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10魔 西方守護伯付き魔女の解呪






 小さな口をぽかんと開けるミルを見ながら、そういえば王女も自分をミルと言っていたなと懐かしく思い出した。

 あれから一度も拝謁叶わない姫様。

 大きすぎる女王の威信に苦労されている噂ばかりが耳に届く。あの時、自分のしがらみを不思議そうに消し飛ばした小さな小さな愛らしい花の精。いつかきっとご恩をお返ししようと誓った。他の誰かが彼女を詰っても、本当に何の力がなくても、決して裏切ることなく生涯お仕えしようと心に決めて此処まできた。


 そうして目の前に現れたのは、どこもかしこもちまっとした少年。記憶の中の姫様を髣髴とさせる色合いが、小動物を思い出させる様子でちまちま動いていたら、どうやったって気になる。些細な事に大仰に驚き、真面目で素直で努力家だったら、気に入らない理由がない。

 姫様と似た境遇で、根こそぎ奪われた自信が憐れでならなかった。姫様も、ミルも、どうして彼らを育む親世代からの『忠臣』はいつの時代も阿呆ばかりなのだろう。親世代に惚れぬく代わりに、全く違う存在である子どもの寸文の狂いも許せないなどと、どうして言えるのだ。





「そ、な、こと、言ったん、です、か?」


 ミルは止まらない身体の震えを持て余した。どうして震えが止まらないのか分からない。どうして震えるのかすらも。


「仰った。俺は、救われた」


 深いエメラルド色の瞳に映った自分の姿を見て、ミルは叫んだ。


「忘れてください!」

「なぜだ?」


 怒りもせずに穏やかに応えるガウェインから距離を取りたかった。こんな優しい腕に慰められるのは耐えられない。必死にもがくのに、優しい声音とは対照的に腕はびくともしなかった。

 強い人。周りの評価に惑わされぬ強さを既に身につけた瞳の中に映った、酷く情けない顔をして惑う自分の顔。なんて情けない。泣き出すなんて、本当に、なんで。

 ミルは悲しくもないのに溢れる涙を止められなかった。これは悲しみでも嘆きでもない。怒りだ。


「貴方の苦しさを何一つ理解しないで、知りもしないで、思ったことをただ口にしただけの言葉です。自分がそうなったらあっという間に沈んで、自分の言葉も、忘れてっ……! お母様のようになれなくても、せめて皆に呆れられない者にならなければならなかったのに、そうなれなくて、だったら傷つく方が悪いのに、出来ない私が悪いのに、いつまで経っても傷ついて! 隊長のように立派に責務を果たすどころか、恥だからと奥に隠されたらそのままで、出来ない自分が当たり前で、なのに恥ずかしくて、役に立てないならせめて邪魔にはなりたくないのに、ずっと未熟で、どうしたらいいか、分からなくて」


 いつまでもいつまでも些細な言葉で傷ついた。彼らは事実を言っているだけだったのに、指摘されて傷ついて、そんな自分が情けなくて堪らなかった。

 

 しがみついて泣くことをミルは知らない。泣くことも戒めてきた、泣いて自分を憐れむのが嫌で、涙で許しを請うのも、傷ついたと相手に知らしめるのも嫌だった。




 自分の服を握りしめたままのミルの手を、ガウェインが柔く解いて絡め取る。はっと涙を散らした金紫は、息を飲むほど美しかった。


「お前は優しいんだ。俺は腹立たしかったぞ。そいつらに殴りかかったこともあったなぁ。当然勝ったが」


 腹を立てればよかったのだろうか。でもミルレオは誰に腹を立てればいいかも分からなかった。悪いのは彼らを失望させる自分で、母を悲しませた役立たずだ。


「私、お母様が、大好きなんです」

「ああ、俺も親父殿が好きだった」

「お母様に、褒められたくて」

「俺もだ。親父殿に褒められると嬉しかった」

「あんな顔、させたくなかったのに」


 母は自分の影響で娘が苦しんでいるのを知っていた。だが表立って擁護できる立場ではない。そうしてしまうと、女王は娘に甘いと、結局貶めるのはミルレオの立場だ。

 公式の場で失敗した娘に嘆息し、冷たく突き放した後、唇を噛み切るほど苦しんでいたのを知っている。母を苦しめているとの思いが余計にミルレオを焦らせた。


「私の、所為で、お母様、悲しませて」


 溢れた涙で息も出来ない。

 何年も何年も滞ってきた感情が決壊したら、最早自分の意思では止められない。ガウェインも止めない。それどころか更に強く抱きしめて、二人の身体は隙間なく密着した。人の体温は涙に効く。弟妹が泣いていると抱き上げて慰めたミルレオはそれを知っていたけれど、自分が人にしてもらった記憶は遠い昔だ。


「お前の母親になれと強要する阿呆共の言う事は聞かんでいい。本人になったら成り代わりだろうが。魔女の掟で成り代わりは大罪だったよなぁ。お前はお前でいいんだよ。月並みだがな。逆に、ああなられたら、俺を含めて西方守護軍は泣くぞ。本気で」


 腹の底から謝りたくなるあの怒声を、このちまっとした生き物に発せられた日には、ガウェインはもう何も信じられない気がする上に立ち直れない。





「俺は魔女について詳しくない西方の出だから何とも言えんが。お前、普通に魔法使うときと解呪するとき、違わないか?」


 ミルがいとも簡単に放つ術式は、緻密すぎるほど精密な陣だったのに対し、解呪に望む際に発せられたのはいつもの繊細さとは違い艶やかな大輪の華を思わせた。少しの間返答はなかった。嗚咽を噛み殺すのに凄まじい労力が掛ったからだ。


「お母様の、術に、私の、術式じゃ」

「違うんじゃないか? お前の術じゃないと解けないのかもしれないぞ。『それ』に気づく事が、本当の『解呪』のように俺は思う。いいか、母親のようになれという周囲の押し付けは既に呪いだ。お前が解くべきは母親からの呪いじゃない。そっちを解かない限り、お前の呪いは絶対に解けない」


 役立たず役立たず。粗悪な模造品。

 繰り返し、繰り返し、そんなに事実を確認してくれなくても分かってる。私はお母様の外見と魔女の血だけを受け継いだ、似ているだけの粗悪品。何をしてもお母様になれない役立たずの王女。

 分かっている。分かっているのに、どうしていつまでも傷つくのだろう。


 ガウェインは言う。お母様になるな、と。いつもは鋭い目つきが穏やかにミルを見下ろしている。優しく微笑む顔が間近にあるのに、涙が厚く膜を張ってよく見えない。長い指がミルの手を取り、黒い指輪をなぞった。


「俺達とここで過ごしたのはお前だろう? お前の母親が俺付の魔女になるんだったら、俺は全力でお断りだ。いいか、俺達はお前がいいんだ。ここにお前の母親が来ても、それはあくまでお前の母だ。俺達の基準はお前だ、ミル。西方守護伯付魔女ミル・ヴァリテ。お前の職場の誰一人、お前がお前の母親になることは求めていないぞ」


 十年以上刷り込まれてきた『常識』を、ガウェインは真っ向から否定した。そして、最初に否定したのは過去のミルレオだ。今のミルレオがすっかり忘れてしまったあの日のミルレオ。彼女が思った『不思議』なこと。ミルレオがレオリカになったら、誰がミルレオになるのだろう。父と母が名付けてくれた、ガイアとリアの姉は、一体どこに。




「北に銀雨、東に緑華、西に雪彩、南に陽音」


 洟をすすって何とか声を絞り出す。解呪の言霊は後半のみだ。これは初めて習った言霊で、ウイザリテ創立者が魔女を称えた言である。ウイザリテの魔女は、ここぞという時、この言霊を使う。


 ざわりと身が粟立つのが分かる。怒声に身構えて萎む言葉を支えるように肩を抱く力が強くなった。


 ミルレオの術式は緻密すぎるとよく言われる。恐らく、国で一番。

 無駄に練るならレオリカ女王のように華やかな式にしろと言われ続けてきた。けれど心配性な自分は、どうやっても細かく這った陣しか組めなかった。

 緻密に緻密に、それ自体が芸術品のように練り上げられ、触れれば壊れそうな儚い結晶のような陣。これがミルレオの、ミルレオだけの陣だ。


 内に馴染んだ呪いが全身を覆う。浮かび上がってくると思われた顎は大人しく留まっていた。

 長い銀青が風に従って靡く感触を感じながらミルレオを思い出す。ミルより全体的に柔らかく丸みがある。痩せっぽっちの細さとは違う細さ。女官に磨き上げられて光る、透き通った白い肌と爪。清純な顔に似合わずあるわねぇと母に妙な感心をされた胸。小動物を思わせた手足はしなやかに伸び、唇は淡い春の色。



「我が身に宿りし呪いを退けろ!」







 一際増した光にガウェインは目を瞑る。閉じて尚、目を焼いた光を持て余し気味にようやく薄目を開けた。同時に、震える長い睫毛に覆われた透き通るような金紫がゆっくりと開く。

 ガウェインは腕に抱いている感触が全く違う事に気づいていた。ただ細かった身体が華奢さと柔みを帯び、いつもの香りが一段階上がった気がする。少し身長が高いのはヒールの所為か、けれど明らかに等身の比重が違う。思わず舌打ちした。

 ミルを信じていたのに嘘をつかれた。何が大して変わらないだ、嘘つけ!


 腕の中にいるのはちまっとした小動物ではない。少女と女の均衡にいる危うさとしなやかさを併せ持った、秘宝のような美しさを持った娘だ。



 唖然としたガウェインの腕が緩まったのにも気づかず、ミルは自らの両手をまじまじと見下ろした。眼下に映る景色はミルレオが最後に見た景色だ。首から胸元にかけてきちりと閉じられ、軍服のような堅苦しさと装飾。しかし足元は襞とレースを組み合わせ、たっぷりとした布で構成されたスカート。

 濃紺の生地が、磨かれたような光沢を発して朝日を弾いていた。


「もど、った?」


 声が高い。ミルも全く低くなかったけれど質が違う。水を思い出す涼しげで風のように流れる声。ガウェインは必死に記憶の中のミルの声と照合して挫折した。男と女だ。同じはずがない。ミルであることが重要だと言った自分が形を探してどうする。


「戻った……」


 ミルは呆然と両手を見下ろしている。しばし待っても変わらない体勢に痺れを切らしたガウェインは、少し躊躇いながらそっと『彼女』の顔を上げさせる。美しい、以外の言葉が出ないはずなのに、口は勝手に違う言葉を放っていた。


「……どこかで見た顔だな」


 弟が描いた物だからと後で返却したあの――……びくりとミルの身体が揺れて泣きじゃくった顔が凄い勢いで下を向いた。


「へ、変ですよね。私、酷い顔をしていると思うので、その……笑って頂いて結構です」

「いや、変というか」


 言い淀むガウェインの様子に、ミルははっと気づいた。白い頬がみるみる青褪めていく。







「あ、あの、女の私ではお傍に置いては頂けないのでしょうか」


 男所帯の軍の中でこの格好は問題があるのか。そしたら帰されるのだろうか。ミルは自分の中で思考が絡まっていくのを感じた。

 何の問題がある?

 元々呪いを解けと放り込まれた場所だ。役立たずでも政略結婚くらいなら使い道のある年齢と性別。顎様との結婚はなくなっても、いつかは、そんな形でも役に立てるはずだ。だったら帰るべきだ。それが王族としての務めで、ずっと願っていたではないか。お母様の役に立ちたいと。


 それなのにミルは足元が崩れていく感覚がした。元々存在しなかった『ミル』が死ぬだけだ。二度とガウェインに頭をぐしゃぐしゃにされる事も、トーマスがお菓子をくれる事も、ジョン達に娼館に連れて行かれる事も、ザルークにデコピンされる事も、サラに怒られる事もなくなるだけだ。

 全てミルレオが得るはずがなかったものだ。それを失ってもミルレオは何も失くさない、のに。


 溢れ出た涙を両手で無理矢理押し留める。強く擦る手をガウェインはやんわりと阻んだ。


「お前は泣き出すと止まらんな」


 声音に苦笑が混じっていて急に恥ずかしくなった。彼の前で泣いたのが初めてでないのを思い出したからだ。慌てて顔を上げた拍子にぼろりと涙が落ちて余計に焦る。


「ち、違うんです! 私、王宮では泣いたりなんか、本当ですよ!? ずっと、何年も泣いてなんか!」

「こんなに泣き虫なのにか? よく耐えられたな」

「私は、傷つくなんてしてはいけないんです。私が出来ないからお母様を苦しめて、みなが言うのは本当の事で、事実を言われて傷つくなんて」


 急に失われたミルの表情、その上を涙が一筋流れ落ちた。


「役に立てないのなら、せめて、傷つかない強さを得なければ」


 長い間自分に課してきた言葉を言い切る前に、何かが唇を塞いだ。



 最初は泣き言なんかを聞かせてしまったから怒っているのかと思った。だったら手を使うなり言葉で遮るなり、足で去っていけば事足りる。

 それなのに、瞳の中が確認できるほど近い。


 私がいる。

 目を閉じる所作にも気づかず、ミルはただガウェインの瞳を見つめた。一度離れたときも、じっと瞳だけを見ていた。だから気づかなかった。

 腰に手が回り、胸と胸が触れ合うほど強く抱き寄せられた事も、再び唇が重なった事も。深まっていく口付けにびくっと身体を震わせると、宥めるように優しい手が髪を梳いた。すぐに意識は口付けと瞳の中に奪われていく。


 私がいる。これはミル? ミルレオ? 姿はミルレオ、でも隊長が触れているのはミルで。私がいる。隊長の瞳の中に、私が。


 私が、いる。




「泣き止んだな」


 ふっと笑ったガウェインの瞳が突如鋭くなった。


「まずい……ミル、解呪の後でもあの姿を取れるか!? 男のほうだ!」


 背後を振り返りながら矢継ぎ早に確認され、ミルは慌てて変化の陣を組んだ。呪いの土台を思い出して作り上げた陣は大した苦労もなくちまっとした少年を作り上げた。

 訳が分からずきょとんとしていると、屋内から誰かが駆けてくるのが分かった。血相を変えた様子に何かあったのか身を固くしたのに対し、ガウェインは忌々しげに舌打ちした。


「くそっ、もう気づきやがった」

「隊長?」


 さっと後ろに回され、視界が背中に遮られる前にちらっと見えたのは、昨日舞台で色々投げつけられていた人だ。癖毛なのか波打った特長的な金髪を振り乱し、血走った目で叫ぶ。鬼気迫る声だった。


「女! 美女、いや、美少女の気配がした!」

「朝っぱらから何を寝ぼけてやがる。とっとと消えろ」


 対するガウェインの声は非常に冷たい。真夏に生鮮食品を冷やすのに良さそうな温度だ。


「あ、あの、隊長?」

「あ、馬鹿、出てくるな!」


 背中からちょこんと顔を出したミルの手が瞬時に青年に掴まれた。絶妙の力加減でするりと引きずり出される。


「美少女ぉお!」

「男ですぅぅ!」


 ミルレオの本能がそう言えと叫んだ。何が何だか分からないままに身体がくるりと回り、再び視界がガウェインの背中になった。目が回ってくらくらする。


「キルヴィックてめぇ……初の西方守護伯付魔女を、まさか下らん理由で失わせるなんてしてみろ。物理的に飛ばすぞ、首を」



 青年はまるで匂いを嗅ぐように鼻を鳴らし、愕然と目を見開いた。


「何でだガウェイン! 男の臭いしかしねぇぞ!」

「本人がそう言ってるだろうが!」

「そんな馬鹿な! あの馨しい美少女の匂いは確かにここから漂ってきてたのに!」


 勢いのあまり胸倉を掴んできた青年を鬱陶しいの一言で引っぺがしたガウェインは、背中を掴んできた弱々しい手に慌てて首を回した。


「私、そんな、屋敷内にまで届くような悪臭を……?」


 ショックで眩暈を起こしたミルを支えたガウェインは、苛立たしげにキルヴィックを睨んだ。


「くそ……一応これでも西方守護第二軍を預かる阿呆キルヴィック・ザンだ。以後見知り置け、以上だ!」

「あ、あの、隊長付の魔女でミル・ヴァリテと申しまっ!?」


 ガウェインに捨て置かれて地面と仲良くしていたキルヴィックに、弾かれるように肩を掴まれた。目を吊り上げて引き剥がしに掛ったガウェインを構わず、キルヴィックは命の危機に瀕しているかのように詰め寄ってくる。


「やあ君が我等西方念願の魔女か宜しく俺は西方守護第二軍団長キルヴィック好きに呼んでねそれでもって今ここに美少女いたよねどうして影も形もなくなったんだいああ分かってるよガウェインが誰にも見せたくなくて一人占めしたくて隠しちゃったんだよね自分は絶対いちゃいちゃしてたくせにそういう心の狭い奴なんだよ」

「お前は少し黙ってろ!」


 息継ぎのない台詞の奔流より、ただ一言がミルに衝撃を与えた。


「……いちゃ、い…………」


 爆発したように真っ赤になったミルは、意味はないと分かっていながら両手で口元を隠す。今、ここで、隊長とキスした! 私、隊長と!? 私が!?

 耳まで染めて、羞恥に潤んだ瞳で救いを求めるように見つめられた男達は動きを止めた。


「っ――可愛い! なんで!? なあ、ガウェイン、なんで!? 知っての通り俺は男なんて滅びろってくらい女性陣大好きなのに、これ男なのにこの可愛い生き物なに!? 種族性別ミル・ヴァリテ!?」

「そうだ! だから絶対に手は出すな! これは種族性別ミル・ヴァリテだ!」

「新生物にしないでくださいぃ!」


 真っ赤になりながら叫んで、ミルは気づいた。西方に来てからは毎日のように何かしら大声を出す機会がある。良くも悪くも。

 泣くのをやめてから、怒鳴ったり、悲鳴を上げたり、大声で喜んだりもしなくなっていた。

 目の前では大の男二人がぎゃあぎゃあ怒鳴りあっている。ガウェインまで子どもっぽくなって思わず笑ってしまった。くすくす笑うミルに気づいた二人は、新種、新生物とそれぞれ呟いた。






 ガウェインとキルヴィックの間を行ったり来たりと、くるくる回る視界の一瞬に、城内から誰かが駆け出してくるのが見えた。二人も動きを止める。朝なのに隊服をきちんと着込んだジョンが血相変えて怒鳴った。


「閣下! 国境に魔物とグエッサルの大群だ!」


 二人はそれまでの戯れが嘘のように形相を変えた。


「状況は!」


 いつでも豪快に笑っていたジョンが笑っていない。それだけで事態が深刻なのだと分かった。国境には巨大で屈強な壁が張り巡らされている。常に上位から戦えるようにだ。そこには三ヶ月に一度王宮から魔女が派遣されて結界を張っている。ちょっとやそっとでは壊れないように。


「……国境壁の結界が保たん可能性がある。閣下、グエッサルに魔女がいるぞ」


 ジョンは、ミルが初めて聞く声で淡々と言った。










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