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第7話 Guild

昨日うっかり酔っぱらって投稿するのを忘れてましたが、祝日という事でギリギリセーフとしてまだ1日1回投稿の名分は立てられているという事にしたいと思います。

 タブリーに案内され、俺は村のメインストリートから外れた所にある冒険者ギルドなる場所にやって来た。

石造りで3階建ての、立派な建物だ。周りの風景が閑散としているので、雰囲気的にはかなり浮いている。


「なんか田舎のイオンみたいだな…」


タブリーはさっさと扉を開けて中に入ってしまった。急いで後を追う。


 重い扉を開けてみると、中はごついおっさん共に占領されてかなりむさくるしかったが、パッと見た感じ建物自体は意外にも清潔というか、木造のおしゃれなカフェ的な感じでこざっぱりしている。ギロッと睨んでくるおっさん共を避けるように端の方を通って、掲示板らしき物の前に立つタブリーに声をかける。


「あ、やっと来た。うんこでもしてたの?」


貴女デリカシーって言葉知ってる? そういえば、やっと機会が出来たので今まで突っ込めずにいた所に突っ込む。


「あのなぁ……。そういえばタブリー、化粧は?」


「あれは接客用。戦いに行くのにメイクなんかする訳ないでしょ」


「ああ、そう……」


ご都合主義様様である。タブリーはそう言って振りむき、再び掲示板を真剣に眺め始めた。自分でベルガ村最強と豪語するだけあってタブリーの装備はかなり強そうだ。ステータスも、勇者補正のある俺に勝るとも劣らない勢い。ちなみに俺のステータスはタブリーには隠している。俺が読んできたほとんどのなろう主人公はこうしていたからだ。だから隠した方がいい気がしたのだ。


「あった。これね、『森の主』討伐の依頼(クエスト)。手続きはすぐ出来るし、ちゃちゃっとやって来るわ」


「あ、ありがとう……」


なんとも手際のいい女である。もしかしたら俺は運がいいのかもしれない。タブリーと親しげに話す俺に、周りから発せられる刺々しい視線を無視さえすれば。


「おい、坊主」


「ひぃっ!? な、なんでしょうか!?」


突然、背後から声をかけられた。振り向くとそこには、()()()()と形容するに相応しい筋肉ムキムキのマッチョマンが険しい顔をして屹立していた。その後ろでは、同じような方々が似たような表情でガンをつけてくれている。


「お前ポチョムキンの嬢ちゃんとどういう関係だ?」


「え、いや、どうって言われましても、さっきカフェで知り合ったというか……」


「嘘をつくな小僧!!!!」


「ひぃい!!!!!!」


「あの嬢ちゃんが誰かと連れ立ってギルド(ここ)に来るなんて、ベルガ村史上初めての事態だ! 坊主、一体どうやって嬢ちゃんを誑かしやがった……」


今にも飛び掛かってきそうな表情で筋肉野郎が詰め寄ってくる。こんなにも直接人の悪意とか怒りを向けられた事のない現代っ子な俺は、既に心臓バクバク、冷や汗ダラダラ。思考も上手くまとまらなかった。


「タブリーちゃん、高嶺の花って感じだからなぁ」


「腕も立つし気立てもいいし、すっぴんはちょっと()()だけど、化粧さえすれば超可愛いしな!」


ギャラリーは勝手に何か談義してる。


 そうしていると、別の方向から鋭い声が飛んできた。


「おやめ、ゴルバチョフ! 折角の新入りに絡んでんじゃない!」


途轍もない声量に耳を塞いでしまう。そこにいる全員がその声に振り向く。そこに立っていたのは――


「坊主、ウチのが悪かったなぁ。そんなに怯えないでくれや」


2メートルもあろうかという巨大な大剣を背負った、それと同じくらいの身長の――老婆だった。いや、その佇まいは老婆と言うには余りにも若々しく、そして余りにも頑健だ。老婆はゴルバチョフと呼んだ男を人睨みで委縮させ、こちらに歩いてきた。


「俺はここのギルドマスター、ジグラグだ。よろしく頼むよ、色男」


お前のようなババアがいるか!!!!!!!!!!!!!


 そう叫びたい気持ちをグッとこらえて、ニタリと笑って握手を求めるストロングババアに答えた。手を離すと、俺の手には何故か氷砂糖が握られていた。この人なら森の主どころか魔王もワンパンなんじゃないか?


「ありがとうございます……」


「あんた達森の主討伐に行くんだって? 気を付けなよ、あいつはかなり手強いから」


ジグラグさんが縁側での世間話みたいなノリで魔物の話を振って来た。敵の情報が今の所皆無なので、こちらとしてはとても助かる。


「て、手強い……一体どんな奴なんですか?」


「そうさねぇ。討伐に失敗して帰って来た奴らによると、あいつは3メートルほどの巨体の化け物で、それをものともしない俊敏な動きで木々の間を飛び回り、目にもとまらぬ速さで攻撃を仕掛けてくるらしい。問題なのは未だに誰も奴の姿をはっきりと見ていない事と、かなり警戒心が強くすぐに逃げられてしまう事だな」


あ、やっぱ異世界だけどメートル法なんだ。いやっていうかあんたも3メートルくらいなくないですか? 言ったらあんたの方が化け物みたいですやんか。


 まあそれは置いといて、物騒な話をしつつも、ジグラグさんの俺を見る目はどことなく優しい。そしてそれは完全に俺のおばあちゃまが俺の事を見る目とそっくりなので、なんだか少しだけ安心した気分になった。そこに、カウンターで受け付けを済ませたタブリーがこちらへ帰って来る。


「あら、その氷砂糖……ああジグラグさんに気に入られたのね。良かったじゃない。はいこれ受注者控え」


そう言って1000円札ほどの紙を渡してくる。俺はそれをポケットにしまった。そのジグラグさんはいつの間にか、50mほど離れた受付カウンターで誰かと話している。え、今目を離したの3秒にも満たなかったよね?


「あ、ああ、見かけによらずいい人だった。それじゃあ、いよいよ?」


「ええ。森の主討伐に行くわよ! それはそうとアンタ、武器は?」


タブリーが超今更なことを聞いてきた。


「俺の武器は()()()だよ」


キメ顔でそう言いながら力こぶを作って腕を叩くと、タブリーはクスクスと笑いながら


「そんな細腕で何しようってのよ(笑)まあ、どうせダメ元だしやれるだけやってみましょ」


とのたまった。そうなのだ。実は旅立ちにあたり、お城で色んな武器を試したはいいが、どうやら俺はどれも絶望的にセンスがなかった。そりゃそうだ。素人がいきなり剣だの槍だのを使えるようになるわけがない。ああいうのの取り回しは、長い鍛錬にのみ宿る物だ。負け惜しみではない。


 そういうわけで、結果的に素手に魔法を絡ませるファイトスタイルが一番使()()()と判断したのだった。


「そいつはどうかな、俺の真の実力にビビるんじゃねぇぞ」


「ふふ」


そんなこんなで二人でギルドの扉をくぐると、外には先ほどジグラグさんに一喝されたゴルバチョフさんが立っていた。どうやらまだ俺に絡むつもりらしい。フッ、いいだろう……。俺はきりっとしてこっそりタブリーの後ろにほんの少しだけ寄った。


「なあタブリーの嬢ちゃん、そいつ一体なんなんだ? なんでまた、誰とも組んだことないお前が……」


かなり切実な様子で訪ねてくるゴルバチョフさんに対し、しかして当のタブリーは腰に手を当て毅然として言い放った。


「愚問ね」


俺もゴルバチョフさんもゴクリと唾をのむ。


「カm……な、なんか物凄い困ってたから、力になってあげようと思っただけよ!」


「今カモっつったな!! カモって!!!! どういう事だ!!!!!」


「き、気のせいよ。旅人なのに世間知らずっぽいからタカれるだろうとか年のわりに金持ってんなとかそんなこと全然考えてないわ。本当に心の底からあなたの事が心配だったのよ」


ゴルバチョフさんはポカンとした顔でこちらの様子を見ている。どうやら高嶺の花すぎて、この性格を知らなかったらしい。


「し、親切なヤツだと思ってたのにィ!! もういい! 俺絶対お前には一銭も払わないからな!!!!」




その時、俺の耳にはっきりと、()()()という音が聴こえた。


「は~~~~!? 何言ってんのお前!? 案内してあげんだから貰うもんはきっちり貰うわよ!!? それにあんたあたしがいなかったら絶対ここまで話進まなかったんだからね!? ご都合主義にも感謝しなさい!!!」


「え、あの……」


「いい!!!! ここまでの案内、それから森の主討伐への協力、その他消耗品費とかあたしのすっぴん見物代とか諸々込みで依頼報酬の7割!!!! 達成できても出来なくてもこれは絶対払って貰うからね。あとあんた戦闘ではあんま役に立たなそうだから肉壁として機能してもらうから!!!!!」


「あ、あ……」


「返事!!!!」


「押忍!!!!!!!!!」


コミュ障は、捲し立てられるのに弱いのだ――。


「いい返事よ」


タブリーが妖艶に微笑んだ。


 そんなこんなで、俺たちはようやく、魔物退治に出発したのだった。

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