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噂~アイリーンの場合1

前作でうっすら匂わせていたアイリーンの思い人について、書いてみることにしました。

公務で外出をしたその翌日、アイリーンは何度目かのため息をついた。

「どうかなさいましたか?」

腹心のエレノアに聞かれ、王女は沈んだ顔を隠さずに呟いた。

「ようやく、もうじき解禁だというのに・・・」

「解禁ですか」

何のことだかぴんと来ていない様子のエレノアを愛で、ほんの少しだけ心が落ち着く。アイリーンはわずかに微笑んで、説明した。

「そうよ。恋愛解禁」

「え!?」

婚約、婚約解消に求婚者を二人も待たせておきながら、いまだ純情な少女は顔を赤らめた。かわいい、とアイリーンは思う。

「私、女王になるまで人を好きになるまいと決めていたのよ。なりたいのは飾りの女王ではなかったから」

王女の内に伴侶を選んでしまえば、この国の慣例で女性が王として国を動かすことは出来なくなる。そのためアイリーンには王族の姫に珍しく婚約者がいないし、そういう感情を周囲に悟らせることもできなかった。

「では、王位を継承なさったらどなたかとご婚約なさるのですね」

「・・・相手がいればね」

少し唇を尖らせて言えば、もう一人の友人がくすくす笑った。年上の侍女たちも、声には出さないものの微笑んでいる。

「カーラ!」

咎めるように出した声も気にした様子なく、カーラは口を開く。

「いるではないですか」

「え!どなたですか?私の知っている方ですか?」

ものすごく知りたそうにエレノアにそう言われるとアイリーンは弱い。エレノアは無理矢理聞き出そうとしたり、探ったりする性格でも特殊能力でもないが、どこまでも真剣に考え込むに違いない。そしてそういう人間にアイリーンは弱いのだ。

けれど自分で口にするのも恥ずかしく、ちらりとカーラの顔を見た。しかしアイリーンの内心などお見通しのはずのカーラに、

「自分で言った方が良いのでは」

と突っぱねられた。その砕けた口調から、友人としての発言だと暗に告げられてアイリーンは考え込んだ。

確かに、侍女の身辺調査のためとはいえエレノアの恋愛を隅々まで把握した上、自分の都合で彼女を振り回したアイリーンである。エレノアの婚約が破談になったのは、半分自分のせいだという負い目も感じている。それなのに自分の恋愛事を直接話すのは恥ずかしいというのは、不公平だろう。ただの主従関係ならいざ知らず、自分たちは友人なのだから。

そう思い直して、ぐっと腹筋に力を込めた。

「・・・笑わないでね」

笑いません、と酷く真面目な顔でエレノアが答える。

大きく息を吸って、アイリーンは答えた。

「・・・ディランよ」

かなりの空気を吸ったのに、出たのは蚊の鳴くような声だった。

聞いたエレノアの顔が真っ赤に染まるので、つられてアイリーンも赤面してしまう。

「まあ。まあ・・・なんて素敵なのでしょう!絶対お似合いですわ」

「・・・そうかしら」

いつものように優雅に余裕を持った受け答えが出来ない。ぼそりと呟くように言いながらアイリーンは、幼い頃のことを思い出していた。



ディランと始めてあったのがいつか、正確には覚えていない。

アイリーンは早熟な子どもだったから、恐らくは赤ん坊の頃からの仲なのだろう。

侯爵家のディランは気付いたときにはそこにいた、のんきなもう一人の兄のようなものだった。

子ども達は大抵一纏めにされていたので、男の子達が戦いごっこを始めると、アイリーンはいつもその様子を眺めていた。

両親はしきたりにうるさい方ではなかったが、それでも幼いながらに王女としての自覚があった彼女は、クインランやファレルと同じ遊びはできないと悟っていた。何故なら、女である自分が少しでも怪我をすれば付き添っていた侍女がひどく怒られることや、自分のドレスの汚れを落とすのにどれだけの手間がかかるかを知っていたからだ。そうしたものを周囲は王女の目から隠しているつもりだったろうが、残念なことにアイリーンの目も耳も大人の想像よりもよく、さらに手のかかるファレルに気をとられた使用人達は手のかからないアイリーンの前ではほんの少し気を緩めてしまうようだった。

とにかく、そのような理由でアイリーンは三人の男の子達が活発に遊ぶのを、日陰に座って眺めるのだった。

元来気が強く、運動神経も悪くないアイリーンにとって、自分だけ仲間に加われないのは決して嬉しいことではなかった。けれど幸いなことには、三人の三者三様の動きを見ていれば、飽きるということもなかった。

一番年上のクインランは、戦いごっこといえば必ず木剣をもった。そして弟たちを遊んでやっているつもりがいつも途中から本気になって訓練をし始める。

そのため一番下のファレルの面倒を見るのは赤毛の従兄弟、ディランの役目だった。ファレルの動きには規則性というものがなく、興味のあるものに突き進んでいく上、遊びの中の暗黙のきまりごとというものをあっさり破ってしまうことも多々あった。側にいるときはアイリーンが首根っこを掴んで引き戻すのだが、男の子だけになればその役目を全てディランが担うことになる。

それでも、ディランは我が儘なファレルを邪険にせず、いつも上手にあしらっていた。その上彼はそれを、大抵笑い混じりにやってのけるのだ。

同じ苦労を知っているアイリーンとしては、そうしたディランの態度は敬服に値した。つまり、アイリーンにとってディランは、最も頼りになる兄だったのだ。


しかし10才になったある日のこと、アイリーンは侍女たちが話しているのを聞いてしまった。

明日明後日は「エレノアの大いなる挫折」側にイングラム家訪問の話を更新します。そのため、こちらの更新は木曜日になる予定です。

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