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独善的なマニフェスト


「それでさっきのあいつは……誰、いや、何なんだ」

「さっきのは、私の友達よ」


 帰宅途中に当然の疑問を投げ掛けた。

 すると再び、俺の頭を打ち付けるような告白。つまりは、砥傾の友人が俺の命を刈り取ろうと襲撃してきたってのか。意味分からない。


「い、意味不明すぎる! それに、お前、あいつ殺しただろ!」


 俺を殺す直前、砥傾によって殺された。

 ――溶かされた。


「ま、て……。溶かした、よな」


 『融解犯』、その言葉が俺の頭の中を侵食していく。巷間を騒がせる殺人鬼、手口も意図も分からない、殺人狂い。溶かして殺す。溶かされて殺されたあいつ。符合、する。


「まさか、お前!」

「違うわよ。間違っても私は『融解犯』なんかじゃない」


 きっぱりと、俺の疑念を断ち切るように言い切った。

 瞳はひたすらに真っ直ぐで、自身の潔白を訴えている。


「そ、れでも。お前はさっき」

「ああ、あの子? 大丈夫よ、あれは人形だもの」

「人形?」

「察してるとは思うけど、この世に超能力的な物は存在するんだよ」


 人差し指を俺に向けて、至って真剣に話を進める。

 

「私の場合は『溶かす』事ね。忌々しい犯罪者と一緒なのは死ぬ程嫌だけどさ」


 歯噛みして自身の腕を睨みつけると、再び俺に視線を戻す。

 

「それで、さっきの子――透明ちゃんの力は、間単に言えば自身の分身を作れるの」

「だったら、お前はあんな奴と付き合ってるのかよ」

「いや、その点に関しては不可解なの。実際の彼女はもっと落ち着いてて、間違っても人を襲ったりしないんだけど」


 解せないと表情に色濃く顕しながら、ぶつぶつ何か呟いている。

 俺はそいつを知らないから分かりはしないけど。


「超能力、ね」


 本来いきなりそんな突拍子も無い夢現のような事を語られたって信じれない。

 けれど、実際俺はその力を見てしまったし、殺人鬼の手口も一致する。念頭に置いておけば、今後は簡単に蹂躙される事もないかもしれない。回避する事が出来るかもしれない。

 くまで注意する、程度だけど。会ってしまえば即お陀仏だ。


「だったらよ、その辺の石ころでも溶かしてみてくれよ」

「疑うなよ、助けてやったのに。まあ見せてやるけど」


 砥傾はぶつくさ文句を言いながらも、適当に落ちている石を拾い上げると思い切り握りこんだ。

 やがてその握られた拳から、ドロリと液体が零れ落ちてくる。


「どう? これが私の能力ってやつ」

「ぐ……恐ろしいな。俺にもそんな力があるのか?」

「さあ。あるかもしれないし、無いかもしれない。こればっかしは本人にしか分からない」

「ふとした拍子に目覚めたり?」

「六月が、少年漫画やライトノベルの主人公だったなら、有り得るね」

「だったら、望み薄だ」


 自嘲して溜息を吐く。隣で砥傾は笑っている。

 主人公、ね。もし俺がそんな風に出来ているのなら、砥傾と昔出会っていて、俺は忘れてるけど砥傾は覚えていて、一緒に融解犯を追っていく中で思い出すとか、そんな感じか。馬鹿馬鹿しいな。


「それで、その少年漫画やライトノベルのヒロインに位置づけられてるようなお前は、何が目的なんだ?」

「決まってるじゃん、融解犯を殺すの」


 意気揚々と、そして天真爛漫に、殺人予告をした。固まる俺、意気込む砥傾。


「私の両親を殺した融解犯をね、この手でドロドロに溶かしてやるのよ」


 ――凄惨で凄烈に破顔。

 その時初めて、俺はこの女に恐怖した。こいつは、きっと憎悪で生きている。家族の仇を討つ為、きっと生きているのだ。

 瞳の奥の奥にある、灼熱の憎悪は――ひたすらに燃え続け、こいつはひたむきに犯人を追っている。生きる全てが、殺す事だった。


「なあ、もし融解犯が捕まったどうするんだ」


 それは明らかに愚かな質問だった。

 砥傾は凄惨な笑みを崩さずに、


「それでも殺すのよ」


 当然の答えを当たり前に言った。

 

「何の手掛かりも無しに全国周ってるけど、行く先々に現れるのよ。あいつ」


 促すまでもなく、とうとうと続けていく。

 俺は静かに、それに聞き入った。


「私を嘲笑うように、死体を残して去って行くの。いたちごっこね。挑発してやがる」


 一瞬、嫌な疑問が浮かんだけど、それは理解する前に消えてしまった。

 砥傾は続ける。


「明らかに、私の動向を知っている。というより、私の周囲を知っている」


 周囲を……知っている? それが意味するのは、つまり。


「――ま、て」


 つまり、つまりこいつが言いたいのは。


「お前、俺を囮にしようと、してるのか?」

「ご名答」


 悪びれた様子も無く、平淡に言い切りやがった。

 そのくせこいつは、


「大丈夫だぜ。私が、六月を……街のみんなを守るから」


 自分勝手で、独りよがりな一言を放ったのだった。



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