直さない人たち_食洗機
前回に続き、直さない人たちです。
食洗機があった。使っていない食器洗い機。キッチンの流しの向こう側(奥)出窓風になった場所にデカデカと置かれたそれは、使用されているところを見たことがない。もちろん電源が入っているのを見たこともない。コンセントも抜けたままに放置されている。キッチン全体を整理するときに処分することを提案した。簡単に外せるし壊れていて使っていないのなら撤去してもいいんじゃないかと言った。
もちろん拒否された。当たり前のように反対された。
「邪魔だ」「邪魔だ」と罵るくせに、外すというと「ダメだ」「嫌だ」と拒否をする。何が嫌なのか、何がダメなのか、意味がわからない。訳がわからない。
「しょうがないじゃない年寄りなんだからそんなもんよ」
窓を塞ぎ外の光を遮り、流しの奥で有効なスペースを占領している銀色の立派な食洗機。電源すら入れてももらえず壊れたまま放置され、処分されることなく邪魔にされ続ける。そこでじっと耐えているかのようなそいつのことが不憫に思えた。
また今日もその銀色のずんぐりとしたもう息をすることのなくなったその機械に向かって「邪魔なんだから」と高らかに声を上げている。
置いているのはあなたたちでしょ。
その人たちの意思でそこに置かれているのに、文句言われ続けるなんて、どういうことなんだろ。自分の意思では何もできない、移動することなんてできるわけがない食洗機は、悲しんでいたに違いない。悔しかったに違いない。
あれ? ん? なんだ? 気のせいか……な?
そうでもない。食洗機と自分を重ねる。聞こえないところで邪魔だと罵っていることを、私が知らないとでも思っているのだろうか。近所の方との会話が漏れ聞こえていることをわかっていないのだろうか。私は自分の意思で移動することもできるし、耳だって聞こえる。私は人で、家電ではない。
ある日突然にその食器洗浄器を処分すると言い出した。
あれだけ拒んでいたのはなんだっただろうか。
蛇口の手前で分岐されていた部分からホースを外し、電源ケーブルを手繰り寄せ「長い間ご苦労様」と心の中で労いつつ、その場所から移動させた。
でも、何故このタイミングで処分すると言い出したのか、全くわからない。あの人たちにとって処分を決定づけたトリガーが、なんだったのかが解らないだけに、自分が処分されるきっかけも掴めそうにない。それでもそれがさほど遠い未来でもなさそうだとは感じ取れる。ただトリガーはやっぱり見えない。