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第2話 Bellow in the anotherworld

導入が雑な割に長過ぎたのでここからは巻きで話させて頂くが、皆さん御察しの通りで、俺が目を覚ましたのはまあ見事にテンプレというかベタというか、擬音がつくとしたら「異世界っ!」って感じの、煌びやかで豪華絢爛な宮殿だった。


現在俺はそこで俺を呼び出したという魔術師に手を取られ(ジジイだった)、言われるがままに玉座へと歩いている。


やはりと言うかなんというか、トラックに轢かれて死んだとあれば(そういうことにしている)これはかなりアレな感じの展開だ。


 目覚めてわずか0.5秒で「これはアレだな」と悟ったオタクな俺は、慌てたりせずにスマートに状況を判断し、これから始まるであろう冒険に心を躍らせながら、スキップで玉座の間へと足を運ぶのだった。


むふふ……最初の一言は「おっさん、てめえいきなり呼び出しやがって……! 一体ここはどこなんだ!」で決まりかな!


とか妄想を広げながら、俺は軽やかなステップを刻む。


この先に待ち受ける、悲壮な運命も知らずにーー。



「此奴が召喚されたと言う、異世界の勇者か」


なろう読者がパッと思い浮かべる平均的な「謁見の間」で、玉座に構える王様が厳かに言い放った。


「は……まだ幼い少年ですが、転送された以上それは間違いなくございます。王よ」


ここで、このテンプレ異世界に来て初めて違和感を感じる。


 ここまで完璧によくあるテンプレだったので、俺はてっきり王様も「敬語?はっはっは、よいよい」みたいな腹の出た気の良い親父だと思っていたのだ。


 しかしこの目の前の王様、筋骨隆々、纏う雰囲気は虎か熊かと言わんばかりで、ここに来るまでに想像していたような金のマントや王冠の代わりにボロボロの軍服を纏っている。最早殺気すら感じる瞳は片方が眼帯で覆われており、その下に大きな傷跡を拵えていた。


「お前、名前は?」


虎が静かに、俺を睥睨し、唸った。


「ひ、ひゃせ、いいい伊勢快斗でひゅ……」


「イセカイト……突然呼び出したのは申し訳なく思う。だが、こちらにも事情があったのだ。不安なのはわかるが、まずは落ち着いて欲しい」


小動物のように震える俺を見て王様は告げた。あ、良かった、見た目よりはいい人っぽい……。少し落ち着くことが出来た。


「あ、あの……ここは一体……?」


「うむ。諸々の事に関して、我が娘エリアより説明しよう。ここに」


「はい、お父様」


玉座の影で、小柄な影が動く。誰かいたのに全く気付かなかった。きっとこれは異世界の定番、美人のお姫様に違いない! 俺は期待の目線で、玉座の影より姿を見せるエリア姫に注視した。


「御機嫌よう。カイト様。私がアルテミリア・ルナシウス・グロウ・ラ・エリア。この国の王の娘にして第一王女です。」


「え?」


つい素っ頓狂な声を出してしまった。王様とお姫様がこちらを不審な眼で見やる。


「ご、ごめんなさい急につわりが……」


「左様ですか」


あぶねぇぇ! なんとか誤魔化せたが、しかし俺の驚きに代わりはない


 エリア姫の1分で考えたような長ったらしいフルネームは、耳に入って来なかった。


 何故ならそこにいたのは、少なくとも俺が元いた世界では、「限りなく微妙」と言われるであろう容姿のお姫様だったからだ――。


「状況が状況なので手短にお話しさせて頂きます。まず、ここはルナシウス王国。あなたが元いた世界とは異なる世界にある、超王権国家です」


微妙というかなんというか、化粧がとにかく濃い。話す口にはよくわからない色のルージュがべったりだし、チークは濃すぎてバカ殿みたいになってる。その割に眉毛は短いのが余計にアレだ。

この世界のスタンダードなのか、よく見たら周りを囲むメイドさん(?)や女騎士っぽい人も、例外なくケバいと言うかバカ殿っぽかった。


 どういう事だ!? ここはテンプレ異世界の筈だ。登場する女の子は何故か例外なく可愛くて、俺にほのかな恋心を抱いてくれる筈なのだ。


 いや、もしかしたら、この世界の美意識自体が、俺が元いた世界と大きく異なるのかもしれない。そんな最悪な可能性を憂い、俺は静かに、自分の運命を呪った。


「我々人類は現在、2年前突如現れ、大陸の一部を根城とする魔王軍との戦争状態です。彼等の持つ魔導部隊や騎龍部隊は非常に強力で、我が国が蹂躙されるのも時間の問題でした」


いや話が全然入って来ないんだ! なんだその化粧は! 少なくとも俺がブクマしているなろう小説でこんな事態は読んだことも見たこともない。いや探せばあるかもしれないが。


 しかもこのお姫様、癖なのか目が悪いのかこっちを見る時にすごい寄り目になってるので、余計志村けんっぽさが増している。


「そこで我が国は、隣国のアイーンランド帝国……」


「ブフォッ!」


ついに吹き出してしまった。これはまずい。エリア姫や侍従たちは怪訝な顔をしている。俺は必死に誤魔化し、話の続きを促した。


「ご、ごご、ごめんなさい! 持病のうつ病が……」


「まあ、それは大変。いきなり違う世界にお呼びしてしまったのですし、無理もありませんわね。本当に申し訳ありませんわ。お話しは早めに切り上げて、今夜はすぐに休めるように手配しますね、勇者様」


エリア姫めっちゃいい子だ……。少なくとも中身はテンプレ通りの異世界プリンセスみたいなので、ごくわずかだが安心した。


「感謝します……」


「では手短にお話ししちゃいますね! カイトさん、いえ勇者様、貴方にはこの国を代表する勇者として、ルナシウスの名の下に魔王を討伐して頂きたいのです」


きたきたきたきた! これこそ正しく100万回は読んだ展開である。勿論そんな事が出来る力など露ほども無いが、恐らく俺には女神やらなんやらの加護でチートがもたらされているに違いない。


「ですが、勇者様もお疲れのようですし、詳しいお話はまた明日にして、本日は城でお食事を取っていただき、早めにお休みになられてはいかがですか?」


あ、そういう系は明日なのね。


 そういえばあんま意識してなかったけど、外はもう真っ暗だった。それに実は結構なお腹も空いていた。


「うーん、それではそうさせていただきます」


エリア姫はニコリと微笑んで、顔の横で手を叩き、侍従達に食事の用意をさせた。隣の王様も席を立ち、広間の中央に用意された巨大なテーブルへと赴く。


 次々と美味しそうな料理が運び込まれ、広間が様変わりしていく。嗅ぎ慣れない匂いが鼻腔をくすぐる。

母さんの手料理、また食べたいなぁ。少し感傷に浸ってしまったが、ここがテンプレ異世界なら元に戻る道も必ずあるはず。待っていてくれよ、元の世界!俺は決意して、着席し、手を合わせた。


「いただきます!」


 そういえばこの世界の人達はいただきますとか言うのだろうか。ていうかさっきから普通に喋ってるけど、言語の違いとかどうなってるんだろう。見れば、エリア姫と王様も俺と同じように胸の前で手を合わせ、何事か祈りの様な言葉を小声で唱えている。


「「さだまさし」」


「いやそれ絶対違うだろ!」




 あれだけあった料理は物の見事に姿を消し(ほとんど王様が食った)、俺はエリア姫様達と別れ、湯浴みをし、お腹をさすりながらメイドの人と共に自室への道を歩いていた。ちなみに服は貸してもらった。


「ありがとうございます」


そこに、いくつかの人影が通りがかった。


「あれ? エリア姫様?」


こちらを向いていない上、湯浴みをした後のようで髪を降ろしてはいるが、メイドに囲まれるあの高貴な後ろ姿は多分そうだ。いくら顔が志村けん、若しくはゆり〇んレトリィバァ似でも、その育ちからなる高貴な風格は隠せぬものである。


「あら、カイトさん、わたくしもお風呂を頂きましたわ。何のお化粧もしてなくて恥ずかしいのですが……」


そんな事をのたまう眼前のお姫様に、俺は静かに微笑んだ。というのも最初はビビったが、よく見たらエリア姫様のお顔は、なんというか愛嬌があるというか、正直ゆり〇んやブル〇ンを見てる時とおんなじ感覚なのである。なので俺はわりと短時間で慣れてしまった。童貞の俺としては逆に親しみやすいくらいである。美人ハーレム展開が最初から挫折しそうなのだけが残念だが……。


「いえ、お気になさらず」


静かに告げる俺にエリア姫はフフッと笑い、振り向き――そして俺は絶句した。本日二度目の絶句だ。


「色々不安かもしれませんが、どうかごゆっくりなさってくださいね。何か不便がありましたら、いつでもお申し付けくださいな。それでは、おやすみなさいまし」


「あ……はい……おやすみなさい」


 エリア姫様はそう言って、曲がり角で姿を消した。俺はしばらくそこに立ちすくんだ。


「か、カイト様? どうされました?」


「あ、はい……」


放心した俺はメイドさんに言われるがまま無駄にあちこち金ピカな豪華な寝室へと入り、この世のものとは思えないほどフカフカなベッドに顔を埋め、


 とりあえず今一番声に出して言いたい事を、出来るだけ周囲の迷惑にならないように叫んだ。



「すっぴんめっちゃ可愛いじゃんかーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

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