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セリカのホムラ  作者: てぃま
赤い怪盗と、
4/13

天才少女

それから今後の授業の再開についての説明を聞き、今日は終了となった。再開、とはいっても結局まだ目処はたっていないようだが──

事件があった後だ、外出許可もきっとでないだろう。生徒たちはため息をつきながら寮へと戻っていく。サナとイヨも、課題を抱えながら自分の部屋がある女子寮の3階へと移動する。


「は~……ちょっとは休みにしてくれたっていいのになぁ」


寮の部屋に戻ってすぐ、サナがベッドに倒れこんでため息をつく。

配られた大量の課題は、早速机の置物と化していた。


「実際夏休みも、宿題ばっかりで休みなんて殆どなかったしさ」


「仕方ないよ、そういうところなんだから」


苦笑いを浮かべながら、イヨは空気でも入れ替えようと窓を開ける。そこで外が騒がしい事に気がついた。どうやら他の生徒たちも気づいてるらしく、同じように別部屋の窓から下を覗き込んでいる。同じように下を見下ろすと、かなりの人数の軍人たちが忙しそうに動き回っているのが見えた。サナも何事かと、イヨの隣にやってきて下を見下ろす。


「よっぽど重要だったんだね~……。ここまで大っぴらに行動しちゃっていいのかな?」


「うん……。一体、なんなんだろうね……あれ?」


男性の軍人たちの中に、何か違和感を感じてその動きを目で追う。よくみてみれば、一人だけ自分たちとそう年齢の変わらない少女が軍服を着てそこに居た。くすんだ桃色で毛先に緩くウェーブのかかった髪に、翡翠の瞳。どこかで見た事があるような、と考えていると、


「あ、あれってルフレ少佐じゃない?」


「ルフレ? ……あぁ、あの人が?」


サナの声に、ようやくイヨも彼女が誰か思い出した。ルフレ・オードラン少佐。年齢は17歳かそのくらいだっただろうか。新聞でも、何回か「天才」と称されて特集で取り上げられ、イヨもそれを読んだ事がある。オードラン家は多くの軍人を輩出している家系で、確かルフレの他に兄二人も軍人になったと聞いた。その中でもルフレはオードラン家始まって以来の天才らしく、だからこそその若さで少佐まで昇進できたのだろう。


「ルフレ少佐の家って、名門なんでしょ? なんかコネでのぼったのかね?」


「そういう事いわないよ、サナ。……でもなんだか、様子がおかしいね」


新聞に載っている写真でも笑顔を見た事はない。大抵どこか不機嫌そうな表情か得意げなニヤリとした笑みを浮かべているかどっちかだ。今のルフレは明らかに不機嫌で、いらついているのがみてとれた。部下であろう軍人たちも、そのとばっちりにあいたくないようであまり近寄ろうとしていない。


「なんかすごく……怒ってる?」


「なんだろ……赤い怪盗が盗んだのと、何か関係があるのかな?」


ルフレが、突然顔を上げた。

なんだか目があってしまった気がして、イヨとサナは換気するのも忘れてあわてて窓を閉めてしまった。


──


「はぁ、する事ないし宿題しよっかなぁ」


時刻も進んで夜となり、夕食を終え、談話室でくつろいでいた二人は再び自分達の部屋へと戻ってきた。

いよいよサナもやる事がなくなって、ついに課題をやる決意をかためたようだ。イヨは昼寝をたしなんでいるサナの隣で少しずつ進ませてはいたが──それでもまだ半分も終わっていない。休憩もそこそこに、諦めて課題をしたほうがよさそうだ。


「そうだね、明日もあさっても、多分再開しなさそうだし……」


仕方ないね、とサナが机に向かった時。

トントン、とドアをノックする音がする。


「あ、はい」


明日の授業についての連絡だろうか。

イヨが返事をしてドアを開ける。──そこに立っていたのはスイという名の教頭だった。あまり喋る機会もないがなんとなく近寄りがたい雰囲気をもつ女性で、その為か怖い、と生徒たちに評されている。イヨも話した事は殆どないため、いまいちどんな先生なのか判らないのだが。


「あ……スイ先生……」


「イヨ、サナ。授業は暫くなくなる予定となりました。追加課題がでたので、イヨ、それを取りにきてください」


「あ、はい。じゃあちょっと行ってくるね、サナ」


「あ……わかった」


スイが来た事で、サナも返事をした後は真面目に取り組んでいるかのように鉛筆を走らせている。多分ドアが閉まればその"疲れ"で休憩してしまうのだろうけれど。

イヨはスイについていくようにして、自分の部屋を後にする。


暫く黙ったままついていく形になるが、何かおかしい。

同じように追加課題を受け取るはずの生徒がいないのだ。まさか一部屋ずつこうして移動しているという事はないだろう、時間の無駄になる。

なんとなく話しかけづらくて黙っていたが、さすがに教員室を過ぎた後にイヨは口を開いた。


「あの、スイ先生。……追加課題はどこに?」


歩みを止めず、スイは振り返らないままこたえた。


「イヨ・メルヴィル。……貴方は、昨晩図書館に居たようですね?」


どくん、と心臓が大きく跳ねた。

途端に体中から汗が吹き出るような感覚を覚えて──けれども歩みを止めなかった。正確にいえば、止められなかったのだ。

イヨが答えないでいると、再びスイが口を開く。


「目撃した人がいるのです。もう知ってるとは思いますが、図書館での事件。……何が言いたいか、わかりますね?」


イヨがどう返答しようか迷った時、スイが足を止める。

どうやら目的の部屋についたらしい。スイがノックをすると、「いいわよ」という女性の声が内側から聞こえてくる。


もう、逃げ出せない。逃げる事はできない。

沈黙したまま、スイを直視できず床を見つめるしかできなかった。


スイが、女性の言葉に「失礼します」と返答してドアを開けた──

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