幹部、GET!!
しばらくの沈黙の後、風間くんが、人差し指を立てた。
「日本基地によっていこう」
「……ヴェ」
「し~!!」
言いたいことが正解だと言うことは分かった。
「のんちゃんは、たしか残業だから……。いける」
「のんちゃん?」
「いとこ。住まわせてもらってるの。今日は、7:30までに帰ればいいから、よってく」
自宅に向かう道から、少しそれる。小学校の方を通って向かうらしい。
懐かしい小学校を見ながら、校庭で、無邪気にはしゃぐ小学生達を見る。なんとなく、みんなと仲良くしていた頃を思い出して、立ち止まった。
風間くんは、それを察したのか、私の視界に入らない、後ろの方に移動してくれた。
私の黒髪が、湿り気のない風に揺れる。プリーツのスカートも、足にまとわりつく。私の後ろから、背を押すように吹く風。小学生のはしゃぐ声は、遠くに聞こえる。
私、どこで間違ったんだろう。小学校の頃は、陽太がいて、夏紀も居て、一緒に遊んだのに。
「ようた……」
「あれ? 真希?」
のぞき込んできた顔は、見知ったものでこそなかったが、面影はある。
「……陽太?」
「やっぱり真希だ! 俺、こっちの方に帰ってきて……。今は、第二に通ってるんだ」
第二、というのは、“緑市立第二中学校”の略称だ。私の通う“みどり市立東中学校”(ちなみに略称は東中)の隣にある学校。東中区域の南の方になると、どちらの学校に行くか、選べるようになる。つまり、ものすごく近いって事。
私の家は、東中よりは南だけど、家は選択できる範囲にはない。歩きで通える、中途半端な距離だ。
「小金井、知り合いか?」
「あ、風間くん。さっき言ってた、幼なじみ」
「よっ」
陽太に答えるように、風間くんが、クラスで自己紹介したときのように笑う。それを見て、陽太が声を出して笑った。
「そんなにかたくなんなって」
風間くんがちょっとびっくりしたように目を瞬く。私も、風間くんが緊張してるなんて分からなかった。
「え? ホントに初対面?」
「おう」
「ああ」
2人そろって答えたので、信用はする。風間くんが、小声で言ってきた。
「信用できるか?」
「できるけど……。え? え?」
「小金井から誘え」
「え?」
そんな、急に言われても……。それに、誘って迷惑じゃない?
黙ってしまった私を見る風間くんと、陽太。口を開かない私を見かねたのか、風間くんがため息をついた。
「今、マフィアに入れ、って言われたら、どうする?」
「は?」
相変わらず楽しそうに笑ったまま、陽太は聞き返す。でも、風間くんは答えない。
「マフィアって、あのマフィア? なんだそれ。面白そうだな」
ノリノリの陽太。
「遊びじゃない。命をかけて、ボスを守れるか、って聞いてるんだ」
風間くんは言うけど、日本では、マフィアは一般的じゃない。
信じないのは当然だ。
「べつに、いいぜ。面白そうだし。それに、真希も入ってんだろ?」
「え?」
素直に驚く私。
「だって、真希のいる前でそんな話するなんて、真希も仲間か、誘おうとしてたんだろ?」
「やっぱり……。幹部に、充分な素質がある。勘もいいしな」
風間くんは、満足げに笑う。
「やってくれるか?」
「おう」
きっと、陽太は遊び気分だ。でも、私だって似たようなものだし。知り合いが居てくれたことと、ノルマを達成できそうなのとで、少し安心した。
「よろしくな。俺、風間」
「よろしく、陽太」
「おう!」
――幹部、1人ゲット!
遅くなってすみません。