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カフェ・ギムナジウム  作者: 風水ほのお
夜明け前の楽園
5/22

夜明け前の楽園 1

授業時間前のカフェ・ギムナジウム。

毎朝「HR(ホームルーム)」と呼ばれるミーティングがある。

今日のHRは、オーナーである院長が直々に行う。

五十手前の女性で、赤いスーツに真っ赤な口紅、八センチ級のヒール。肩まで伸びたボリュームのあるウェーブヘアをかき上げると、大きなゴールドのリング状のピアスが覗く。


「生徒諸君、教授諸君、おはよう」


「おはようございます!」


ブレザー姿の生徒達やスーツ姿の教授達が、90度の礼をする。


「近々開催される女子の祭典『乙女フェスタ』、通称『乙フェス』。この学院も例年に倣って参加します。選ばれた生徒は、細かい打ち合わせがあるから、よろしく」


乙女フェスタ―― 一年に一度開催される、オタク女子の夢の祭典。

女性に人気のアニメ、乙女ゲーム、BLゲーム、コミックスやライトノベルなどのイベントで、新しいグッズの先行販売や限定グッズもあり、毎年大盛況だ。


カフェ・ギムナジウムも女性に人気のカフェであるため、毎年趣向を凝らしたカフェとしてイベントに参加している。

評判を聞きつけ、遠方からはるばるやって来る女性もいれば、白衣・軍服・執事服…普段とは違うシチュエーションが見られるということもあり、常連も大勢来る。


院長は腕に巻かれた愛用の、文字盤がメレダイヤで囲まれた腕時計を覗いた。9時50分。


「さあ、今日も学院の規則を復唱します! 一つ、いつでもお客様に夢を!」


「いつでもお客様に夢を!」


私語は密着・小声で・囁くように。

彼女来室禁止。

清く、背徳、美しく。


などの規則を復唱した後、全員が玄関横に並ぶ。

神楽坂理央が木製の扉を開くと、ドアベルが鳴り響いた。


午前十時、授業開始。

外で並んでいた女性客たちが、薔薇のアーチをくぐってくる。


「いらっしゃいませ。当学院にようこそ」


都会の喧騒から逃れ、薔薇のアーチをくぐるとそこは禁断の楽園。

口にしてはいけない果実ほど甘く感じる、蠱惑的な虚飾の世界。

今日も彼らは乙女たちに、そんな果実をほおばらせる。

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