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出会いは~カーラの場合3

前作に番外編を投稿したため、こちらの更新が1日遅れてしまいました。申し訳ありません。

これが、王女アイリーンの有能なる侍女、カーラ・キャンベルの始まりであった。

通り名は空気のカーラ。

姿形を自在に変え、空気のようにどこにでも入り込む彼女は、王女の片腕として、友人として、女王の誕生に大きく貢献する。

そしてこの出会いは、カーラという少女のイアン・ホールデンへの恋の始まりでもあった。

芽生えた尊敬の念はやがて恋へと育ち、カーラはこの出会いに幾度も感謝してきた。しかし、同時に同じ数だけ、こうして出会ってしまったことを悲しんだ。

カーラはいつものように気配を消して、人目につくことなく建物の中を歩く。

目的地はすぐそこだ。

ノックをすれば、中から間延びした声が返ってきた。

「失礼いたします」

部屋の主はイアン・ホールデン。出会いから10年が経ち、30も半ばになろうとしている彼の風貌は、一層甘さを増している。そう思うのは自分の欲目なのだろうかとカーラは考えた。

「やあ、カーラちゃんじゃないの。どうしたの?」

「お久しぶりです、ホールデン様。建国祭の来賓の件について伺いたいことがございまして」

きっちりと侍女の鏡たる対応をするのは、何故か最近「ちゃん」付けに戻した彼へのアピールだ。学生時代に一度は呼び捨てに昇格したのに、卒業後再び子どものように呼ばれることにカーラは納得がいかない。基本的に彼は自分の生徒を「ちゃん」付けするが、一人前の大人をそう呼ぶことはないはずなのに。

ホールデンはそんな彼女に、居住まいを正す。

「ああ。アイリーン王女の使いでいらしたのですね」

違う、そういうことを望んでいるのではないのに、とカーラは思ったが、その辺りはしっかり押し隠して微笑んだ。

入退場の時期、警備など提出された資料から分からなかった点をいくつか質問し、カーラの仕事は終わってしまった。

「それでは失礼いたします」

腰を折った彼女に、ホールデンが立ち上がる。

「入り口まで送りますよ」

嬉しい申し出だったが、カーラは断った。自分で出来ることで多忙な彼に迷惑をかけたくはない。

「いえ、大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます」

「でも、途中うるさい辺りを通るから」

ホールデンが気にしているのが、この部屋に来るまでに通らねばならない他の部署のことだとカーラにも分かった。エリート揃いのはずの魔法省だがコネで入ってきたがらの悪い若者も一部おり、先程も上司の不在をいいことに騒いでいた。男に姿を変えたカーラには見向きもしなかったが。

「本当にご心配なく。気配を消しますから」

言えば、ホールデンの表情がかすかに曇った。ああまた、とカーラは思う。私の誇る技を、貴方のくれた技を、貴方はそうして悲しむのだと。

「・・・むやみに使わなくてもいい。やっぱり送るね」

いつの間にかいつもの口調に戻った彼はそう言った。

「ホールデン様は、私を馬鹿にしているのですか?」

ホールデンは驚いた顔をした。

「なに、カーラちゃん。急にどうしたの」

「そのカーラちゃんというのも、こちらこそ『どうしたの』です」

カーラはホールデンの顔を見上げた。

「子ども扱いも大概にしてくださいませ。私はもう17です。10年前の子どもではありませんわ」

「それはもちろん、おじさんには眩しいくらい立派なレディですよ」

おどけて言ったホールデンにカーラは腹を立てかけたが、子ども扱いするなと言ったばかりのこと、ぐっと堪えて、代わりににっこりと笑って見せた。

「おっしゃいましたわね?そう、もう立派なレディですの」

軽く一歩前へ出れば、小柄なカーラでも、二人の距離をほぼ無くせる。昔なら二歩はあった。

「・・・覚悟なさいませ」

無言で突っ立っているホールデンの長身を、精一杯の威厳を持って見上げて、カーラは言った。

これは宣戦布告だ。

これで変わらざる得ない。勝算があるわけではないが、動き出すと決めたのだ。ならば、勝算を高めるべく動くのみだ。

カーラはそう考えながら、しばらくホールデンの出方を伺った。無言を貫く気ならそれはそれ、何か言うのならそれはそれ、と。

しかし彼が言葉を発するより早く、廊下で物音がした。

人の気配に敏い二人の耳は、近づいてくるそれをはっきりと聞き取った。

「・・・か」

「ああ、王子はあの娘のデビューのときにもダンスを申し込んだらしい」

「ならば、昨年の外遊に連れて行ったのもそういうことか」

「全く、困ったものだ」

二人の人物は話しながら遠ざかっていった。

「エレノアの噂のようですわね」

カーラの表情が切り替わる。

王女の侍女仲間の噂とあれば、その管理もカーラにとっては仕事のうちだ。

カーラはさっとホールデンを振り返った。

「仕事に戻りますわ」

「ああ、うん」

どこかほっとした様子の彼にきちんと釘を刺すのも忘れない。

「先程の続きはまた今度。それではご機嫌よう」

カーラは扉の手前で自分の姿を変容させると、あとは振り返らずに部屋を後にした。


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