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死神

突然上空から舞い降りた漆黒の影。降り立ったその姿を見て、男はその場にへたり込んだ。驚いたからではない。男をへたり込ませたのは、その体を一瞬で支配した恐怖だ。男は突如として空から舞い降りた異形を知っていた。

 

黒い手甲

 

黒い仮面

 

日本刀

 

真紅の瞳

 

その全てが男を絶望的な答えへと導いていく。そう、男はその異形が青年だということも知っていた。その人物が自分にとっての死神であることも。

 

「こんばんは。良い月夜ですね」

 

青年は月を仰ぎ見ながら、手にした日本刀を鞘から抜き放つ。月光に照らされた刃が、あたかももう一つの月のように青年の手の先で輝いた。

 

「ク‥‥黒衣!」

 

男が絶望と共にその名を口にする。

 

「おや、御存知でしたか」

 

黒衣と呼ばれた青年は日本刀を手にしたまま、少し芝居がかった優雅な礼をして見せた。

 

「黒衣が‥‥魔術師専門の暗殺者が俺に何の用だ!俺は何もしていない!何も‥‥」

 

へたり込んだまま男は青年にわめき散らした。そう、男は青年を知っていた。彼が【黒衣】──裏世界では知らぬ者のない、【魔術師協会】(マギ・ソサイエティ)専属の暗殺者であるということを。

 

「何もしていない?貴方が魔術で手にかけた、罪無き五人の人間をもう忘れましたか?」

 

男の言葉にそう返した青年。口調こそ丁寧だが、その言葉にはそれだけで人を殺してしまえそうな冷たい殺気が込められていた。

 

「貴方は魔術師としての禁忌に触れました。魔術を用いての一般人の殺害。赦される事ではありません。魔術師協会の決定をお伝えします」

 

青年が手にした日本刀を男に向ける。

 

「汝──犯した罪は死を以て償うべし」

 

その言葉を聞いた瞬間、男は行動を起こしていた。上着の内側に携帯していたトカレフを抜き放つと、青年に向けて発砲したのだ。乾いた音と共に八発の弾丸が発射された。外す方が難しい至近距離からの銃撃。だが青年は倒れなかった。

 

「馬鹿な!」

 

男の目が驚愕に見開かれる。

 

「やれやれ‥‥魔術付加もかかっていないただの拳銃とは、なめられたものですね」

 

青年が握っていた手を開くと、ひしゃげた八発の銃弾が地面に落ちた。彼は発射された銃弾の全てを掌で受け止めたのだ。

 

「クソっ!」

 

男は弾を撃ち尽くしスライドが後退したままになったトカレフを地面に投げ捨てると、後方へ跳躍し青年と距離を取った。

 

「殺してやる!黒衣だろうが何だろうが、俺に逆らう奴は皆灰にしてやる!」

 

男は両手を胸の前で組むと、言葉を紡いだ。

 

──煉獄の紅 不滅の炎よ 我が敵を討て!──

 

紡がれた言葉は力となり、男の手に紅蓮の火球を生み出した。そして男はそれを躊躇なく青年に放つ。高速で男の手元を離れた火球は青年を直撃し、激しい爆発と共に青年を炎の渦に飲み込んだ。

 

「ざ、ざまあみやがれ!」

 

先程までの怯えに満ちた表情から一転、炎に包まれた青年を背に勝ち誇ったように笑う男。しかし、それも束の間だった。

 

「本当になめられたものです。こんな小さな炎で、私が灰になるとでも?」

 

未だ燃え盛る炎の中から聞こえた声に、男は凍りついた。

 

「嘘だ‥‥あり得ない!」

 

振り返った男が見た光景、それは悪夢以外の何物でもなかっただろう。炎の中から現れた青年は、灰になるどころか髪の一本すら焦がしていなかったのだから。

 

「化け物‥‥化け物め!」

 

悲鳴にも似た叫びを発しながら、男は再び火球を撃ち出す。だが、青年はそれを避けるのではなく

 

 

刀で一閃した

 

 

真っ二つになった火球は、青年の遙か後方で爆炎の花を咲かせる。

 

「ハハ‥‥何だよそれ‥‥そんなの有りかよ‥‥」

 

余りにも非常識な光景を目にし、男はその場に崩れ落ちると力無く笑った。笑うしかなかった。

 

「さあ、もう宜しいですか?」

 

青年が近づいて来ても男は抵抗しない。いや、するだけ無駄だと分かってしまっていた。

 

「では、死になさい」

 

簡潔な言葉と共に振り下ろされた刃は、男の命を確実に刈り取った。

 

 

 

 

 

 

「こちら黒衣。標的の排除を確認」

『了解しました。後の処理は回収班に任せて下さい。お疲れ様でした』

「ああ、お疲れ様」

 

青年は通信を終えると、足下に横たわる男の亡骸を見つめた。その亡骸に、ポツリ、ポツリと水滴が落ちる。

 

「雨か‥‥」

 

青年はいつの間にか月が消えた雨空を見上げると、静かにその場を立ち去った。

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