0.男は死を拒絶した
男は死を拒絶した。
死は――終わりだ。
どれだけ栄光を掴もうとも。
どれだけ地位を築こうとも。
どれだけ人を救おうとも。
どれだけ悪逆に手を染めようとも。
それは万人に対して平等に終わりを宣告する。
それから逃れるため、はたまたそれを克服するためありとあらゆる術を模索した人間は多い。
しかしそれは無駄で無価値で、なんの意味もなさない愚かな行為だった。
死は――終わりだ。
それは万人に対して平等に終わりを宣告する。
死を恐れる者、抗う者、忌み嫌う者、受け入れる者。
人によって無限の回答がある。
そんな中、男が出した回答は――"拒絶"だった。
逃げるわけでもなく、克服するわけでもなく、恐れるわけでもなく、抗うわけでもなく、忌み嫌うわけでもなく、受け入れるわけでもない。
男はただ、死を拒絶した。
死は男から家族を奪った。
死は男から友を奪った。
死は男から仲間を奪った。
死は男から愛する者を奪った
ただひたすら愚直に安直に、そして残酷に。
慈悲など無かった。
あるわけがなかった。
死は誰に対しても平等に与えられるもの。
一欠片の差別もなく、一欠片の区別もない。
しかし死は――男自身の生命を奪うことはしなかった。
死は男の周囲の者を奪い続けた。
男は苛烈な戦いに身を投げ、死していった者たちの幻影を追いかけた。
己の身体など顧みずただひたすらに戦い続けた。
それでもなお、死は男の生命を奪うことはなかった。
死は男に纏わりつき、呪詛を囁き続けた。
――次は誰を奪ってやろうか。
だから男は探した。
死から決別するための術を。
そして見つけたのだ。
男は迷わなかった。
それが望みだったから。
男はそれを受け入れた。
男は――不老不死となった。
男は生きることを放棄した。
男は死ぬことを放棄した。
そのふたつを放棄した男は生者でも死者でもない、生命を持たない空っぽの器でしかなくなった。
伽藍洞――その人生に意味はなく、またその存在に価値はない。
そんな存在になった男は――その生涯に何を見出すのか。
それは誰にもわからない。
彼自身にもわからない。
誰も見つけてはくれない。
誰も教えてくれはない。
孤独と戦いながら自らの手で全てを導き出さなければならない。
辛く厳しい過酷な道となるだろう。
しかし男は歩まねばならない。
たとえ独りでも歩み続けなければならない。
その道を選んだのは彼自身なのだから。
そう望んだのは――彼自身なのだから。