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セリカのホムラ  作者: てぃま
赤い怪盗と、
8/13

  脱出する、セリカ


「……でも、どうやって脱出する?」


困ったような表情を浮かべて、イヨが呟いた。

私はここへ忍び込んだ時の事を思い出して、それを提案した。


「私と同じ事をすればいい」


「同じ事?」


『無理に決まってるだろうが。……セリカが此処に来た時は、門のところで待ち伏せして、馬車に忍び込ませたんだよ。あん時は上手くいったが今の状況じゃできるわけがねえ』


「馬車か……そう、だね。この時間じゃ馬車なんて出ないだろうし。……それに、この街は壁に囲まれてるから、登ってでれるわけないし」


ホムラに却下されてしまった。

イヨたちの話を聞けば、ここには見えない結界があるらしい。丈夫だから壊せないけど、仮にそれが壊せたとしても、それに反応してたくさんの敵がやってくるそうだ。


「あ……一つだけ、案があるけど」


「何、イヨ」


イヨが、私とホムラを見ながら自信のなさそうな声で言う。


「すっごい昔、この街のどこかをアジトにしていた有名な盗賊がいたっていう話があって。その盗賊たちは、結界を避けるために街を出入りするとき地下道をつくって、特別な術を施していたって」


『……おいおい、どこの御伽噺だよ。実在すんのか? 第一、どれくらい昔だか知らんがそんなアジト、もうなくなってるに決まってるだろ』


「ホムラ、だまって」


ホムラはいちいち余計でうるさい。

今までもずっとそうだ。


「実際にその盗賊たちが利用していたかは判らないけど、それっぽいアジトは存在するの。誰かが使ってたみたいだけど、もう廃墟になってて。小さい頃はそこでよく遊んだから、道はわかるよ。……地下道なんて、そのときは見つからなかったけど。でももしかしたら……」


『……仕方ねえ、ダメ元で行くしかないか。ほらイヨ、案内しろ』


「え、あ、……こっちだよ」


ホムラに促されて、イヨがあわてて歩き出した。



数十分は歩いただろうか。

だんだんと街の中心から離れていく。街を囲むようにして立っている高い壁が(イヨの話いわく、これも晶術(フォンテ)とか言うので出来ているらしい)どこまでも続いているように見える。


やがて街外れの林にやってきた。ここもしっかり壁で外にはでられないようになっていた。暗くて、月の明かりだけを頼りに進んでいくと──ボロボロになった木の家が見えた。


『アジトっていうわりには……確かに隅っこにあるけどなぁ、道が判りやすいっていうかさ』


「すっごい昔の話だから。今通ったところも、最近まではずっと森だったんだよ」


『成る程。で、お前たちの遊び場になってたんだな』


「うん、お母さんたちは危ないからやめなさいって言ってたけど……冒険するのが楽しくって。まぁ、今でもこうしてすんなり覚えてたのは自分でも驚きだけど」


イヨが、昔の事を思い出したのかクスクスと笑いながら、「こっちだよ」とアジトまで案内してくれた。

屋根も穴があいていて、床も腐っている部分があったけど、思ったよりはまだしっかり歩けるところがある。たしかに子どもたちが遊んでいるらしい、落書きの後もたくさんのこっていた。


「で、噂ではここのどこかに地下道があるらしいんだけど……」


『見つけたガキはいないんだな?』


「少なくとも、私の知り合いには」


『……俺でもわからんって事は、相当念入りに作られてるんだろうな。そこら中探せ』


部屋中を探すことになった。

私はともかく、イヨを守ると決めた以上危ないところは探させない。床がしっかりした所を頼んで、私は他のところを探す事になった。


机の下、棚の裏、家の周辺……。

暫く探してみたけど、やっぱり見つからない。

イヨが、落ち込んだ様子で「やっぱりないのかな……」とうつむいている。


「そんな事ない。きっと見つかる」


『まぁ噂なんてそんなもんだろ。アジトだって尾ひれがついた結果かもしれねえしな』


最初は文句を言っていたホムラが、珍しく励ましの言葉を投げかけた。

とりあえずは少し休憩してから次の手を考えようという事になって、それでも私はもう少し調べてみる事にした。


「……?」


壁に書かれた、子どもの落書き。

そこにうっすらと、何か文字のようなものが書いてある。でも相当汚い。書き殴ってあるみたいだ。


「……"我の道を示せ"?」


「え? ……セリカ?」


次の瞬間、手に触れていた壁が重い音を立てて横へ動いた。

そこには下におりるための梯子が続いていた。イヨが驚いたように寄ってくる。


「ど、どういう事?……壁は調べたけど、スイッチみたいなのはなかったのに」


「文字が、あって……」


『文字? ……ガキの落書きはあったけど、そんなもんどこにあったんだ?』


「……ここに」


私が指をさす先をイヨが顔を近づけて見つめている。

しかしそのうち、顔を離して、「……たしかに、うっすらと何かあるけど。でも文字なのかわかんないよ」と言った。


『……まぁ、セリカは無駄に目もいいからな。頭はそんな良くないが。とりあえず行こうぜ。セリカ、先におりな』


余計な事をいうホムラを下に落としてやろうかと思ったけど、我慢して梯子に手をかける。

鉄でできた梯子は、ところどころ錆びて蜘蛛の巣がはっていたけれど、自分の体重で壊れる事はなく無事に地下におりる事ができた。


「おりれる。でもイヨ、きをつけて」


「うん、わかった!」


心配そうにこちらを見ていたイヨが、私の言葉に続くようにして梯子をおりてきた。


「……暗いねぇ」


「ホムラがいる」


『俺はたいまつか』


ホムラをかざして、松明のかわりにする。

石でつくられた地下道は狭くて細長く、先は真っ暗で見えない。


「……とりあえず、行けるところまで行ってみる?」


ここで止まっていても仕方ない。

私が先頭にたって細長い道を進んでいく。



「……あ、待って!」


十数分経った頃。

突然イヨがそう言って立ち止まった。それにならって、私も立ち止まる。


「どうしたの」


「……結界が」


イヨは、私より前を見つめていた。

私が目を細めて見ても何も見えないけれど、イヨには何かわかるのだろう。さっきの話でもエクラと違和感がどうとかと言っていたから。


「……結界は何度も新しく張り替えてるってるのは知ってたけど。そうだよね、強い結界なんだからこうなってもおかしくなかったんだ」


『地下道はホントだったのに、残念だな。引き返すか?』


「通れるよ、イヨ」


がっくりと肩を落としているイヨに、私はそう言い切った。


「え?」


そこにあるだろう"壁"に、私は手の平をむける。

どこにあるかはわからないから、私はそのまま立ち止まる事なく歩いていく。


『おい、お前、』


「黙ってて」


ホムラはうるさい。


──何歩歩いただろうか、何か堅いものの感触を感じて、私はそれを握りつぶす。

途端に、イヨが「あ、あれ?」と不思議そうに呟いた。


「結界が……?」


「……ね、イヨの言った事は本当。通れるよ。……イヨ?」


イヨが、私の顔を不思議そうに見ている。


「……あ、なんでもない」


私、顔に何かついていただろうか。

聞こうとしたけれど、イヨはなんだかあわてた様子で先に行ってしまった。



やがて行き止まりにたどり着いた。

そこには上へと続く梯子があって、イヨを少し後ろに後退させてから私が先にのぼっていった。

天井は何かでふさがれていて、片手で力強く押し上げる。それは岩のようで、穴をふさいでいたようだった。横にずらし終えると、ぱらぱらと落ちてきた小石や砂をはらって顔だけを出す。


「……誰もいないよ」


『……あの壁は街の壁だな。外に出れたみたいだ』


敵がこないか警戒しながら地上に出る。

イヨに大丈夫だという意味でサインを出すと、イヨも躊躇いもなくのぼってきた。


「ああ……外、外なんだ」


イヨの瞳は、すごくキラキラしていた。

あまり街の外に出た事がないって話してくれたイヨ。きっと、外に出られてワクワクしているのだろう。


「いこう、イヨ。外の世界に」


「うん……行こう」

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