餌
ここに来たのがいつだったかは、考えないことにする。それを理解し認識したところでなんの意味も持たないからだ。なので具体的な日時は書かないことに決めた。
最初の三ヶ月ほどは、何とも普通に過ごした気がする。特に際立ったエピソードが思い出せないところから、そう思っている。お互いかなり気を使っていたからなのかもしれない。その緊張が緩み始めたのは食事のことからだ。妻の仕事のローテーションの関係で週に二回は義母の作る夕食を食べることになる。自分ではそうは思っていないのだけれど、妻曰く私は食事にはうるさいそうである。自覚はないが美味しいというものと何も言わないものは明らかに素材や作り方によるらしい。
三ヶ月もすると義母の作る夕食のレパートリーの限界が見えてきたのかもしれないと思った。何だかわからないグチャグチャしたものが増えてきた。炒め物のようなおかず。しかし他の家族や来客があったときに出す料理は明らかに違う。いつものはまるで「餌」である。頑張って食べようとしたが限界もある。折角作ってもらったのだから食べなくてはと口に入れるのだけど飲み込めない。無理して食べて吐いてしまったこともある。米だけは美味い。親戚が米を作っている農家で取れた米を送ってきてくれる事がある為だろう。その米とお漬物だけで食事を終わらせることが多くなってきた。私は仕事上帰りの時間が定まらないことを理由に義母の作る食事から逃れるようになった。
「しょうがないじゃない年寄りなんだからそんなもんよ」