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電報と言葉

作者: 摂津 麹

『返事が遅くなってすまない。週末には会えるよ ルドルフ』


『本当にね、訓練が忙しいのはわかるけど今度から早めに連絡お願いよ セレン』


『お詫びに何が良い? あのケーキかな? それとも花かな? ルドルフ』


『今度会えるのと、「好き」って言ってくれれば十分です セレン』


『分かった。「愛してる」よ ルドルフ』


『私も「愛してる」わ セレン』




『今度君の好きなオペラを見に行こう。いつが良いかな? ジョン』


『嬉しい! 来週の週末が良いわ! ハンナ』


『分かったよ! 楽しみにしている。「愛してるよ」 ジョン』


『私も「愛してる」わ! ハンナ』




『週末がさみしいよアンネ、また学校まで会えないね カール』


『本当ね、カール。また学校で会えるじゃない! アンネ』


『あぁそうだね! また学校で、よい週末を「愛している」カール』


『もうカールったら! 私も「愛している」わ、よい週末を アンネ』





「…本当におおいなぁ、恋人同士のやり取り」


「あぁ。どいつもこいつも幸せそうにな」


「まったくだ」


電報基地の二人の男性職員が打電装置の前で話していた。


短い文章を打電し、遠くへ運ぶ電報。


彼らは人から受け取り、他の電報基地に向けて電報を送る。


そして他の打電文を受け取り、取りに来るまで保管する。


人々の思い、言葉を乗せて。


どこまでも、どこまでも。


「言葉ってさぁ…」


「うん?」


「ありのまま伝えるのって難しいよな」


「そうか?」


「だってさ、愛してるなんて恥ずかしくて言えないよ」


「ハッ、ガキかよお前」


「あん?」


「口に出して言おうが、電報にしようが、思いが伝われば何も恥ずかしくもないだろうが」


「そうだな、俺には妹さえいれば恋人なんていらないね!」


「…お前妹思いも大概にしとけよ、彼氏ができたらお前大変そうだな」


「…わかった。ってお前彼女いるのか?」


「当たり前よ、見るか?」


「うわぁ、別嬪べっぴんさんじゃないか」


「そうだろう、そうだろう」


「勿論言うのか?」


「まぁな、俺もさっき仕事始まる前に打っといた『愛してる』ってな」


「んじゃあ俺も送るか、妹に『愛している』って」


「ハハッこのシスコンめ!」


「うるさい! …なぁ」


「何だ?」


「…言葉って大切だよな」


「あぁ、とってもな」


「だがよぉ…、あれは無いよな」


「あぁ…、確かに」


彼ら電報職員のいる部屋の壁にはあらゆるポスターが張られていた。



『見よ! 帝国の明日は明るい!』


『隣人に気をつけよ! 敵は近い!』


『奴らは帝国を転覆する気だ!』



それらはプロパガンダ(政治的宣伝)のポスターだった。


疑心暗鬼になってしまいそうな、扇動する言葉を羅列したナンセンスな言葉。


「この国は王国から帝国になってからおかしくなった」


「まったくだ。下手な事を言えば逮捕され処刑だ」


「…誰が聞いているかわからない」


「…そうだな、もうやめとこう」


「ところでよ」


「ん?」


「『愛している』ぞ、相棒」


「こちらこそ、『愛している』友よ」



………


……




『○○年○月○日 ○○○○紙 「軌跡!? 恐怖政治の帝国崩れる!」』

 昨日未明、去年崩壊した王国に代わり成立した帝国は、同国民の団結による革命で帝政は崩壊し王政が復古しました。

 秘密警察による言論狩りで反帝国的と思われた国民の処刑が横行していた中で、あるフレーズを合図に革命を指示していたのです。

 この発案者は首都中央電報基地所属の男性職員二名によるもので、電報という遠くまで届く手段を用いて秘密警察に知られることなく、革命を成功できました。


「うまくいったな」


「あぁ、大成功だ」


「だが、職は失ったな」


「あぁ大丈夫だろう、電報職員なんて人不足なんだからどこかでまたつける」


「秘密警察残党には気を付けないとな、妹は無事だったか?」


「あぁ、地下室で隠れるよう言っといたから革命騒ぎの中では無事よ。そういうお前の恋人は?」


「こっちも無事だ」


「それと俺はこのままこの国を出ようかと思ってる」


「奇遇だな、俺も同じことを考えていた」


「この国に残っても疲れるだけだ。秘密警察残党に狙われる上、国民からは英雄扱いだ。下手すりゃ大統領か首相にされかねん」


「そうだな、俺も静かに暮らしたい」


「じゃぁ荷物纏めないと、…今日まで楽しかったぜ友よ」


「あぁこっちもだ相棒。…これでお別れか、元気でな」


「そっちこそ」


短い文章を打電し、遠くへ運ぶ電報。


彼らは人から受け取り、他の電報基地に向けて電報を送った。


そして他の打電文を受け取り、取りに来るまで保管した。


人々の思い、言葉を乗せて。


どこまでも、どこまでも。


どこまでも…。







短編一作目として執筆したしました。


言葉にはそのままの意味と暗号という意味で両方使われる事と皮肉さをテーマにしましたが、後者はそれ程じゃあありませんね。

自分もまだまだです。

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