ヴェルデ日本基地
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ヴェルデファミリーの日本基地は、とあるビルだった。決して大きくはないが、小さくもない。一階では、イタリア風のおしゃれな小物を売っているらしい。階段から2階に上がり、中に入ると、マンションのように、いくつか部屋があった。4つある。
「どの部屋?」
「全部。ビルごとヴェルデのもの。3階に上がるぞ」
私の問いかけに、風間くんが答えた。
「3階?」
「隠し階段がある」
「なんか、本格的だな」
のんきに陽太が言って、風間くんに一言で流される。
「当たり前だろ」
……ですよね。
風間くんが、本棚から説明しながら本を何冊か引き抜くと、カチリと音がした。
「からくりで、一定の順番に本を抜くと、鍵が開くようになってるんだ」
「なるほど、重さで認識するのかぁ……」
「一回で見抜いたのか!?」
私のつぶやきを拾った風間くんがびっくりして固まり、私のそれを見慣れている陽太は、かまわず本棚をずらし、階段に足をかける。
慌ててついてくる風間くんに一言。
「な、真希はすげーだろ」
「ああ。さすがは我らがボス」
……勝手に言ってろ!!
階段の先には、広い部屋があって、いくつかドアがある。そして、白いティーシャツにジーパンだけという、ラフな格好の男の人が、ソファーに座っていた。茶髪がかった髪を、比較的長く伸ばしていた。耳が隠れるくらい、量もある。
『よう、リディオ……と?』
『おい、アロンツォ。ボスの前だ、礼儀正しくしろ。……つーか、正装くらいしておけって言わなかったか?』
『言われたけどよ、リディオのことだから、今日じゃないと思ってた』
『バカ!!』
しばらく、私には意味不明な会話が続く。時折舌を巻く聞き慣れない発音。……イタリア語?
「あの……」
『そういうことだから、とりあえず、あいさつしろよ』
私の言葉に反応した風間くんが、一言だけイタリア語で言って、こっちに向き直った。
「紹介する。ヴェルデファミリーの一員で、日本支部での補佐をしてくれる。アロンツォだ」
アロンツォさんが、再び風間くんにイタリア語で……聞いているのだと思う。最後に、クエスチョンマークがついているように感じる。
『誰がボス?』
『写真見せただろ、バカ! 女の子の方だよ!』
納得したらしいアロンツォさん。急に、私の前に跪いた。
「はじめまして、次期ボス。俺は、ヴェルデファミリーの一員、アロンツォ。ボスから、次期ボスの補佐をするようにと命を受けています」
「風間くん」
「リディオでいいです」
風間くん……じゃなくて、リディオに言われ、言い直す。
「……リディオ、さっきのは、イタリア語?」
「そうです」
――イタリア語も勉強しなくちゃ。
「アロンツォ、こっちが、久保陽太。セスト幹部の1人になった」
アロンツォさんは、陽太の前にも、私と同様に跪く。
「はじめまして」
さっき、自分に向けて挨拶されたときに言いそびれた言葉を、口にする。
「ちょっと、いいよ、敬語じゃなくて……」
「ダメです、ボス」
私の言葉を止めたのは、リディオ。
「アロンツォは、幹部ですらない。ボスにタメ口なんて、決してしてはいけないことです」
「いいじゃない、私に仕えてくれる人なら、私が指示を出して」
「今のボスは、クイントです」
これには、黙るしかなかった。マフィア社会の格差を突きつけられた。仕方なく、リディオに言う。
「学校とかで敬語使ったりしたら、承知しないから!」
「承知しています。ボスの身元がばれるのは、セスト就任までは避けたいですし」
……あ、そう。
「よくわからねぇけど、とにかく、ボスの下に幹部がいて、幹部のさらに下に、たくさんのファミリーがいるわけだな」
陽太の言葉に、かざ……リディオがそう言って頷く。
「そういうことだ。ボス、とりあえず、幹部の登録をしましょう」
リディオはそう言って、2枚の紙を取り出した。