつって……。

俺は理解した、今井さんの怯えを。そして、身に差し迫った恐怖を……。


「フシューフシュー……えっと、この……ハンバーグは?」

「あーそれも普通のハンバーグだよ? 作り方はちょっと工夫したけど!」


俺もなんだか今井さんみたいな呼吸法になっている。

えっと、もうこれ絶対普通のハンバーグじゃないよね?


『シュッ』

=================

原田 杏香

現在の心境:一晩寝かした方が良いって言うから、なんか色々混ぜて手ごねしたひき肉をあえて一晩常温放置して、その後……

=================


下ごしらえの段階でアウトだった。

一晩寝かせた方が美味しいのはカレーだし、カレーだって放置するのは熱を通した後だよ!

あと、色々って何!? 何を混ぜた!? もう怖くて仕方ないよ!

これが三年前、今井家を恐怖のどん底に陥れた料理の才覚か……!

これは……食べてはいけない……!


「あ、しまった、朝から続いていた腹痛が急にひどくなってきた……!」

「お、おい。大丈夫か、ユーキ!?」


俺が取った行動は仮病。ここで死んでたまるかぁ!


「何言っているのー、高瀬くんー。さっきあんなに機敏に動いていたのに腹痛とか信じられないよー。あ、ひょっとして杏香にお昼をご馳走になるのを遠慮しているなぁ〜」


目の死んだ今井さんが引きつった笑みを浮かべながらそう言った。

ちくしょう、今井さん! 俺が逃げるのを阻止する気だな!?


『シュッ』

=================

今井 明奈

現在の心境:高瀬ェ……。一人だけ逃げようなんて許さないよ……? ほら、一緒に死のう……?

=================


くっ、今井さんが集団自殺志願者みたいな精神をし始めた! これはいけない!


「別に遠慮はいらないよ? 敦くんのためとはいえ、いっぱい作ってきちゃったから食べてよ? 余してもしょうがないし」


くそう、何で今日に限って原田がこんなに優しいんだ!


「ふむ、確かに余してもしょうがないしな。ユーキ、腹が落ち着いたらちゃんと食えよ? 俺は先にいただいているからな?」


あ、ダメだ、敦! お前を、お前をまだ死なせたくはない……!

俺の心の叫びも虚しく、敦はハンバーグを一口食べた……食べてしまった……。


「ほう、中々おいし……ゴフゥ!?」


突然、敦が目を見開いて後ろに仰け反って倒れた。

あぁ、尊い命が…!


「あ、敦くん!?」

「与田くん!? 無事!?」


慌てて駆け寄る原田と今井さん。

そして、その混乱に乗じて、今井さんは駆け寄る際にさりげなくお弁当箱を蹴ってひっくり返した……!

おお! すごいぞ、今井さん! ファインプレーだ!!


『シュッ』

=================

今井 明奈

現在の心境:ありがとう、与田くん。チャンスを作ってくれて。あなたの犠牲忘れないわ。

=================


よく見たら敦を心配そうに見つめる今井さんの口元が笑みで引きつっている!

ちょっとは自重してよ! 宿敵を倒した時の夜●月君みたいですよ!?

ていうか、あなた今日は原田と敦をくっつけるために来たはずなのに、なんでその片方が命を落とそうとしている状況で平然としていられるの!?


数分後、敦は奇跡的に目を覚ました。

彼曰く、


「何か脳内に刺激が走ったと思ったら、気を失った」


とのこと。一口食べて脳内に刺激が走る料理って何なのさ……。

ただ、そのあまりの衝撃から、原田の料理が不味いというより、何か他の原因があるのでは……と敦は考えたようで、原田のことを責めることはなかった。

ふぅ、一件落着だぜ。


ちなみに、原田の弁当は今井さんのおかげで台無しになったので、公園内の屋台みたいなところで何品か買って食べることにした。いやー、命拾いした。


そして、我々は本来の目的である敦と原田を良い感じするため、水族館に向かうのであった。



デート作戦編、次回で終わります。

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