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セリカのホムラ  作者: てぃま
赤い怪盗と、
6/13

逃走

「……!」


その場に居る誰もが、状況についていけず──しかし、同じく部屋に居た数人の軍人たちのほうはイヨ達よりも早く行動に出る。更に廊下へのドアを蹴り開けて4,5人の軍人が現れた。それぞれが銃を構えセリカに向ける。だが、ルフレだけが驚いた表情を浮かべたまま動けずにいた。


セリカの方はといえば、無表情ではあるが銃を向けられているのを不思議そうに眺めている。


「……晶術(フォンテ)による結界を破る、その力。最初は信じられませんでしたが」


淡々としたスイの声。

しかし、先ほどの口調よりも静かで、何かを警戒しているようなものだった。

此処を守るために張られている晶術(フォンテ)の結界。勿論昨晩も張られていたはずだ。それを破って図書館へと侵入しただけでなく、今回目の前でそれを破って見せたのだ。他の軍人のように銃や武器を構えてはいないが、何かあればすぐ行動に移せるようにはしているのだろう。


「……また会った」


セリカは銃も気にせず、イヨに向けて小さくお辞儀をする。

それから突然ルフレに近寄って、


「これがないと、ダメだから」


何の躊躇いもなく、ルフレの腰のポーチから空の透明な容器を取り出した。

そこで動けなかったルフレが、ハッとしたように我に返る。


「オマエッ……!」


ルフレが再び炎の入った容器を剣を持つように構える。しかし次の瞬間、セリカはルフレから離れイヨの傍へと動いていた。


「セ、セリカさん……」


「窓、壊してしまった。ごめんなさい」


セリカがスイのほうへと顔をむけて、再びお辞儀をした。その口調は淡々としたものだったが、本当に反省しているというのはイヨにもわかった。


「アンタねぇ……上等じゃないの……。アンタを殺して……さっさと奪い返す!!」


ぷつん、という何かが切れた音と同時に、ルフレの低い怒りの声が聞こえてくる。そちらを見れば、怒りのあまりに体をワナワナと震わせているルフレの姿がった。手に持つ炎の剣も、何かで防がれ弱弱しい光を放っていた炎が再び燃え上がり剣となる。


「撃ちな!! この部屋の弁償なんて、後でいくらでもできんだからっ!!」


ルフレが声をあげると同時に軍人たちが一斉にセリカに向けて銃を放つ。勿論隣にいるイヨが被害を被らないわけがなかったが、


「来て」


ぐい、とセリカに手をつかまれイヨの体が宙に浮く。だが、室内で発砲された弾を避けきれるわけではない。

しかし不思議と何故か弾は当たらなかった。自分たちを避けるように壁へと鉛の弾が撃ち込まれる。


ルフレが逃がすまいとばかりに床を蹴って、セリカの前に移動する。炎の剣を、横から目的めがけて振り払う。しかしそれは、セリカが防ぐように伸ばした手によって受け止められてしまった。


「な、なんで……!?」


「もうチャンスはない。貴方に用もない」


イヨも驚いたが、ルフレは更に信じられないといった表情を浮かべていた。そのままセリカは炎の剣をつかみ、軽々と発砲していた軍人たちに放り投げる。まさかそのまま発砲し続けているわけもなく、あわててルフレを受け止め──そのままセリカは破った窓の縁へとイヨと共に立って、スイへと目を向けた。


「……貴女は、」


スイが、わずかに驚いたような表情を浮かべた。


「ちゃんと弁償するから」


セリカがぽつりと言う。それと同時に、再びイヨの体が宙に浮いた。そのまま落下する。わけもわからず、しかし自分は落ちているのだと気づくと思わずがっしりとセリカの体にしがみついた。それに動じる事もなく、ストンと何の衝撃もなくセリカとイヨは三階からの地面への着地を遂げる。


「離してよ! アタシだってできるわよ、あのくらいっ!! ちょっと!!」


上から、ルフレの声が聞こえてきた。どうやら追いかけようとしたが軍人たちに止められたのだろう。

しかしこのまま歩みを止めて待っているわけにもいかない。既にどこからともなく数十人の軍人たちが包囲するように此方へとやってくるのが見えたからだ。


「居たぞ!」 「撃て!」


「こっち」


再び銃撃。

しかしセリカは動じる事なく、着地した事で緩まったイヨの手をつかんで出口へと駆けていく。弾は二人を避けるようにして流れていき、二人はあっという間に学院を脱出して街の中へと消えていった。


──


「……クソッ! これ以上はやめな」


ルフレは敗れた窓の縁に手をかけながら、睨むようにその様子をながめていたが、やがて悔しそうな声でポツリと呟くように命令をだした。この騒ぎでも十分寮にも伝わっているだろう。これ以上街の中でもやらかすわけにはいかなかった。しかし怒りは収まっていないようで、ガラスの破片によって手が切れ血が出ているにも関わらず、ルフレはそれに気づいていなかった。


「……スイ、アンタまさかあの怪盗女をかばってんじゃぁないでしょうね? 銃弾がちっとも当たんなかったじゃない。あんだけ大きい的なら嫌でも当たるはずなのに……」


再び容器へ炎が戻る。それをポーチへしまいこみながら、ルフレは低い声でそう言い今にも襲いかからんとばかりに、スイを睨みつけた。


「私は"生徒を守っただけ"です。……それより、事を大きくしないと言う約束でこの部屋を貸したはずですが、」


スイが、周りの様子を見回す。銃で壁はボロボロになり、蹴り開けられたドアは半壊している。高値であろう絨毯や机は焦げ跡が残り、殆ど飲まれずに中身がなくなってしまったコーヒーカップもバラバラになっていた。


「……わかってんわよ。ついでにあの生徒も助けてやるわ。"さらわれたみたい"だしね? ……でも、仲間だとしたらこっちの好きにさせてもらう」


「どうぞ」


「引き上げるよ! 早くしな!」


ルフレの声に、軍人たちが引き上げていく。

誰もいなくなったその部屋に一人、スイは残っていた。さて、他の者たちにどう説明し片付けたらいいものか。学院長にも、戻ってきたらこれらを説明しなければいけない。


スイは窓へと歩み寄り、セリカとイヨが逃げて行った方を見つめる。


「……たしかに、約束どおりだったわね。セリカ」


やがてぽつりと、スイは呟いた。

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