転校生
「初めまして。風間優夜です。よろしくお願いします」
私のクラスに、転校生が来た。
5月という、なんとも言えない時期にやってきた転校生のために、自己紹介が行われた。
みんなはキャーキャー言いながら自己紹介をしているけど、私は、何がそんなに面白いのか分からない。みんなとは、“かっこいい”の感覚が違うらしい。そんなわけで、私の自己紹介は、みんなよりも簡潔なものだった。
「小金井真希です。よろしくお願いします」
私の番はさらっと終了し、1時間目を丸々潰しての自己紹介は、退屈なものだった。だから、1時間目の終わりに、一番端の席である私の隣に、その人が座ることになっても、別段驚かなかった。
私が驚いたのは、席が発表され、休み時間にみんなに囲まれた優夜が、私を追いかけてきたことだった。
給食を食べた後、30分間の昼休みの間。隣の席の人だかりを避け、図書室に逃げ込んだ。さらに、本を読むことで、2重のガードを作る。
「真希、さん?」
そんな鉄壁の守りをものともせず、転校生は私に話しかけた。
「……女子達は」
軽くにらんでみても、臆した風もなく、笑顔を崩さない。真っ黒で、多少天然パーマの髪を、春の風が揺らした。
「大丈夫。今頃、必死で探し回ってると思うよ」
私は、そこで初めて、本を閉じた。隣の席に座る転校生。
「ひとつ、質問いい?」
「どうぞ」
「誕生日は、4月2日であってる?」
聞きながらもその目は、答えを確信しているようだった。私の表情に変化はなかったと思うけど、もしかすると、眉が少し上がったかもしれない。私は、感情や表情の変化が乏しいのだ。元々、基本はポーカーフェイス。それでも、流石に動揺した。
――なんで知ってるの!?
「……」
沈黙で答える。否定すると嘘になるし、怪しい人に、本当のことを言うのも……。
「……あたり、みたいだね。よかったぁ~」
目を細めて笑う転校生。同じ歳(14歳)のはずなのに、もっと幼く見えた。
かと思ったら、すっ、と表情を引き締め、まわりに変に思われない程度に、ほんの少し頭を下げた。
「ピアチェーレ、ヴェルデファミリー次期ボス、小金井真希様。オレは、真希様の補佐役、リディオと申します」
また、優しく笑う。今度は年相応に見えた。
「……はぁ? ファミリーって……?」
「ヴェルデファミリーは、イタリアを拠点とする、下級マフィアです」
笑顔のまま、理解不能な、ファンタジーチックなことを、当たり前のように言ってのける転校生。だいたい、クラスでは、確か“風間”って名乗ってたじゃん。
私の、声に出さない疑問など、(あたりまえだけど)知らないのだろう。まわりに聞こえない程度に抑えた声で、爽やかな笑顔のまま、さっきと同じ言葉を言った。
「ピアチェーレ、セスト」