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彼女の犬

作者: 楓

とあるところに1匹の犬がいた。中型だ。少々太っている、理由は明白。

今日も犬は吠える、彼女の気を引くために。

「ワン」と吠えれば彼女が振り向く。

そして言うんだ、「あら、またお腹が減ったの?」ってね。

ザラザラと皿に餌を盛り、床にトンと置く。

「あなたは本当に食べるのが好きね」と、犬を見た彼女が言う。

犬は嬉しそうに、彼女の顔を見上げ、また「ワン」と吠えた。

彼女が頭を撫でてくれた。思わず顔がにやける。

ああ、今日はこれで大丈夫だと思い、今日が過ぎて明日になる。

正直に、お腹はいっぱいだ。だけど彼女の手料理を、犬は美味しく食べるんだ。

彼女が喜んでくれるから。こうして犬は3人分くらいの食事をたいらげた。

頭を撫でた彼女は、スウスウと寝息を立てて寝ている。

一方犬は、ゲエゲエと苦しそうだ。だけど吐けない。吐いたら彼女は犬を叩き怒るから。

ググッと口を閉じて、抑える。少々出たものは、また飲み込む。それを少々繰り返す。

ケホケホと咳をするのは犬のほう。彼女は気にもせず大慌て。

少し起きるのが遅く、仕事に間に合わなくなると大騒ぎ。

犬にご飯を与えず、彼女は行ってしまった。

正直なところ、吐き抑え疲れと言うべきか、それがしんどくて逆に食事をとりたかった。けれど我慢。

暇なときは眠ったり、ボールで遊んだりして、時間をつぶす。

数時間後、帰ってきた!と尻尾を振ってお出迎え。しかし機嫌が悪そうだ。ふてくされて眠ってしまった。

そういえば、今日は食事をとってない。犬はそう思った。だけど考えた。昨日沢山食べたから、いいや。と、鳴るお腹を隠すように丸くなり眠りについた。

夢を見た。自由に走り回れる夢。そう、明らかに運動が足りてない。

好きな時に好きなだけ食わせて、あまり外へ出さない。だから太るんだ。だから愛されていると周りの日とは思う。

ああ、きっとあの子は美味しいものをたくさん食べて暮らしていて幸せなんだな、って周りの人は何も不思議と思わない。

むしろ太ったねと笑う人がいるくらいだ。でも犬は別に笑われてもいい。

そんな事も気にしないくらいに、たまに出られる事が嬉しいのだから。

そんな過去も交えつつの夢を終えた後、少々寝すぎたようで、もう夕方になっていた、

あくびを1つしたところで気付いた。彼氏さんがいる。

彼から食べ物を貰うと、彼はニタリと嬉しそうに笑った。彼は哀れな犬に餌をやるのが好きなんだ。

そうこうしているうちに、彼女が返ってきた。犬はお出迎えをする。

「昨日はごめんね、ご飯あげられなくて」

彼女の両手にはたくさんの食量が入った袋。ああ、きっと今日の料理は大量だ。

「あれ?ご飯あげたの?」

どうやら気づいたらしい。

「ちょっとだよちょっと。ほしそうにしてたし。な」

別にほしかったわけじゃないけど。食べなきゃ殴られるだけだけども。まあとりあえず「ワン」と返事をした。

「そっか・・・ごはん、どうしようか?」

彼女の他愛のない問いかけ。僕はそれに狂気を覚えている。

だって、食べなきゃ「どうして食べないの?!」だったり、「私のご飯は嫌い?!」だったり、「彼のご飯を食べないでよ!」などとよくわからないことを言い殴られるからだ。

答えはいつもの、「ワン」

彼女は嬉しそうに微笑み、台所へ。

そして犬は、僕は食事をとる。たまに泣きそうになるのは「ちょっと辛かったから」、うまく呑み込めないときは「おいしすぎて焦っちゃった」なんて誤魔化しつつ、僕は食事を交える。

僕は大体座布団一枚分のスペースに常にいる。許可があれば動く。母さんの料理を何時も待ちわびている食いしん坊と言う事になっている。

母さんも父さんも、この部屋を家畜小屋と呼ぶときがある。

だから僕は僕自身を家畜だと、今でもたまに思う。

だから僕は今年の誕生日、新しく出来た友達からまるで人の様に扱われ、人を祝うかのように「おめでとう」と言われたこと、「あなたは犬なんかじゃない、ちゃんとした人間よ」と言われたとき、嬉しかった。涙が出るほど、嬉しかった。

と言って、僕はの生活が変わるわけでもない。

なので僕は今日も笑顔を偽り、母さんへ吠える。

「お腹減った、ご飯ちょうだい」




実話にフィクションを添えて。

最近、床に近いところで床に座って食事をするという事を、みんなはしないんだと理解した。

理解したところで椅子に座って食事をするという事にはまだ慣れず恐怖にも近しい何かを感じる。


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