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第5話 Even a worm will turn

「では、お気をつけて。必ず生きて帰ってきてください」


 翌日の昼前。俺はついに出発という事で、城門の前にて盛大な見送りを受けていた。多くの国民が集まり、出店なんかも出ちゃったりして、その様相は最早パレードだ。


 流石に黒王もとい国王様もお出ましとなる正式な場なので、エリア姫はあの化粧をしている。


 喧噪を背に、別れの挨拶だ。俺を自分たちの都合で拉致した、いわば加害者側ではあるのだが、その瞳は俺のことを本気で心配していた。


「ていうかあの……本当にこの格好で行かなきゃいけないんですか」


ちなみに俺は今、かつて国難の際に異世界より渡って来た勇者に代々受け継がれているという、由緒正しき旅装を賜っている。ヒートテックに重ねた黒のクルーネックTシャツと、至る所に銀の装飾を散りばめた黒い革のロングコート。それに黒のすごい履き心地がよくてめっちゃ伸びるスキニーチノパン。


 ものすごく単純明快に言えば、SMOのクレトみたいな格好だ。いや勿論好きなんだけど、これが自分で着てみるとなんとも間抜け極まりないのである。なんか顔や体格とイメージが一致しないというか……この世界に来て出来てしまったニキビが憎い。ていうかインナーとパンツがなんかユニ〇ロっぽいんだけど、この世界ユニク〇あるの?


「どれも古い物ですが、『世界の記憶』の加護によって防御力が最大まで高められている至宝ですわ。フフ、とてもよくお似合いです、流石ですわ勇者様」


エリア姫が最早接頭語か語尾みたいになってるワードで褒めてくれた。お世辞なのか本気なのか読み取れないのは俺の経験不足か。とりあえず、俺は改めてエリア姫に向き合った。


「帰ってきたら、また本当の姿をお見せください」


すっぴんの事だが。エリア姫様は顔を赤らめながらも、微笑んだ。


「いくらでもお見せいたしますわ。なんならそれ以上も……」


「ウオッホン!!!!! いかんな、年のせいか、何かと最近超高等級スキルをぶっ放しそうになる……。勇者殿、お主の活躍、しかと期待しておるぞ」


王様が割り込んできた。一人娘が意外と大事らしい。ちなみにパンツがちょっと濡れた。


「はい! 行ってきます! お元気で!!!」


俺はすたこらサッサと出発した。後ろでは、マーチングバンドの『贈る言葉』が流れている。いや卒業式じゃないから!


 こうして俺はこの身一つと特に父さんと母さんが残した眼差しとかは詰め込んでない、非常に実用的なリュックサックで出発したわけだが、実は特にどう行くかとかは決めてないし、王国側からも特に指定はされなかった。


 曰く、自分の好きなように強くなれ、と。魔王を倒す為の旅をする期間は半年と定められたが、その間に魔王城に行き魔王を無力化もしくは討伐さえ出来れば、自由にしてよいという事だ。勿論ここがモンスターがよく出る~とかここは何が美味しい~とかある程度の指針は与えられているが。


「さて、どうすっかなぁ~」


 とりあえず、パンツは変えた。



 城門を抜け城下町を出て、軽く舗装された道路を1時間ほど歩いた所で、俺は休憩にする事にした。今目指しているのはこの先にある、ベルガ村という所だ。何でも、そこはここ1か月ほど、魔物による農作物への被害が激しく、村の財政も窮地に立たされているらしい。これは選ばれし勇者として、なんとしても救わなければ。


 そんでもって、あわよくば名声も上げちゃって、メインヒロインとかライバルなど見つかれば……。そんな事を考えながら、俺は道路わきの岩に腰を下ろし、メイドさんが持たせてくれた弁当を広げた。その時だ。


 げに恐ろしきは歪んだ正義を求める人の業である。


「お兄さんちょっといい? お食事中ごめんね~お兄さんこの辺の人?」


「すぐ終わるんでちょ~っとだけ協力してもらえます?」



 腰に剣を携えた二人組の憲兵に、捕まった。(職質)


「え? あ、はい……」


突然の乱入者にパニックになる俺。とりあえず慌てて弁当を岩の上に置く。


「ごめんね~ちょっと気になっちゃいまして、お兄さん若いよね? 学校はどうしたの?」


「が、学校ですか? いや僕この世界……」


「この辺最近やんちゃな子多いからね~、はい学生証見せて」


「あの、俺食事中なんですけど……」


職質など向こうの世界でもされたことないので最初はびっくりしたが、よく考えたら俺は勇者だ。そう思うと、飯の邪魔をした上に言外に人のことを不審者呼ばわりしてくる無遠慮な二人組に、なんだか無性に腹が立ってきた。コミュ障だってやる時はやるのだ。


「いやそもそもこんな所でご飯食べるってのもねぇ? ここ路上だし」


ここで後ろの憲兵が地味~にいやな所を突いてきた。ええい、負けるものか!


「ひ、人がどこで飯を食おうが勝手でしょ! ていうか俺勇者ですよ! 召喚されたばっかで身分証なんか持ってるわけないでしょう! ほらこれ! 勇者に代々伝わる正装!」


俺はありのままの事実を告げた。


「勇者って君、その恰好どう見てもユニ〇ロじゃないか……」


「やっぱここユニクロあんの!?」


「ほら、ダメだろ学校をさぼってこんな所にいちゃぁ。町の外にいたら魔王に襲われちゃうぞ?」


ダメだ。完全に俺のことを学校をサボって一人飯を食ってる悲しい不良学生だと思っている。


「いや、だから、その魔王を倒す為にこうして旅をしてるんですって! なんならお姫様に確認してみてくださいよ!」


「わかった、わかったから取り合えず町の駐屯所まで来てくれるかな? そこで学校なりお姫様なり親御さんなりに確認取るから。それで君が本当に勇者だったら謝るよ、ね? こっちも仕事なんだよ」


絶対謝らないやつだこれ! 憲兵達は非常にめんどくさそうな眼をしている。


「ほら来い!」


一人に腕を掴まれた。クソ! やむを得ない。後のことはエリア姫に何とかしてもらおう。


「≪女殺地獄油壷!(オイルショック)≫」


 手からなたね油を出し、精密な操作で俺の腕を掴む憲兵の手と、二人の足元に滑り込ませる。


「うわなんだ!?」


「気持ち悪っ! なんだこれ!?」


じゃあな! 邪悪なおっさん共! 俺は混乱に乗じて荷物を持ち、その場を逃げ去った。大人といえども本気を出した勇者の脚力には叶うまい。フハハハ、速い速い! 景色は流れるように過ぎ去って行き、二人の姿はあっと言う間に見えなくなった。


「フッ、後はエリア姫が何とかしてくれるだろう……。クソ、あいつらの顔は覚えたから、魔王倒したらあいつらの事を勇者権限でこき使ってやろう」


片膝に手を突くポーズを決めて、俺は言い放った。いや実際は緊張から解放されて膝ガクガクなだけだけど。





「あーあ、あれが俺の異世界初戦闘かぁ」


なんで異世界まで来て職質なんかされなきゃいけないのだ。


 俺は投げやりな感情で、その場に仰向けに倒れこんだ。周りはいつの間にか一面の草に囲まれている。なーんか上手く行かないんだよなぁ。しばらく雲の少ない、透き通った青い空をぼーっと見ていた。


 ああ、空の色は向こうと変わらないなぁ。


 そうしている内にふと、頭の上の方に何かがあるのに気づいた。


 それは、看板だった。


「何々…ぐ、読めない」


別に異世界語だからとかじゃない。普通に日本語で書いてある。単純に俺が仰向けなので上下逆さまになっているだけだ。俺は服に着いた草を払いながら起き上がって、その文字を読んだ。


「『ようこそベルガ村へ』……えっマジ?」



 どうやら、遮二無二走っているうちに、目的地に着いていたようだ。ご都合主義万歳。

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