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休日~カーラの場合

【休日・・・

ユリアは突然の休日をフリアンとともにめいっぱい楽しんだ。フリアンの行動は情熱的で、ユリアには刺激が強かった。そのため翌日は、疲れ切って起き上がることも億劫なほどだった。

目を覚ましたときにはすでに日が高く昇っていた。

「遅くなってすみません!」

寝過ごしかけたユリアは慌てて仕事場に駆け付けたが、侍女頭はにこりと微笑んだ。

「眠らせておくようにとフリアン様の言い付けでしたので」

フリアンの心遣いに、ユリアの胸はどきどきと高鳴った。彼女はそっと俯いて、赤らんだ頬を隠したのだった。】


カーラはイアン・ホールデンの実家に意図せずして宿泊することになり、彼の親族一同からたいそうな歓迎を受けた。

突然年の離れた少女を連れ帰ったイアン・ホールデンに、最初は驚いた家族だった。しかしカーラが礼儀正しく挨拶をすると、浮き名は流すものの身を固める気配のなかった長男にようやく本当の相手が現れたかと大喜びしたのだ。

イアン・ホールデンは懸命に否定し続けたが、最終的にはぐったりと疲れ切って頭を振るだけになった。

とくに賑やかだったのは女性陣で、彼の母親である侯爵夫人と、二人の妹、それに姪までが加わって夜遅くまで彼とカーラを取り囲んだ。

「イアン様は、私の恩人なのです」

出会いは、関係はとの質問に簡潔に答えたカーラに、姪のリリーがうっとりと目を輝かせた。

「まあ!運命の出会いということですわね」

「そうだと、いいのですけれど」

それだけ言ってちらりとホールデンを見れば、彼は渋い顔をしていた。しかしこれしきで傷付いたそぶりなどカーラは見せない。

「素敵ね。この子ったら遊びまわるばかりでいつまでたっても本気のお相手を連れてこなかったものだから、心配していたのよ」

嬉しげに顔をほころばせた母親に微笑み返していれば、

「母上。若いお嬢さんをつかまえてこんな冗談、失礼ですよ」

「あら!私たちは冗談のつもりはありませんよ」

「いくつ違うと思っているんです」

「貴方こそ、自分がいくつだと思っているの?貴方と年の違わない女性はたいてい結婚していますよ」

ぴしゃりと言われ、ぐうの音も出ないホールデンをよそに、リリーが口を開く。

「それに、そのくらいの障害は運命の恋の前には大した問題ではないですわ、叔父様」

「リリー・・・何かおかしなものでも食べたの」

「嫌だわ、イアン兄様ったら。リリーは最近、運命の人に出会ったのですって」

そんな調子で結局カーラが寝室へ案内されたのは、夜も更けて朝が近くなってからだった。

翌朝、惜しまれつつ屋敷を後にしたカーラだったが、仕事に向かうホールデンと王宮近くで別れると、その足でホールデン領へとって返し、深夜再び王宮へ戻った。

現実の恋する乙女は忙しく、そしてカーラ・キャンベルはタフなのだ。


パアンと小気味いい音と共に、色とりどりの紙吹雪が飛び出した。

「お泊まり成功おめでとう、カーラ」

ふふふと意味ありげな笑顔に迎えられ、カーラはわずかに目を見開いた。王女は相変わらず耳が早い。

そして先輩たちは相変わらず仕事が早い、と風魔法で回収される紙吹雪を見ながら、カーラは口を開いた。

「ありがとうございます。本当はエレノアの手助けがしたいと思っていったのですけれど、アイリーン様のおっしゃった『命令』にありがたく従わせていただきましたわ」

もちろん後から取り戻しましたけれど、と付け足したカーラに、アイリーンは首を傾げた。

「あら、何か調べてきたのね」

カーラは頷いた。

「エレノアについて、ホールデン領で悪評を流した人間がいるようです」

「どういうこと?」

顔つきを変えたアイリーンに、カーラは続けて報告した。

「治癒院にいる女の魔法使いは偽物だですとか、実験のために力のない魔法使いと本物の魔法使いに治療をさせているですとか、ともかく領内の酒場を中心に噂が広がっていました」

エレノアは王女の片腕として、侍女の枠を越えてこの計画に参加した。彼女の失敗はそのまま王女の失敗と見なされ、今後はこのように侍女を国家事業に送り出すことも今より難しくなる。

そのため、何者かが意図的に彼女を妨害しているとなれば、友人としてのみならず王女陣営としても見過ごせない問題だった。

「女性患者への治癒は出来たと聞いているけれど」

「はい。けれど、噂の広がった層と患者の層が異なるため、悪評を打ち消すまでには至っていないようです」

「そう。エレノアの奮闘のおかげで、なんとか体裁が整っているわけね」

現状の治癒院は試験的な雛形なので、患者の人数や病状、対応した者やかかった時間などが、事細かに報告書にまとめられる。それは文官達が国家規模の計画書をまとめる際に利用するためだが、王女の介入をよく思わない人間にとって、その数字はエレノアを叩くための材料にされるのだ。

事実、クリス等の報告では毎回エレノアはかなりの非難を浴びていると聞く。それでも彼女が更迭されないのは、王女の侍女という立場よりも、エレノアが逆境の中でも最低限の数字を稼いでいるからだ。

兄のクリスに『スッポンのエレノア』という彼女の新しい通り名を聞かされたときは、カーラも吹き出しかけたが、今ではさすがスッポン、さすがエレノアと思っている。

「噂の出所は分かるかしら」

アイリーンに尋ねられ、カーラは首を横に振った。

「正確には。ただ、出回り始めた時期が妙で、まだこの計画が公になる前だったようです」

「その時期にエレノアの参加を知っていた人間は限られるわね」

カーラも頷いた。やはり、これはウォーカー伯爵かタガード伯爵の仕業と考えるのが妥当だろう。

「裏がとれないか、試してみます」

「分かったわ。ファレルの侍従にも、現地で彼らの様子に気を配るように伝えるわ」

両者は計画の成功よりも、エレノアの失敗を望む人間だ。

これまでの調べで、ウォーカーが娘をファレルと娶せるためにエレノアを排除しようとしていることが分かっている。そのいくつかは事前に防いだが、直接会っては嫌味を言われ、敵視されているエレノアはたまらないだろう。また、職務に忠実なタガード伯爵も、エレノアに批判的だ。それが女子どもに、という思いなのか王女への反感なのかは未だにつかめないが。

真面目に仕事をしつつ彼らの敵視と戦い、さらにクリスの話では、王子や元弟の情熱的な行動に初心な彼女はついて行けていないという。クリスがいればエレノアが嫌がるほどのことは起きないだろうが、それでも心労はたまっていることだろう。

カーラは熱を出したという友人を思いつつ、再び仕事のため王宮を出た。

仕事は一つではない。エレノアも気になるが、アイリーンの方にも気がかりがあった。

ディラン・デール。

王女の思い人にして、文官として彼女を支える人材と目されていた彼が、最近おかしな動きを見せている。これまで仲の良かった人間と疎遠になり、違う層の人間と関係を深めているようなのだ。

「・・・嫌な予感がするのよね」

カーラは騒ぐ胸を押さえて一つ息をつくと、デール侯爵の動向について配下から報告を受けるため、キャンベル家へと急いだ。

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