発案
「……とりあえず、これからどこを目指すの?」
無事に外に抜け出して、まずイヨが発した言葉がセリカとホムラに対する疑問のひとつだった。色々ほかにも聞きたい事はあったのだが、何よりも彼女たちの目的を先に知りたかった。
「ナゼレ」
『……違う、ナザレだ。お前も知ってるだろ、人間が生まれた場所だ』
セリカの少々違う発音で発せられた単語だけでは足りないとホムラもわかっているらしく──イヨは確かに、それだけではまったく理解できなかったが──補うようにして説明を加えてくれた。
教科書などで習った事はある。聖地とも呼ばれている場所、最北の地、ナザレ。
そこに神々が降り立ち、人々は生まれ、二つの魂のうちの一つを還していた場所。今では各国に在るベッセル教会によって還されているが、昔はそこまで魂を運んでいたという。
そう習ってはいるものの、実際に魂なんてイヨは見た事がなかった。運ぶための箱というのは学院で展示されていて、授業で見た事はあるが──他の生徒たちが興味津々で見ている中、イヨにとってはただの箱にしか見えず、そんなに興味を持てるほどのものとは思えなかった。
「でもそこに向かってどうするの?」
『そんな事は後だ後。それよりよ、お前、どーすんだ。その服は』
「え?」
イヨはぱちくりと瞬きをして自分の服を見る。
特にぼろぼろにはなっていないし、どこかおかしいところでもあったのだろうか。セリカもホムラの指摘がどういう事なのか理解できないようで、きょとんとイヨを見つめている。
『その服はな、学院の特注品なんだよ。そのまま歩いてたら目立っちまうだろうが』
「や、やすっぽいって……」
「そうかなぁ」と、再び自分の服をまじまじと見る。
しかしこの制服のままというのは、ホムラの言うとおりたしかに危険だ。他の学校の制服を見た事はそれほどないが、学院の制服のデザインは独特だという話はよく聞いている。この服のままで旅をすれば、いやでも目立ってしまうだろう。
「でも、お金なんてないよ……」
準備する時間なんて当然なかったのだ。持ってきているものなんて、せいぜいこの制服か練習用のエクラしかない。服を買うお金も持っているはずがなかった。
『その服売ればいいんじゃないか? 高く売れるぞ』
「そ、そんなわけいかないよ! どうしたら……」
『まぁ、たしかに足がついてもな……。……じゃ、アレしかないだろ』
「あれって……何?」
セリカとホムラがお互い顔をあわせる。とはいっても、現実に言えばホムラは炎であるので顔はないのだが……。そして、二人同時に、
「『盗む』」
と同じ事を発した。
「だめ!」
すぐにそれを却下するイヨ。
『あのなぁ、他にどういう手があるんだよ。金があればまだしも、他に手なんかあるのか?』
「うう、そ、そうかもしれないけど……」
他に手段が思い浮かばず、とはいえ犯罪を犯すわけにもいかず。イヨは答えが見つからず目を伏せるが、いつまでもそうしているわけにはいかない。しかし、何か他に手段は思いつかないし。盗む、なんて犯罪はできないし──
なら、それなら……
「お、お店の人をお手伝いするとか……?」
『はぁ? ……あのな、バイトしてる暇なんて、「ある。できるよ」
ホムラの言葉を遮るようにして、セリカがイヨの言葉に力強くうなずいた。
「え……ほ、ほんと?」
「少し歩くことになる……でも、いいなら」
セリカの言葉に、『お前、そんなアテがどこに……』とホムラが言いかけて、すぐ思い出したように『あぁ、あそこか』と一人で納得してしまった。どうやら、セリカとホムラには助けてくれるような人物がいるようだがイヨには全くわからない。正直疲労感は大分黙ってきてはいるが、手助けしてくれる人がいるというのなら、そこへ行くしかないだろう。
「じゃあそこに行ってみようよ。でもどこにあるの?」
「ここから先……レーっていう小さな町がある。そこに居る」
「レー……一回だけ行ったことあるよ。って、ここから歩いてどのくらい……?」
イヨは一回だけ、家族で用事があって出かけた事はある。
その時は馬車を利用しての移動だったからそんなに時間もかからなかったが、徒歩となると──
『お前の足に合わせるなら、まぁ一日はかかるだろうな』
「……ごめんなさい」
「ホムラ、うるさい。イヨ、謝る必要ない。行こう」
しょぼくれるイヨを見て、淡々とした口調で気にしないようにと気を遣ってくれるセリカに「ありがとう」とお礼を言いつつ──ホムラの『早くいかねーと一日じゃつかねえぞ!』という言葉に急かされて二人はレーを目指すことになった。