決意表明
「ここにいたんだ」
風間くんが、心配そうにこっちを見た。
「なに? 私にかまわなくてもいいよ。あなたが仲間はずれにされちゃうから」
風間くんの言葉にかぶせるように、私は言葉を絞り出す。
「でも」
「私の心配ならいい。平気だから。もう慣れたから」
「慣れた? それは嘘だな。だったら、なぜ小金井はそんな顔をしているんだ?」
……どんな顔? その言葉を出す前に、風間くんは私に言った。
「そんな辛そうな顔をしているボスを見過ごせるか」
小さな声のため、作業中の先生には聞こえなかっただろうが、「ふざけないで!」と言いたいのをかろうじてこらえ、図書室を出る。
「ふざけないで!」
人の居なくなった校庭で、こらえていた物を爆発させた。
「そんなお遊びに巻き込まないで!」
「お遊びだと?」
風間くんが声を荒げ、ボストンバッグから黒い何かを取り出す。……拳銃?
――私「無礼者!」とかって、殺されるんだろうか?
お父さんとお母さんの顔を思い浮かべた。風間くんは、その拳銃を完全に取り出すと、ため息を1つついて、ぼそっと言った。
「違う、これじゃない」
へ? 少し、拍子抜けしてしまう。独り言のようにそう呟く風間くんは、ある一枚の紙を取り出した。
「この印は、見えるか?」
「え? うん、見える。それがどうかした?」
拍子抜けのおかげで、少し落ち着いた。まともに話を聞くことはできそうだ。
「この印は、どんな形をしているか、説明してくれ」
校庭に、指で、見える形を写し取っていく。それが完成すると、風間くんは、紙を、写真にとった。
校庭に書かれた印と、デジカメの液晶の中の印を、見比べる。
「……え?」
それら2つは、微妙に違っていた。私が写し取った物の方が線が多い。
「それは、代々ボスが使う、証明の印だ。その証明の印で、本物かどうかを判断するんだ」
なるほど、戦国時代の花押のような物らしい。
「その印が正確に読み取れるのは、ヴェルデファミリーの、幹部4人とボス、ボスが認めた、次期ボスのみ」
「……」
ばかばかしい、否定したいところだけど、実物を見せられれば、納得するしかない。それに、写真だって、目の前でとられた物だ。加工のしようがない。紛れもなく真実だ。
「俺には見えないが、小金井には見えているみたいだからな」
「え? なんで見えないの?」
「俺は、まだ、正式な幹部じゃない。小金井の幹部になるためには、小金井に認められなくちゃならないからな。その前に、小金井が、ボスを継ぐことを認めなくちゃならない。ファミリーの内情も、関係者以外に教えてはならないから」
まず、私が認めなければ何も始まらないらしい。
「ボス、やる」
「……えっ、と?」
なぜ風間くんが驚いているのだろうか。
「いや、小金井は、人を遠ざける傾向にあるようだから、説得にもう少し時間がかかるかと……」
――私、人を遠ざけてるのかな?
でも、本人にそんな気は全然ないのだ。ずっと、隣にいてくれる“仲間”を探していたのだから。
風間くんは、“追ってきてくれた”から。
かけてみてもいいかもしれない。
――ファミリーに。……“仲間”に。
すこしでも、変われれば。そんな希望を抱きつつ、決意表明をしてみた。
――ちょっと面白そうだし。