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10.気になる人に偶然会ったけど


坂下教諭と道川先生のゴタゴタを見届けた後、俺は時間を確認しようとカバンに入れていたはずのスマホを取り出そうとした。


「あれ、スマホがない」


おかしい。教室に忘れてきたか?

机の中に入れっぱなしだったかもしれない。

仕方なく教室に戻って机の中を確認すると、案の定スマホはそこに忘れられていた。

時間を浪費してしまった。やれやれ。


と、俺以外誰もいない教室に誰かが入ってきた。

水瀬詩織だった。


「み、水瀬、どうしたんだ?」

「あ、うーんと忘れ物しちゃってね。高瀬くんは何してたの?」

「はは、俺も忘れ物だよ」

「ありゃりゃ、高瀬くんもか」


あー、ヤバイ。名前を呼ばれるだけでもドキドキする。

しかも、二人揃って忘れ物とか運命勝手に感じちゃう。


「ちなみに何を忘れたんだ?俺はスマホ」

「数学課題のプリント。明後日までに提出しなきゃいけないやつ」

「あー、俺もやってなかったなぁ」

「ちゃんとやってこないと怖そうだもんね、坂下先生」


大丈夫、坂下教諭は全然怖くないよ。


「うーん、坂下教諭はそんなに怒らないとは思うけどなー」

「そう?まぁ、もしかしたら怒らないかもしれないけど睨んでいる感じなのがやっぱりちょっと怖くて」

「目つきはまぁ、否定しようがないかな」

「あはは、高瀬くんもやっぱりそう思うんだ。でも、人は見かけによらないっていうし、偏見は良くなかったね」


すごいぞ、俺。ちゃんと水瀬と話せている。


「えーと、あ、あったあった。やっぱり机にプリント忘れてたー、あっ!」


水瀬の取り出したプリントが急に吹いた風に煽られて宙に舞う。

今日の日直、窓を閉め忘れたな。

宙を舞ったプリントは、何回か回転しながら俺の足元に滑り込んできた。


「よっと」


俺はしゃがんでプリントを拾おうとする。

床とプリントが綺麗に密着する形になってて拾いにくい。


「あ、ごめんね。拾ってくれてありがとうー」


水瀬がこっちに向かいながらお礼を言ってくれた。

水瀬からお礼を言われるとか、忘れ物して本当に良かったぜ。

まぁ、こんなことでは俺に対する水瀬の評価は変わらないだろうが、少しずつ話せる量を増やしていきたいな。

水瀬の気持ちもある程度ステータスで見れるし、きっとコミュニケーションはしやすいはずだ。

そう思いながら、しゃがんだままの俺に向かってくる水瀬の心境を開いた。


『ポッ』

=================

水瀬 詩織

現在の心境:はぁ、このまま踏みたい……。

=================


「踏みたい!?」


どういう心境ですか!? 全然コミュニケーションしやすい気がしない!


「え? ちょ、高瀬くん!? 何を言ってるの!?」

「あ、え、その……」


どう対処すりゃいいのさ!?


『シュッ』

=================

水瀬 詩織

現在の心境:え?え?え? 何で『踏みたい』って言ったの!? 私、高瀬くんのことを踏みたいって思ったの口に出てた!?

=================


踏みたい対象は俺なの!?

なんで!? プリントを拾ってくれた相手をなぜ踏むの!?

汚らわしい手でプリントを触った罰とか!?


「その……なんかそんなことが、その、聞こえたような気がしたんだよね、空耳だったかもしれないけど!」


我ながら雑な言い訳だ!


「え、嘘、聞こえ……」


水瀬もなんかすごい焦っている。


『シュッ』

=================

水瀬 詩織

現在の心境:そりゃ確かに踏みたいよ、高瀬くんのこと! 反応が愉快そうだし…。え? でも、どうしよう!? 口に出てたかな!? いっそ、『踏ませて』って頼むべきかな!?

=================


趣味嗜好で踏みたいのかよ!?

反応が愉快そうって、どういうことだよ!?


「そ、その、高瀬くん!」

「お、おう?」

「もし、自分に失礼なことを言ってくる人がいたとして、どう思う?」


なんだ? なんの話だ?


「言ってくる内容にもよると思うが……どういう意図で失礼なことを言ってきたか次第じゃないか?」

「意図?」

「意味もなく、ただ傷つけることを言ってくる人なら、それはもうどうしようもない。でも、その失礼なことが俺の何か悪い点を改善してくれることになる場合は、自分のプラスになるようにその相手とやり取りすべきだと思う」

「もし、その失礼なことが、高瀬くんにとってはただ迷惑なだけなんだけど相手にとっては事情があって重要なことだったら?」

「それは、ちゃんと相手の事情を聞くよ。聞いた上で本当に相手にとって重要なことだったら力を貸すさ」


うーん、なんだこのやり取り……。


「話変わるけどさ、高瀬くんってよく原田さんに割と理不尽な暴行を受けているよね?」


あ、ちゃんと分かってくれる人がいたよ。そうだよ、あれは暴力だよ。


「そ、そうだな」

「でも、怒らないよね、高瀬くん」


こっちが怒ろうもんなら、ナイフとか飛んでくるからそりゃ怒らんよ。


「まぁ、怒っても仕方ないしな。俺が原因な場合もあるし、原田だって普段は気さくで良いやつだし、クラスメイトとは仲良くしておきたいしな」

「なるほどね……」


考え込む水瀬。一体、どうしたのだろう。


『シュッ』

=================

水瀬 詩織

現在の心境:高瀬くんは優しいんだね……。そして、きっと怒らない。そんな良い人に……、いや、良い人だからこそ、きっと……踏んでも大丈夫。

=================


水瀬の思考は大丈夫ではなかった。

いや、嬉しいよ? 優しいとか言ってくれるのは。

でもなんで最終的に踏むことを考えているんですかねぇ!?


「うん、決めた」

「はい?」


おい、水瀬、何を決断した?


「ちょっとそこで頭を床に擦り付けてくれない?」

「唐突に土下座を要求!?」


ステータスで色々見ているのに、水瀬の言っていることがやっぱり全然分からないよ!


「あ、違うの。謝って欲しいとかそういう意味じゃなくて、純粋に(こうべ)を垂れて欲しいの」

「何が違うんですかねぇ!?」

「……お願い」


あ、それ、ズルい。


『シュッ』

=================

水瀬 詩織

現在の心境:言っちゃった! 言っちゃった! 踏めるかな? 踏めるかな?

=================


水瀬さーん……。

大人しいクラスメイトのイメージはもう崩れてきているよ。


「よく分からないけど、その、何で?」

「……踏みたいの」

「……」

「高瀬くんの頭を踏んでみたいの!」


あー、本気で言ってきたよー!


『リンッ』

=================

水瀬 詩織

年齢:16

職業:高校生

- 女子高校生 Lv. 19

- 読書 Lv. 15

- 散歩 Lv. 7

- 隠れS Lv. 18 (項目が開放されました)

=================


あぁーですよねー、なんかそんな感じじゃないかなぁって思ったよ!

ってことは信頼度も変わったのか?


『リンッ』

=================

水瀬 詩織

結樹への評価:きっと怒らない人

- 好感度 7→9 (パラメータが更新されました)

- 信頼度 8→21 (パラメータが更新されました)

=================


信頼度、まさかの爆上げ。

こんなに変わって良いものなのか?

評価されるのは嬉しいよ? 嬉しいけどさぁ!


「いや、えーと、その……」

「やっぱり、ダメ……かな……?」


普通に考えたら答えは No だ。男のプライドがあるんだ、俺にも。

でも、これが本当の水瀬を知る機会でもあるのは確かだ。

ただ、その一方で、水瀬とはそういうのじゃなくて、純粋に付き合っていきたい気持ちもある。


「その……急に言われても、良く分からないし、それにここ教室だし……」

「あ、うん……ごめん」

「えっと、その、これ、とりあえずプリント!」


俺は手に持っていたプリントをさっと手渡す。

ダメだ、本当に頭がこんがらがってどうしたら良いか分からない。

でも、ここで変に流されるべきでもないと思う。


「その、正直俺は良く分からない。でも、水瀬のその感情を否定するつもりはないし、別にそういう気持ちがあっても良いと思う!もちろん、誰にも広めないから安心して!」

「あ、えっと、高瀬くん……」


俺は短く『じゃ!』っと言って教室を後にした。

まぁ、逃げただけなんですけど。

水瀬には悪かったかな?折角、信頼してくれたのもまた下がっているかもしれない。

でも……


「ちょっと踏まれてみても良かったかもしれない……」


いや、自分がMのつもりは全くないよ?

でも、どんな形であろうと水瀬と接触できる機会を逃すのは……なんか惜しかったんですよ!

俺は悶々としながら家路を急いだ。


———————————————————-


高瀬結樹が去った後、教室に残された水瀬は独り言をつぶやいていた。


「大丈夫、高瀬くんはきっと誰にも広めない。それに……もっと踏みたくなったよ、高瀬くん!」


少女の意思は固く、その想いは盛り上がる。

そして、脳内で結樹の言葉を思い出す。

『その……急に言われても、良く分からないし、それにここ教室だし……』。


「つまり、高瀬くんもいずれは踏まれたくなる気持ちを理解できる可能性もあって、教室以外の人に見られない場所なら、踏める可能性は……きっと高い!」


ちなみに結樹はそんな気持ちを込めていたわけではない。


「待っててね、高瀬くん! きっと踏んであげるからね!」


漢・高瀬結樹の周りに、また一人変態が追加された瞬間であった。


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