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11.愛があってもストーキングは犯罪なのだけど

気になっていた女の子が自分を踏みたがっているという衝撃的な事実が明らかになった。

いや、本当にどうしたらいいんだろうね。

今度どういう話をすれば良いのか全然分からないもん。

よく分かんないもん。困るもん。

錯乱して語尾もおかしくなってきたよ。


「うん?」


家路を急ぐ結樹は、ふと見たことある顔を見かけたような気がした。

あれ、さっきまでそこの電柱の影に誰かいたような...?

しかし、そこには誰もいない。

首をひねりながら、もう一度辺りを見回す。


「あ、梨乃ちゃんだ...…ってクソ速いっ!?」


梨乃ちゃんが、物音は一切立てずに電柱の影から影に高速移動していた。

えぇ...…忍者か何かですか...…?

速すぎて俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

高速移動する梨乃ちゃんに何とか追いつき声をかける。


「梨乃ちゃん? 何してるのさ?」

「!? お、お兄さんですか..….。私の背後に立つとは...…流石ですね...…!」


何がどう流石なんだろう。


「で、何しているわけさ?」

「? 結菜ちゃんをストーキングしているだけですが?」

「いや、さも当然のように犯罪行為をカミングアウトしないでくれる?」

「はい? お兄さんも結菜ちゃんの後をつけ回しますよね、普通に考えて?」

「とりあえず俺が妹をストーキングして然るべきという前提をやめてもらって良いですかね?」


あと、梨乃ちゃんの普通は普通じゃないからね?


「何を言っているんですか! 結菜ちゃんの行動は24時間365日欠かさず観察したくなるのが、世の常というものです!」

「お願いだから世の常って言葉、勉強し直して!」


この子は国語も道徳も絶対に足りてないよ!


「全く呆れました...。まぁ、とりあえず結菜ちゃんの聖遺物(パンツ)を貸してもらって良いですか?」

「うん、何で俺が妹のパンツを持ち歩いていると思っているわけ?」

「え!? お兄さんほどの人だったら、結菜ちゃんの聖遺物(パンツ)を御守りとして持ち歩きますよね??」

「俺ってどんなイメージ持たれているんですかね!?」

「え、いや、お兄さんのことですから、疲れが溜まってくる午後の授業あたりでおもむろに結菜ちゃんの聖遺物(パンツ)を取り出して、『ふぅ、やっぱり疲れた時には妹のパンツの匂いを嗅いでリフレッシュだぜ! 妹アロマ最高!!』とか言っているんじゃないんですか!?」

「んなわけあるかぁ!!!」


やっぱりこの子クレイジーすぎるよ!!


「おっと、結菜ちゃんが動き始めましたね。お兄さんも一緒に追跡しましょう」

「ナチュラルに俺をストーキングに誘うのやめてくれない?」

「ふむ、やはり結菜ちゃんの行動パターンはこれまでと変わらないですね。撮影しやすいルートもいつも通りなので助かります」

「こっちの話聞いてよ!? あと、結菜の行動パターンを把握した上で盗撮していることを平然と口にしないでもらえませんかねぇ!?」


気軽に犯罪行為に及ばないで!

よく見えてなかったけど、梨乃ちゃんの小さめの手でも収まるようなコンパクトなカメラ使って、撮影し続けていたようだ。

小さいけど、高そうなカメラだ。よくそんなの持っているな。


「結菜ちゃんはこうして私と一緒に帰らない日は、ちょっと寄り道をすることが多いんですよ」

「いつも一緒に帰っているのか?」

「基本的にはそうですよ。私は四六時中結菜ちゃんと一緒にいたいのはやまやまなんですが、一緒に居すぎて結菜ちゃんにとって完全に自由となる時間をなくすことはしたくないんですよ。だからたまに用事をつけて別行動するようにしているんです」

「ふむ……俺は友達相手にそういう配慮とか考えたことなかったな」

「私が気にし過ぎなだけかもしれませんけどね」

「そうか……」

「あと、こうして完全フリーになった結菜ちゃんがどういう行動を取るのか観察することも興奮するのでそうしてます」

「少しでも君の友達想いに感動した自分を殴りたい」


そう言いつつ結菜に全く気付かれることなく流れるような動きで背後をつけていく梨乃ちゃん。

この子本当にヤバい。


「やはりここに来ましたか……」


気がつくと結菜はアニ●イトに来ていた。

そういえば日曜朝のアニメとかすごいこっそり観ていたな結菜。

堂々と見りゃいいのに。


「よく来ているのか?」

「来てはいるんですが、どうにも入店する勇気が出ないみたいで、近くをうろついた挙句結局入店せずに、近くのたい焼き屋でクリームたい焼きを買って帰ることが多いです。夏場だとソフトクリームの場合もあります」

「思いの外情報量のある答えが返ってきて引くわ」

「結菜ちゃんは基本的にオタクと言うよりはただのプリ●ュア好きですからね。他のグッズも多い店には入りにくいですし、中学生にもなって小さい子向けのアニメを見ていることにも抵抗があるのでしょう」

「本当に詳しいな……。まぁ別に今時大人がプリ●ュア見てても全然問題ないと思うけどね」

「ちなみに私も結菜ちゃんの嗜好を把握するために必ず観ています」

「そんなこったろうとは思ったよ」

「……! 結菜ちゃんに新たな動きが!」


見ると、結菜がアニ●イトに足を踏み入れたところだった。


「ついに意を決したんですね、結菜ちゃん! こうしてはいられない、ちゃんと記録をつけないと! 今日は結菜ちゃんのアニ●イト初来店記念日ですね!」

「ピンポイントすぎる記念日だね!?」

「他にも初カラオケ記念日やら初買い食い記念日もちゃんと記録してますし、1日に転んだ回数18回の最高記録達成日なども記録してます」

「すげぇ不名誉な記録! そんなに転んでるの結菜は!?」

「まぁ運動会の練習で色々あって転びまくってた日ですね。映像もあるのでお見せできますよ?」

「だから何で映像残してんだよ!? 見ねえよ!」

「しかし、困りましたね……。店の中がちょっと混み合っているので撮影しにくいですね…」


いや、そもそも店内撮影禁止とかじゃないの、普通?

良い子は真似しないでね。


「ふふふ、初めてのアニメ専門店だけあって、その雰囲気に戸惑ってますね! そんなところも可愛いです!」

「梨乃ちゃんは入ったことあるのか? こういうところ?」

「結菜ちゃんが行きそうなところは大抵下調べしています。内部の構造を把握して、撮影に適してかつ店の防犯カメラにも映りにくい場所を選定済みです」

「うん、もう聞かなかったことにするよ」


梨乃ちゃんはスパイか探偵あたりに何かになった方が良いよ。


「ほう、やはり結菜ちゃんはプリ●ュアの漫画版を手にしましたか」

「漫画なんてあるのか?」

「ありますよ。ただまぁ、アニメとはまた違った味わいがありますね。絵のタッチとかも特徴的です。普通の書店とかにも置いてあるんですけどね」

「詳しいな」

「全くお兄さんは……。結菜ちゃんがゆくゆく興味持ちそうなものは普通予習しておくものですよ?」

「できの悪い生徒を見るような目をしないで!」


なんで呆れられなきゃならないのさ!?


「あれ、高瀬氏?こんなところでどうしたんだ?」


その時、アニ●イトの棚の陰で女子中学生の撮影している2人に突如声をかける奴が現れた。


「げっ、正志……!」


そういえばこいつ今日はアニ●イトに行くとか言ってたな..….忘れてたぜ。


「『げっ』は偉大なる友人たる俺に失礼だろうがー……って誰その子?」


正志の視線は俺の隣で一心不乱に撮影をしている梨乃ちゃんに向かう。


「えーと、あー、俺の妹の友達だ」

「はっ!? ってことは女子中学生!? お前、年下に手を出してんのか!?」


ストライクゾーンの下限が4歳のお前に言われると心底腹が立つわ。


「手は出してねぇよ! 偶然居合わせたんだよ!」

「偶然ってお前、普段こんなとこ来ないだろ……。それともこの後別のところに連れ込んで……!」

「だからしねえよ! ややこしくなるからお前あっちいけよ!」


騒いで結菜に見つかったらそれこそ面倒なことになる!


「はぁー悲しいなぁ、おい! ベスト・フレンド・マサシさんにそんなことを言うなんてー。あーあ、粘着しちゃおっかなぁー!」


そう言いながらベタベタ触ってくる正志。


「くっそ、マジでやめろ!」

「ちょっと、お兄さん、さっきからうるさいですよ!? 結菜ちゃんの映像に変な声が入っちゃうじゃないですか!」

「お兄さん!? 高瀬、お前って奴は妹の友人ちゃんに『お兄さん』って呼ばれてんの!? はぁ、なにそれ!? 羨ましいんですけど!?」

「騒ぐな、うるせぇ!」

「だから、お兄さん、静かにしてください!」

「また『お兄さん』って言った! 俺も呼ばれたいぃ!」

「あー、もう何なんだよ、この状況!?」


面倒くさすぎる!


「分かった、正志! お前が前からオススメしてたアニメを一緒に観てやるから今は静かにしてくれ!」

「マジで!? 本当か!? アレはマジで名作だから感想聞きたかったんだよ! おっしゃ、早速帰って観ようぜ!」

「今からか!? 行動早いな!?」

「善は急げって言うだろう!」


そう言って俺を引っ張る正志。

くっ、面倒くさいが結菜に見つかるより、正志に少々時間を使わされる方がマシか……。


「お兄さん、結菜ちゃんの観察は任せてください! いつか映像を見せるので、一緒に楽しみましょうね!」


去りゆく俺にそう告げる梨乃ちゃん。梨乃ちゃん……君は親切心で言っているのかもしれないけど、妹の映像を見続けるのは僕にとっては苦行だからね?


こうして、俺はその日夜遅くまでアニメ鑑賞会に付き合わされた。


———————————————-


「た、ただいま……」

「ん? 兄貴、遅かったね? 何してたの?」

「いや、友達に付き合わされてね……」

「ふーん……。って、なんか泣いてた?」

「な、泣いているわけ……ないだろ」


いや、本当に名作だった。あんなアニメあったのか……。

泣けるわ。

正志と男二人で泣き続けたわ。


「ま、お父さんもお母さんももう寝ているから静かにしてあげなね」

「おう」


『リンッ』

俺に背を向け去っていく結菜のステータスがどうやら更新されていたようだ。


=================

高瀬 結菜

年齢:14

職業:中学生

- 女子中学生 Lv. 32

- お菓子作り Lv. 8

- アニメオタク Lv. 6→8 (パラメータが更新されました)

=================


結菜……成長したな。

兄妹揃って、オタクとして成長した日になった。


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