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劫生の祓い人  作者: 武鬼
一章
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6.瘴気の異形

山の中腹を歩く人影=白鬼死義影。


彼は男から聞いた百目鬼の居場所――山の頂に向かっていた。


山頂に近づくにつれ瘴気はいっそう濃くなった。



「そろそろやっておいた方がよかろう」



義影は呪符を取り出し、呪力を込め自分に加護を付与した。


「これで多少の瘴気は防げよう」


急な坂道を進む。


周囲に草木は一本も生えておらず、グズグズになったヘドロのような物があるばかりだった。


瘴気は光を遮り今が昼なのか夜なのかさえ曖昧なものとなっていた。


その惨状に自然と歩速がはやまる。


しばらくして山頂に到着する。



そこに"それ"はいた。



体から瘴気を噴き出す巨体――百目鬼(どうめき)


特徴である無数の目は閉じられているようだった。


「眠っているのか? それならば好都合だ。さて、仕事の時間だな」


義影が呪符を数枚手に取り構える――


その瞬間、閉じられていた目が一斉に見開かれ、無数の目玉が義影を捉える。


「そのまま眠っていれば楽に死ねたであろうにな!」


義影の先制――手にしていた数枚の呪符を同時に投げつける。


「燃えよ炎、我が敵を消し炭にせよ!」


義影が言霊をのせると呪符は燃え上がり灼熱の炎となり、百目鬼を襲う。


百目鬼は口から炎を吐き出し応戦。


炎と炎のぶつかり合い――相殺。


双方の炎が消えた時義影は百目鬼の目の前に接近していた。


「おかわりをくれてやろう」


再び言霊をのせる。


今度は超近距離での放射――百目鬼に直撃する。


炸裂/閃光/吹き荒ぶ熱風。


義影は飛び退き距離をとり、様子をうかがう。


衝撃により舞い上がった塵、その向こうから薄気味悪い笑いを浮かべる百目鬼の姿――損傷軽微。



「……これは少しばかり骨が折れそうだ」



義影は再び呪符を構える。


様子を見る百目鬼。


寸瞬の間が静寂が辺りを生み出す。


それは刹那的な時間を何倍にも引き伸ばしたように感じられた。


先に動いたのは百目鬼。


体から瘴気を噴き出しながらその巨体を揺らし、突進を仕掛ける。


義影は呪符を放ち炎による攻撃を行う――効果なし。


百目鬼は速度をそのままに義影に突っ込む。


義影は寸でのところで横に飛び躱し、先程より強く呪力を込め呪符を放つ。


札が炎を放ちながら百目鬼を襲う。


百目鬼は炎で応戦。


双方の炎が再び拮抗する。


「破ッ!」


義影がさらに呪力を込める。


すると札から炎が噴き出したかと思うとそれは呪符の中に吸い込まれる――次の瞬間、札は凄まじい熱量を発生させ爆発する。


さすがの威力に百目鬼がよろめく。


すかさず義影は村の男からもらった油の入った瓶を百目鬼の頭上に投げ念を当てそれを割った。


中身が飛び散り百目鬼は全身に油を被る。


直後、百目鬼の咆哮。


炎球を義影に向かって連続で吐き出す。


義影はそれを飛び退き全て躱し、反撃に転じるため呪符を手に取る。


だが、百目鬼は義影の想像以上の速度で接近していた。


目の前、迫る巨体。


防御術式の展開は間に合わない。


その巨体が義影を直撃する。


手に持っていた呪符が宙に舞い、義影は吹き飛ばされ岩に体を打ちつける。


「……これは、読み違ってしまったか」


義影は立ち上がろうとするも負傷によりうまく体が動かないようだった。


宙を舞った呪符が地面に散らばる。


徐々に迫る百目鬼は薄気味悪い笑いを浮かべる。



「なんだ? その勝ち誇ったような顔は? 油断大敵とよく言うだろう。それでは足元を掬われるぞぞ……このようになッ!」



義影が呪力を込める。


百目鬼の足元には一枚の呪符――それが炎を出し炸裂する。


体勢を崩す百目鬼。


義影は火薬の入った袋を百目鬼に投げ、ついで呪符を巻きつけた短刀を放つ。


短刀は袋を突き刺し直進、そのまま百目鬼のもとへ。


短刀が百目鬼に突き刺さり袋は火薬を周囲にまき散らした。


百目鬼が奇声を上げる。


「爆ぜよッ!」


義影が強く呪力を込める。


その瞬間――短刀に巻きつけられた札から炎が噴き出す。


炎は油に引火し、激しく燃え上がる。


その炎は散乱した火薬に燃え移る。


爆音/衝撃/熱。


地獄の業火のように凄まじい力の奔流となり百目鬼を呑み込む。


百目鬼は耳をつんざく断末魔を響かせた。


やがて炎は収束し、巻き上げられた塵は、薄れていった。


瘴気を噴き出す巨体がいた場所には黒焦げの肉塊が散乱していた。


「……依頼完了、か」


義影は大きく息を吐き出した。







義影は山を降り村まで戻ってきた。


村の入り口では男が出迎えてくれた。


義影は事の次第を男に告げた。


男は深く頭を下げ感謝の意を表した。


義影は男から金銭が入った小さな袋を受け取りそれを懐にしまうと周囲に視線を送った。


なんの事情も知らない人間が見れば廃村と間違えてしまうほど荒れ果てている。


百目鬼は退治できたが、瘴気は依然として晴れていない。


自然が本来持っている浄化力もこの状況下では意味を成さないだろう。


依頼は完遂した。


しかしこのままでは事態は好転しない。


義影は荷の中からキラキラと光る砂のような物が入った袋を男に渡した。


「これは?」


男が尋ねる。



「それは浄化の砂と呼ばれる土地の不浄を浄化する砂だ。これをこの周囲に撒け。時間はかかるが、いずれここら一帯は元通りになるだろう」


「異形の者の退治だけではなくこの土地のことまで考えてくれるなんて……! 感謝してもしきれない」


「報酬は貰った。それに見合う仕事をしただけだ。それではな」


義影は別れを告げ歩き出した、がすぐに足を止め――


「その砂は解毒の作用もある。瘴気にあてられた人間にそれを少量水に溶いて飲ませれば快方に向かうだろう」



それだけ言うと義影は再び歩き出した。


男は感謝の言葉を言うと深く頭を下げた。


「さて、あの馬鹿に文句を言わねばならんな」


義影は北東を睨みつた。


その時、荷に括り付けていた青い石が淡く光り、高い音を響かせた。


「あの馬鹿もお呼びか。ちょうどいい」


義影が馬鹿と呼んだ者の呼びかけ――それに応える、もとい苦言を呈するため義影は北東にある"馬鹿"の根城を目指した。


その後、男は祓い人から貰った砂を村の周辺に撒き、床に伏せている者たちに飲ませた。


それから一月ほどが経った時、村の周囲には草木の芽が顔を出し、床に伏せていた者らも歩き回れるほどに回復したそうだ。


百目鬼がいた山は未だに荒れたままとなっているが時間が解決していくことだろう。


男は訪れた平穏な暮らしをかみしめ、今日を過ごしていた。


あの祓い人に感謝するとともにあのような悲劇が二度と起こらないことを願いながら――。







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