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終末のイメージ

 

 ――その姿に魅入られたのは事実だ。

 夜の黒を蹂躙してしまうかの様な、圧倒的で暴力的な赤。

 悠然と立つその姿に、心を奪われたのは。

 紛れもない真実そのものだった。



「何故ついて来る」

「囮から目を離すのは不安で仕方ないの」


 登校中、一所懸命に自転車のペダルを漕ぎながら問いかける。荷台に当然のように座っている砥傾夕歌に。


「二人乗りはダメ絶対」

「煩い。黙って私に傅きな」

「黙れ。お前こそ俺を守りやがれ」


 もう止めよう。喋ると余計に疲れる。こいつ、平均より重いんじゃねえの?


「ほらほら、遅いわよ。遅刻しちゃっていいのかい」

「お前が、昨日……俺の、ベッドを」


 切れ切れに反論しつつも前進。

 砥傾は勿論、俺の家に絶賛宿泊中。食事も遠慮無いし、言い訳も如才無いし、実に自由だった。

 

「正直、襲われるぐらいの覚悟はあったんだけどねー」

「一瞬でドロドロじゃねえか」

「ドロドロ?」

「勿論俺が!」


 語気を荒げて叫んでいると、周囲の視線を感じた。

 そりゃそうだ、今は登校時間真っ盛り。加えて真っ赤な頭髪は目立ちすぎる。

 これも、砥傾の策謀だろうか。


「見られてる見られてる。浮いてるわね」

「額面どおりの意味で、浮いてくれると助かる。お前、重い」

「な――」

「嘘だ。嘘吐いた。だから落ち着け」

 

 思い切って毒を吐いてみたものの、両腕が腰をホールドしたので撤回。

 ドロドロは嫌だ。


「おー、快適快適」


 速度を速める。

 砥傾が俺の腰に回した腕を解かないから、余裕で緊張している。相変わらず良い匂いだし。熱くなった顔を冷ます為の対処である。


「おお? 何か動悸が激しいぜ?」

「やかましいんだよ、お前の所為だろうが」


 普通にハグされて興奮気味なのと……そんな光景に殺意を顕にしている周囲の視線。

 何ていうか、融解犯に会う前に殺されそうだぞ俺。


「ちくしょう、さっさと……」


 その続きを言うのは、憚られた。

 さっさと融解犯出てこいよ。

 融解犯を捕まえて――殺して、こいつは一体どうなるのか。

 性格の悪い事を言うけれど。

 例え殺しても、それは融解犯の犯行に組み込む事が出来る。結局誰も、融解犯の正体なんて知らないのだから。

 それとも砥傾は、自主でもするんだろうか。そもそも、生きる全てを失った砥傾はその後の人生どうするのか。無気力に、無意味に、過ごすのだろうか。

 性格の悪い事を言う。

 だったら、融解犯なんて……見つからなくていいと思った。


「……さっさと、学校着かねえかな」

「そうね。お尻が痛い」


 砥傾の性格の悪さも筋金入りだけど、俺も人の事は言えないな。 



「何でお前がついてくんだよ」

「さっきの会話の焼き直し? 囮から離れるのは嫌なんだ」


 到着する少し前に、一度自転車を止めて降りるよう促したものの、頑なに拒否された。果ては授業を受けるなどとイカれた一言まで。流石にそれは無茶苦茶だと思いつつも、とりあえずは遅刻回避の策をとった。

 掻い摘んで話そう。

 校門に居る教師の目を欺こうとするも失敗。仕方が無いので制止する暇を与えない程の猛スピードで特攻。無事潜り抜けるも職員室に呼び出され。今しがた、有り難い説教を終えた所なのだ。

 まあつまり、今の一言は皮肉だった。


「しかもなんだ、何故だかお前も授業に出れるらしいぞ」

「え、何で?」


 素直に驚いたのだろう、素っ頓狂な声をあげて目を剥いている。


「よく分からんが、外部との交流がなんとか」


 口から出任せ。

 こいつの事だから教室の後ろで本でも読みながら「気にしないでどうぞ」とか言いそうだったので、俺が嘆願して許可を貰ったのだ。いちいち俺が説明するのも面倒だから、教師を味方に。

 説得するのに苦労した分、砥傾にはしっかり勉学に励んでもらおう。


「ほら、行くぞ」

「う、うん……」


 やけに殊勝な返事をして、砥傾は俺と教室へ向かった。



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