第3話 Conductor
「現在貴方の体は、勇者召喚魔法の副次効果として、HPやMP、魔力、攻撃力等が大幅に増幅された状態となっています。《ステータスオープン》と唱えれば、ステータスーーつまり貴方の力が確認できる筈です。試しにやってみていただけるでしょうか?」
翌日、思ったよりもぐっすりすやすやと眠れた俺は食堂でまたもや豪勢な朝食を頂いた後、応接室みたいな所で再びドくされメイクをしてしまったエリア姫に説明を受けている。昨夜のあれは果たして夢だったのか、それとも現実なのか……。
そんな事を考えながら俺はエリア姫の言葉に頷き、淀みなくステータスオープンと唱えた。日頃の妄想のお陰で発音は完璧である。一瞬のうちに、宙に半透明のウィンドウが現れ、文字や数字の羅列が表示され、極めてなろう的な現象に心を昂らせる。
「さて、俺のステータスはどんなもんかな…?」
伊勢 快斗
AGE:14
BIRTH:25.October
Bloodtype:A
「ふむふむ……」
期待の表情を浮かべるエリア姫を横目に、画面をスクロールする。
好きな食べ物:母親の作る麻婆豆腐
嫌いな食べ物:なます
趣味:オタクなこと全般w
特技:ゲーム
「ん??」
なんかおかしくない? 不安になってスクロールする速度を速めていく。地味にこれ指でスクロールする仕様な上に画面も文字も大きいので、腕が疲れる。
好きなテレビ番組:SMO、最近は「異世界は鍋と共に」とか?
似ている芸能人は?:SMOのクレトかな〜やっぱりw
こっそり教えて、好きな人!:ヒミツ!
「ってこれ女子が小学校とかでよくやってたプロフ帳じゃねーか!!!!」
その膨大な項目は、所々砕けた文体で俺の秘密を赤裸々に暴いていた。家族構成とか持ってる資格とかまで書いてある。怖っ
1日の平均◯◯◯回数は「うおやばいやばいやばい! てかなんでこんな事まで知ってんの!?」
「あの、どうかしましたか…?」
怪訝そうに俺を見るエリア姫に画面を見せないように、咄嗟に手で隠した。
「いや、HPとかが見つかんなくて……あ、もしかしてこれか?」
アホみたいな質問の海をスクロールしていき、最後のページまで来た所で漸くそれらは姿を見せた。
LV:1
HP:2500/2500
MP:1500
攻撃力:3000
防御力:2000
魔力:2500
「あ、あった……ありましたよ! エリア姫!」
俺は喜色を顔にたたえ、相変わらず志村けん似なエリア姫に告げた。
「まあ、流石勇者様ですわ! ご覧の通り、ステータスは常人の50倍ほどにはなっていますわね」
そう言いながらエリア姫は自分のステータスを俺に見せた。そういう事も出来るのか。成る程、確かに俺のステータスは、レベルで劣るにも関わらずエリア姫の物を大きく上回っている。ていうかエリア姫のステータス、HPとかだけしか載ってないみたいなんだけど……。
「確かに言われてみればなんか力が溢れる気がする…」
なんとなく言ってみただけではあるが、実の所試していないのでなんとも言えない。エリア姫は一瞬微笑み、そして表情を正して俺に告げた。
「そしてここからが本題です。そう、貴方の戦う為の力……。碧天の加護。太古より伝わりし異界からの勇者にのみ与えられる、絶対的な才覚。私たちはこれを、エンシェントスキルと呼びます」
「エンシェント……スキルルゥ(巻き舌)……!!?」
つまりチートだな! ここでポイントなのは、大体こういう時にもらえるユニークなスキルには2パターンあって、大まかに
①「即死」とか「全属性魔法」みたいにわかりやすく強くてカッコいいもの
②「状態異常」とか「回復」とか「盾」とかの、一見ハズレスキルだけどなんやかんやあって覚醒すると実はすごい強いもの
に大別される事だ。(俺調べ)
勿論俺はどちらが来ても大丈夫だと思っている。何故ならオタクだから!
「はい、そしてそれこそが勇者召喚の真の目的にして最大の意味となります。どうぞこちらへ」
エリア姫は立ち上がり、いかにも裏に何かありますよって感じで部屋の壁の一面をびっしりと埋め尽くす本棚の前へと歩き、何やら小声で呪文を唱えた。
これはもしや男の子が大好きな、隠し扉とか地下への階段的なアレか!!? つくづくテンションが上がる展開だ。やがて本棚が轟々と音を立ててゆっくりとスライドしていく。想像通りの空間が本棚の後ろに広がっている。
「デンジャラスハザード阿部さん、いつもお疲れ様ですわ。地下通路への扉を開いて頂けませんこと?」
だが、そこに待っていたのは隠し階段でも何でもなく、木の椅子に座った、腹巻をしたおっさんだった。
エリア姫が慣れた様子で、新聞らしき書物を読みながらお茶を飲むおっさんに問いかける。
「ああ、勿論ええですよ。封印の間への通路でさぁね」
「助かりますわ」
「お姫様いっつもかわいらしからね、サービスで飴ちゃんもあげちゃるわぁ。ほらそこの小僧の分も」
「まあ、ありがとうございます! ぜひ頂きますわ!」
2人はそう会話を締めくくって再び本棚は元の位置に戻り、次の瞬間エリア姫の目の前にポータル的な何かが現れた。
「えっ!??!?? 何、えっ、誰!?!??」
理解の範疇をベリーロールで跳び越えてゆく出来事に思考が全く追いつかない。
「紹介しておりませんでしたわね、このお城のポータルワープを管理しているデンジャラスハザード阿部さんですわ」
「デンジャラスハザード阿部さん!?」
「これをくぐれば城内のあちこちに一瞬で行けますのよ。さあ、こちらへ。あ、飴ちゃんどうぞ」
そう言いながらエリア姫はその向こう側に暗い通路が広がる楕円形の何かにするりと入っていった。慌てて俺もそれに倣う。
「あ、ありがとう……飴っていうかこれ氷砂糖じゃん……。うわすごい、本当にワープしちゃった」
正直デンジャラスハザード阿部さんのインパクトが強すぎて若干感動が薄れているが、これも見事な異世界マジックである。俺は一瞬にして冷たくカビ臭く、薄暗い通路に移動していた。気づけばエリア姫は指の先に火を出して灯りにしている。こういう魔法っぽい魔法、こっちに来て初めて見た……。
「よかった、ちゃんとした魔法がある異世界なのね……」
「"スキル"の事ですか? ふふ、貴方の世界には元々"スキル"がありませんものね」
エリア姫が微笑んだ。
「このくらいなら、少し練習すれば誰でも使えるようになりますわ。勇者様ならきっと、すぐにもっと強いスキルを使えるはずです」
本当にそうだったら嬉しい事この上ないぞ。得意属性とかあるのかなぁ。俺はキャラ的にやっぱ雷とか風かな……。俺くらいの知識があればきっとオリジナルなスキルも……今こそ貯めに貯めて来た妄想ノートが役に立つ時か……!」
「勇者様? ここが目的の場所ですわ」
はっ! つい最後の方を声に出してしまっていた。エリア姫が若干引き気味だ。いかんいかん、今から大事な大事なチート取得の儀式なのだ。舞い上がっている場合ではない。俺は身を固くして、案内された小部屋の扉を開ける。
「ここが……」
その部屋は小さかったが、部屋に足を踏み入れた瞬間に、俺は全身の細胞が震えるのを感じた。部屋の真ん中に小さな円形の台座があり、その上に青く周囲を照らす光の玉が鎮座している。更にその真上には、巨大な円錐がその玉を今にも貫ぬかんとばかりに、静かに回転している。
「これこそがこの『世界の記憶』そのもの。魔王に対する切り札にして、我が国が保有する最高の戦力。その名も、エンシェントスキル」
「そしてこれを手にするのが、俺……」
凄まじい威圧感を放つ光の玉に、俺は目を奪われた。
「ええ。エンシェントスキルはこの世界の人間には扱えぬ禁断のスキル。だからこそ異世界から召喚した貴
方の力が必要なのです。さあ、その玉に触れて、貴方に最も適合するエンシェントスキルを得るのです」
俺はごくりと唾を飲み、台座へと一歩一歩、ゆっくりと足を踏みしめた。
「俺の……力……」
玉へと手を伸ばす。手の平が火傷しそうなほどの熱だ。負けじと碧玉に触れる。
それは、一瞬だった。指が触れた瞬間、俺は壮絶な浮遊感と共に、自分の中に歴史を見た。比喩ではない。手を通して体を、頭を、脳を歴史の奔流が駆け抜けていく。これは多分この世界の歴史だ。この世界の、時の流れだ。世界の記憶全てが、今まさにこの場所に――
「ハァッ!!!!!!」
目を覚ますと、さっきまでいた部屋の台座の側に俺は倒れていた。エリア姫が心配そうにこちらを見ている。
「ゆ、勇者様、大丈夫ですか!? 急に倒れたと思ったら、すぐに起き上がって……」
そうか、随分長い時間『世界の記憶』に飲まれていたように感じたが、現実では一瞬気絶していただけだったのか。今は、何か長い夢を見ていたような感じだ。
「いや、大丈夫です」
そんな事よりも、早くこの身体中に充ちる全能感の正体を確認したかった。
凄まじい程のエネルギーを自分の内面から感じる。これがエンシェントスキル……。俺はステータスを開き、画面を一気にスクロールした。思った通り、ステータスの一番最後に新たな項目が追加されている。
さて、この俺の力、その名前は……
『なたね油を操る力』
は?