ritarudendo
情景描写が上手くできない
ファンタジアの北方に浮かぶ城。雪が降る中で、白く反射してそびえ立つ外壁。どこか誇張されたようなその城は大きな存在感を放っていた。
城のてっぺんではためく紋章は、五天王の一人である『ラズライト・J・ヴァニラ』の威光を十分に示しており、他の者を寄せ付けない異様な空気を纏っている。
恐ろしいほど丁寧に整えられた庭。誰に見せるはずもないその庭には沢山の薔薇。見渡す限りの花、花、花。
まるで、御伽噺の世界のような庭の中心で一人の少女が嗤っていた。
何をするわけでもなくただ、立ちすくみ、身の毛のよだつような大きな笑い声をあげる彼女は誰の目から見ても『異様』と言い切れる物だった。
「私は寛大なる御心をもつ魔王だ。」
呟く彼女に近寄る影が一つ、二つ。
「そうだろう、我が同胞たちよ」
その影に気付いたのか彼女曰く、『ヴァニラ』はそちらを見ることもせずクスクスと笑った。
その手には炎がメラメラと燃えており、影に攻撃を仕掛けようと試みていた。
「え、ちょっと待って!?本当に攻撃する気!?」
「…流石にそれはないでしょ」
「ふふ、冗談だ」
ヴァニラは炎を収束させると、二人に向き直る。
「なんの用だ、お前たち」
そこに立っていたのは、びくびくしながらこちらを見やるアプリコットと冷静にヴァニラを見つめる三日月だった。
「えっと、さっきのことを謝ろうと思って」
「私はその付き添いでただ、ついてきただけ」
申し訳なく言うアプリコットにヴァニラが言い放つ。
「謝罪なら必要ない、というのも、我は寛大であり過ちを犯したお前をとっくの昔に許している、気にすることはない。我にとって先程のことは単なる戯れにすぎないものだ。それでもなお、我に謝罪を要求するというのならありがたく頂戴するが?」
「ヴァニラ、もしかして、何かいいことがあったの?」
彼女がこのようにして心を乱していないのは稀だ。不機嫌さを全く醸し出していないヴァニラを見てアプリコットは違和感どころか正体不明の気味の悪さすら感じた。
「感が鈍いお前には珍しく、鋭い言葉だな、アプリコット」
「答えはyesだ」
驚きのあまり、嬉しさが隠しきれていない。
一体、何があったのだろうか、いつもなら恐ろしいくらいの言葉の羅列と憎悪と皮肉を並べ立てアプリコットを罵倒する筈である。
今のヴァニラは機嫌が一番良いときのものだ。
「……子供が産まれたのだ!!!」
「「は?」」
アプリコットと三日月の困惑した声が重なる。
そんな二人はお構い無しにうきうきとした感情を惜しげもなく、表し出すヴァニラ。
「私ではない!ドラゴンの子供だ!!!」
「貴様らには理解出来んだろうな、生物の美しさとそこから誕生する生命の神秘と力強さ、そして、そこから繋がっていく物語がどれだけ大切に育まれていくのか!」
そのことがどれだけの嬉しさを孕むものなのかを熱く語り出すヴァニラ。様子を見るに本当に怒っていないようだ。
「しかしだなぁ、お前たちのような奴等は……」
ヴァニラは二人のことはお構い無しに喋り続ける。あまりにもくどくどとしたその言い方に、流石の二人も我慢が効かなくなってきていた。
「帰ろっか…」
「そうだね」
ヴァニラを放置して帰った二人。
雪が降る庭で一人の少女の声が遠く遠く、響いていた。
生き物好きなんです