ポーカーフェイス
下校しながら、詳しい話を聞くことになった。
「実は、小金井が成人してから、ファミリーのことを知らせる予定だったんだ。でも今、クイントが、病気で伏せっている。もしもの事があると引き継ぎが大変になるから、お試し期間が設けられたんだ」
「なるほど、じゃあ、私がボスになるのは、もう少し先だね」
ちょっと安心して、胸をなで下ろした。しかし、風間くんは、首を振る。
「いや、長くて3ヶ月、と言われている。1ヶ月以内には、少なくとも幹部を4人集めておいた方がいい。今月中に、あと3人だ」
「……」
知らない人とは言え、一応親戚なのだ。まもなく亡くなると聞かされて、少し気分が暗くなる。そんな気持ちを振り払うように、風間くんが明るく言った。
「で、小金井の思いつく、幹部にできるような人は誰? できるだけ信頼のできる人がいい。……同じくらいの年で」
明るく言ったつもりだろうが、私にとって、決して嬉しい話じゃない。
「……迷惑でなければ、転勤族の幼なじみがひとり……。あと、カウントしてもいいなら、図書室で話ができる子がひとり……」
私には、友達がいないから。
「何かあるなら、聞くぞ?」
雰囲気をくみ取ったのか、沈黙に異変を感じたのか、風間くんが言った。
仲間という考えがあったのか、私は、すんなりと話すことができた。
小学校までは、友達もそれなりにいた。少なくとも、ぼっちにはならなかった。
それが、中学に入ってから、だんだんと減っていった。原因は、私の、頭の良さ。
本が好きだった私は、小さな頃から本を読みあさり、自分で買うお金がなくなると、両親にねだった。両親は、たまには小説も買ってくれたが、それは自分のお小遣いで買っていたので、買ってくれる本の多くは参考書だった。それを読み、理解するうち、気がつけば、高校レベルまで問題なく解けるようになっていたのだ。もちろん、応用も問題ない。臨機応変に、いろいろな式や考え方を組み合わせて問題を解くこともできる。
そんな状態で中学に入り、成績を重視するようになったら、それを妬んだのか、友達が減り始めた。
「それだけで離れていくなんて、そんな友達、あるか!」
怒ってくれている。でも、原因はそれだけじゃない。
「ちがう。3年前だから、小学4年生の時。両親が死んだの」
「両親……。両方、亡くなられたのか……?」
「そう。私をかばって」
もう4年も昔のことで、誰になのか、何をなのかも覚えていないけど、たぶん何かを褒められた私は、浮かれていたんだと思う。駐車場だったんだけど、スキップしてたら車が来て、気がついたらお母さんとお父さんが冷たくなっていた。車は逃げていったけど、顔も覚えてない。
「それからは、いとこのお姉さんのとこで2人暮らししてる。22歳だけど、短大に行ってたから、もう社会人なんだよ」
「そう、か……」
「それからは、冷静でいられるように気をつけてるんだ。もう、あんな思いはしたくない」
表情を変えずに言った。
冷静でいられるように感情を抑えるうち、いつの間にか無表情になっていた。幼なじみに指摘されたことがあるが、直そうと思ったこともない。そんなわけで、無表情だと、何を考えているのかが分かりづらいらしい。友達がいないのも、納得できる。
「開き直ってるの」
「……」
長々と聞いてくれた風間くん。何やら考え込んでいる。
「どうしたの?」
「……幹部3人、集まるかな?」
うっ。
他に何か考えているようで、それを言ってもすっきりしていなさそうだ。
でも、それより、私にボスが、務まるんだろうか?
無表情の下で、不安がのぞいた。