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第8話 Hunters in the gloom

『いい、今回の戦闘は出来るだけ短期決戦。具体的には9000文字以内(約3話分)には必ず終わらせるのよ』


『何の話だよ……』


時刻は15時を回ったころ。ちなみに異世界だけど時間の進み方とか暦は地球と同じである。理由はまあ、うん……。


 気が付けば森の中、俺たちは二手に分かれて『森の主』を捜索していた。敵を見つけたらすぐにお互いに報告できるよう『念話』の魔術を使っているので分断の心配はない。


『カイト、意外と器用なスキル持ってるのね。どうやら実力だけは信用してもよさそうかしら』


タブリーが念話で余計な茶々を入れてくる。


『だけって……ま、足手まといにはならねぇぜ』


そう言いつつも目と耳はアンテナ全開で未だに姿を見せない敵を追っている。それは恐らく()()()も同じだろう。


「確実にあると思ってたんだけどなぁ、索敵スキル……。」


大体のなろう系において猛威を奮う索敵スキルであるが、エリア姫に聞いた所残念ながらこの世界には存在しなかった。つくづく肝心なところで王道を外れていく異世界である。


 ふと、後ろで何かが動く音がした気がした。すかさず振り向き、視界をクリアリングする。一瞬の静寂が生まれる。次の瞬間、直径50cmほどの何かが、こちらに向かって飛び掛かって来た。


「うおっ!! <<篝火>>!!!!」


ギリギリで回避しつつ、拳に武器となる炎を発現する。炎に照らされた謎の物体の正体は、緑色のぶよぶよとした生き物――所謂スライムだった。スライムの頭上に浮かぶ棒状の何かは恐らくHPバーだろう。異世界だからね。


「へへっ、ようやくモンスターとの初戦闘ってわけか」


『どうしたの? 目標は見つかった?』


『いや、別の客だ。3分で片づけてやるぜ』


そう言って念話から、目の前の敵に注意を移す。スライムは再び地を蹴り(スライムに足はないので微妙に間違った表現)、こちらに飛び掛かって来た。俺は腰を落とし、ギリギリで回避し着火した拳でのカウンターを狙う。何、スライムごときに遅れたりはしない――。


「うおぶべらっ!」


鼻に何か当たった。滅茶苦茶痛い。どうやら血も出ているようだ。


「いってぇ!!! 何でだ? 体当たりはちゃんと避けたぞ!!?」


なんて殺意マンマンなスライムなんだ。しかしあの感触、スライムには決して無いような硬い……鼻を抑えつつ敵を観察する。……あれ?


 よく見たらHPバーに何か……アレは……血!?


「てアレ(HPバー)当たり判定あんの!!!!????」


慌ててステータスを開き、自分のHPへとスクロールする。


「クソッ! どこだHP……て半分減ってんじゃねぇか!! どんだけ痛いんだアレ!!!」


俺はステータスを閉じ、半ば殺意を込めた拳を、再び飛び掛かろうと体(?)を捩じるスライムにぶち込んだ。


「うおおおおお!!!!! <<百火繚乱>>!!!!」


炎をまとった拳で殴るだけだが、これも立派な必殺技だ。スライムは俺の全身全霊を受け、ぴぎっと断末魔をあげながら敢え無く消滅した。


「ハァ、ハァ……やったぜ……」


辛く苦しい激闘だったが、初戦闘はなんとか勝利して終えたぞ。


『エンシェントスキルのレベルが上昇しました』


呼吸を落ち着かせていると、そんな声が頭の中に聞こえた。初めて聞く声だが、声優のように透き通っている。多分システムボイス的なのだろう。


 それはともかく、今回の戦闘ではエンシェントスキルなんて全く使っていないのだが、これは戦闘するだけでレベルが上がる仕様なのか? 俺は確認の為ステータスを開き、エンシェントスキルの欄をタップしてみた。


追加された能力:状態変化


「ほ~ん、新しく出来ることが増えるのね」


状態変化とやらがどう作用するのかはまた確認せねばならないな。……その時だった。


「あんたスライム相手に何やってんのよ」


タブリーに、後ろから声をかけられた。


「タブリー!? 見てたのか!?」


「なんか情けない叫び声が聞こえたから、心配になって様子を見に来たのよ」


余計なお世話である。現に俺は見事にスライムを倒したのだからな。


「うわ、もうHP半分も無いじゃない。ホントに何やってんの?」


「だってHPバーに当たり判定あるとか思ってなかったし……」


「HPバー? モンスターの上に浮かぶアレがダイヤクロノイド並みの硬度を持つなんて、常識じゃない。気を付けなきゃダメよ」


タブリーは言いながら俺に向けて手をかざした。どうやらあれはHPバーでは無いらしい。じゃあなんやねん。


「<<生命の第一等級、ヒール>>!!」


「おお……傷が治っていく……!!」


ステータスを見ると、HPが全快していた。俺は生命系のスキルに適正が無かったので、これは非常に助かる。


「お代はサービスしとくわ。さあ、探索を続けるわよ」


「あ、ありがとう」


そう言って再びタブリーと別れ、探索を再開しようとした時である。


「「!!」」


横の茂みから、突如巨大な()()|が俺たちに向かって飛び出して来た。慌てて横に回避する。


「くっ!」


「タブリー大丈夫か!?」


「こっちは大丈夫!! それより敵!!!」


さっきまで()()()()()()()()()()()茂みから飛び出して来た何かは着地すると、姿を見せる間もなく再び木々の間に姿を消した。さながら瞬間移動である。


「クソ、見失った!」


「気を付けて、また来る!!」


あちこちでガサガサという音が聞こえる。恐らく高速で移動しながら、こちらに飛び掛かるタイミングを伺っているのだ。


「距離を取るよ! 敵が飛び掛かって来た方を援護!」


「わかった!」


お互いにすぐに援護できる距離で構える。果たして敵は、タブリーの方へと飛び掛かっていった。


「ハァァ!!」


凄まじい反応速度で気合の声と共に細剣を振るうタブリー。俺は死ぬ気でそこに飛び掛かる。


「タブリー!<<篝火>>!」




「くっ!」


タブリーの剣技でも、巨大な影の動きを止めるには至らず、影は再び木々の間に紛れていった。


 だがその時、この俺のフラッシュ暗算2級の素晴らしき両眼に、篝火によって照らされた、()()()()が映った。見紛う筈もない。当たり前だ。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()。だがそれはこの世界にはまず存在し得ない物であり、俺の思考は暫くまとまらなかった


「聞きしに勝る素早さと狡猾さね……。カイト、敵の正体分かった?」


「……」


「カイト?」


追撃に警戒しつつも、俺に不信感を持った様子で問いかけるタブリー。だが、一方の俺の注意は別の方向に向いていた。


「カイト!! 来るよ!!」


今度は俺に飛び掛かってくる敵。フリーズしていた俺は反応が遅れ、敵の突進をモロに食らってしまった。


「ぐあっ!!」


「カイト!! もうっ!<<水の第3等級、アクアストリーム>>!」


地面に倒れ伏す俺の横で、またも一撃で離脱する敵に水流のスキルで追撃を加えるタブリー。その掌から放たれた巨大な水流のうねりは、敵が引っ込んだ茂みを瞬く間に飲み込んだ。


「逃げられた……?」


敵の気配はしない。

残ったのは、水を打ったような静寂のみであった。


「……」


「起きろこの黒いんげん!!」


タブリーが地面に座っていた俺に向かって、あろうことか手近な石を思いっきり投げて来た。


「うおおおおま危なっ!!? 石って!? 石って!!!!????」


紙一重で頭をずらしかわしたが、どうやらこの妖怪腐れケチ女は本気で狙ったらしかった。


「チッ……避けるのだけは一人前ね。ホラ早く追うわよ! 大した準備もしてないし、日が落ちたらアウトなんだから!」


なんだよ、もうちょっと心配してくれてもいいのに……。とにかく、俺はタブリーにある事を告げる。


「なあ、俺に考えがあるんだ」


「考え?」


俺は意味深な笑みを作った。


「ああ、俺の予想が正しければ、あいつは――()()()()()()()()




 「アンタの知ってる奴って、どういう事? 前に戦った事あるの?」


午後4時過ぎ。俺たちは地道にマッピングしながら、敵が消えた方向へ歩いていた。方向感覚を失わないようにタブリーは方位磁針を見ながら歩いている。


「いや、多分――。うーん、その時が来たら話す。多分これは、俺の問題だ」


俺の考えは恐らく、当たっていようがいまいがかなり話せば長くなる事と思われた。正解ならきっとシリアス展開一直線なので、今からキメ顔を作っておく。


「カイト……」


タブリーよ。さては今キュンとしたな? フフ、ときめいちゃったんだな?


「前見ないと危ないわよ」


「あべしっ!!!!」


俺の顔に、何か柔らかいものがぶつかった


「うわくっさ! 何だこれ!?」


鼻のあたりから強烈な異臭がする。前方を見ると、木の上で何かが蠢いている。


「アレは自分のウンコを投げつけるのが趣味のウンコナゲザルね」


「はあぁ? なんだその害獣!? うわくっせぇぇぇぇ!!!」


「あこらちょっと! 危ないわよ!」


俺はあまりの臭さに、水を求めて無我夢中で走り出した。


「水、水!!! 水ううううグボッ!!!!」


俺の顔に、今度は冷たい水が襲い掛かって来た。上半身はびしょぬれだが、臭いは何とか消えたみたいだ。


「ハア、ハァ、あ、ありがとう……」


タブリーが水のスキルを俺に使ってくれたらしい。鼻をつまみながらもう片方の手でこちらに掌をかざしている。


「礼には及ばないけどその代わり今日はあたしに近づかないでね」


「クソ!! あの陰険クソアホド畜生猿絶対〇す!!!」


「もういないわよ。あいつはただ人に嫌がらせするのが大好きなだけだから」


「く、クソオオオオオオオオ!!!!!!」


俺の魂の叫びが、森に木霊した。


「ウンコだけに?」


「うるさいよ!」

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