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キックオフ

フットサル場に着き、俺は美咲から今回の大会について、説明を受けてた。

まず、この大会は高校生以下の女子なら、誰でも参加できるらしい。しかし、今回の参加者は中学生が少しと、あとはほとんどが高校生のようだ。

ルールは普通のフットサルと一緒で、トーナメント形式で行う。そこまで大きな大会ではないので、参加チームは8チーム、つまり3回勝てば優勝ということになる。


「大体こんな感じですけど、何か質問ありますか?」


「そうだな、監督って必要なのか?」

美咲は、俺に監督として出てもらうと言っていたから、他のチームにもいるのか気になった。


「いえ、監督がいないとダメってゆうルールはないですよ。正直に言うと、ただ私が、早く先輩とサッカーしたかっただけです。今回はフットサルですけどねっ」

少し照れながら美咲が言った。

あれだけサッカーから離れようと思っていたのに、今となっては、その言葉を嬉しく感じていた。


美咲は、照れを隠すように

「それじゃ、助っ人の所に行きましょう」

と、言って歩き出す。

俺は、

「そうだな」

と、だけ言って美咲に付いていく。

助っ人の事を完全に忘れていた俺は、内心では不安になっていた。


少し歩くと、ベンチに座って楽しそうに話している、4人組の女子が目に入った。

俺は、もしかしなくても、助っ人はあの子達だろうと思った。

すると、美咲もその子達に気付いた様で、

「先輩、助っ人はあの子たちですよっ♪

人見知りは大丈夫そうでしょ?」

と、言った。

たしかに俺は、内心ホッとした。なぜなら4人の内の一人がよく知っている人物だったからだ。

俺が唯一、毎日顔を合わせていて、毎日必ず会話をする人物だ。


向こうは、俺達に気付いてなかったので、俺の方から近づいて声を掛ける。

「よっ、有希」

そう、助っ人とは、俺の妹の有希の事だったのだ。あとの3人は、着ているジャージが有希と同じだから、恐らく同じ中学校のチームメイトだろう。


「あ、お兄ちゃんっ! 本当に来たんだね!」


「あぁ、今日はお兄ちゃんじゃなくって監督って呼べよ?」


「はいはい、それよりみんなを紹介するねっ!」

有希は、俺の冗談を華麗にスルーして、後ろにいる3人の紹介を始めた。

「まず、この子がMF(ミッドフィルダー)中川春乃(なかがわはるの)ちゃん」


「よろしくお願いしますっ!」

春乃ちゃんはとても明るくて、人当たりが良さそうな娘だ。


「次が、DF(ディフェンダー)下田朱莉(しもだあかり)ちゃん」


「よろしくお願いします……」

朱莉ちゃんは身長が小さく、俺と一緒で、人見知りをするタイプのようだ。


「最後に、GK(ゴールキーパー)守谷楓(もりやかえで)ちゃん」


「よろしくお願いします」

逆に楓ちゃんは身長が大きくて、中二にしては大人びている様子だった。


「みんな2年生だけど、スタメンだから実力は確かだから」


「へぇ、すごいな。みんなよろしく」


「よろしくねっ!」

俺に合わせて、美咲も挨拶をする。


「「「よろしくお願いします」」」


お互いに挨拶を済ませると、有希が

「それじゃあ、もう受付済ませてあるから、試合運びとかの話ししよっか。

第一試合だから、すぐ行かなきゃだけど」

と、言ったので、試合の話しになった。


普段なら、あんまり喋らない俺だが、今日は監督として参加しているから、話の中心になろうと思い、気合いを入れる。がんばれ!俺!


「フォーメーションはどうする?」


「あ、それはみんなで話し合ってダイヤモンド型にする事になってる。美咲さんにも納得してもらってるから」


「私も、フットサルはあんまりやった事ないので、簡単なダイヤモンド型が良いと思います」


美咲も納得していたし、みんな慣れていないフットサルなら、ダイヤモンド型が一番無難だと思い、次の話題へ進む。

「そっか、それじゃ試合運びはどうする?」


「あ、そこも話し合ってて、初めは私と有希ちゃん中心に攻める事になってます」


「私と朱莉ちゃんは、美咲さんのプレーに慣れるまで、フォローとかに回った方が良いと思うので、美咲さんと一緒にサッカーした事ある有希ちゃんに任せることにしました」

春乃ちゃんがそう言うと、朱莉ちゃんが頷く。


俺も、確かにそれが良いと思うし、美咲と有希なら得点力も問題ないので、何も言わない。


「守備は、試合中に調整します……

ある程度シュート撃たれても、楓ちゃんなら止めてくれるので……」


「任しときな、まあ朱莉がいるから、そんなにシュートは撃たれないと思うけどな」


朱莉ちゃんの身長が小さいから、フィジカルが心配になったが、DFとGKなら、普段からお互いのプレーを、ちゃんと見ているはずだ。

その二人が、ここまで信頼し合っているなら、守備も問題ないだろうと思い、何も言わない。


ここで、俺は思う。

(あれっ? 俺、必要なくね?)


『第一試合のチームはコートに集まってください』

結局、俺はほとんど何も言えないまま、試合の時間になってしまった。


「あ、もう時間か。それじゃみんな行こっか」

有希がそう言うと、みんな立ち上がり着いていく。


不意に、美咲が振り向く。

「先輩!

成長した私の実力、見ててくださいねっ!」

そう言った美咲の笑顔は、あの時と同じで、

満開の桜の様に美しかった。

「あぁ、期待してる」

それだけしか言えなかったが、俺は言葉通り、美咲の成長に期待していたし、早く見てみたいと思っていた。


コートは2つあって、どちらも人工芝だった。

監督や控えメンバーが座るベンチがあったので、俺はそこに座って見る事にした。


試合が始まる直前、みんながアップなどをしている中、ひと足先にアップを終わらせた有希が隣に座って靴紐を結び直していた。


「有希も成長してるから、ちゃんと見ててね」

有希は、俺の方を向かずにそう言った。


普段の有希は、自分の事を「私」と言う。

でも、昔は「有希」と言っていた。

そして、今になっても、不安な時や心配事があると、俺の前では「有希」と言ってしまうのだ。


その事を知っている俺は、何か勇気付ける言葉をさがすが、結局、

「おう、がんばれ」

と、言うだけしかできなくて、兄貴失格だと思った。


でも、それだけで有希は顔をパッと明るくし

「うん!

あと、頼りにしてるからね!かんとく!」

と、言って、有希は整列し始めているみんなの所へ向かった。


俺が落ち込んだ事に、気付いていたか分からない。でも勇気付けるつもりが、逆に元気付けられてしまった。本当に、よく出来た妹だ。




「両チーム、出揃いましたね?

それでは、これより第一試合を始めます。」

挨拶をして、お互いにフォーメーションにつく。

ウチのフォーメーションはトップに有希、左サイドに美咲、右サイドに春乃ちゃん、バックに朱莉ちゃん、キーパーに楓ちゃんだ。

見た感じ、相手も同じダイヤモンド型を採用しているようだった。


先行は俺達で、トップの有希からキックオフだ。


そして、ついに試合開始のホイッスルが吹かれた。

「ピィーーー」


キックオフと同時に、有希は美咲へパスをした。

パスを受けた美咲は、ドリブルをして上がっていく。

そして、相手と一対一になり、縦に抜こうとした。誰もがそう思った。

しかし、その時にはもう、鋭いパスが相手の股の下を通り、走り込んでいた有希へと届いていた。

有希は、ワントラップで、前に抜き出ると、しっかり踏み込み、足を振り抜いた。

一瞬の出来事で、相手のキーパーはほとんど反応出来ずに、ボールはゴールへと吸い込まれていった。


何人かギャラリーがいたが、あまりの衝撃に、会場が静まり返る。


「有希ちゃん、ナイスシュート!」


「美咲さんも、ナイスパスです!」

そう言って、二人がハイタッチした。


その瞬間、会場が湧き上がる。

「なんだ今のプレー!?」

「今の高校生か?」

「パス出した方はそうだが、決めた方は中学生だってよ!」

「まじかよ!」


相手も油断していた訳じゃない。美咲のマークに付いていた人は、美咲が縦に抜こうとした瞬間、警戒心はMAXまで高まっていた。にも関わらず、美咲はその相手の股を通してパスを出したのだ。


美咲が、パスを出す場所を1cmズレても、有希の走り込むタイミングが1秒ズレても、あそこまで、綺麗に決まらなかっただろう。

美咲のパスと、有希の走り込むタイミングとトラップ、全てが完璧だったから、あんなに綺麗に決まったのだ。


この時、俺は確信した。

この二人がいれば、優勝は間違いない。

そして、この思いは、もっと大きな大会だったとしても、変わらないだろう。



7話目書き終わりました!

本当は、土曜日に出す予定だったのですが、風邪をひいてしまって、今日まで長引いてしまいました!本当にごめんなさい(>_<)

そして、感想やブクマなどをしてくださった方本当にありがとうございます!とっても嬉しかったし、すごくモチベ上がりました(*^▽^*)


次も頑張って書くので、是非読んでくださいね!

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