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双子座のメルト


「結局オレは、お前に会いたいだけだったんだ」


 思惟に耽っていたウラが、凄惨に笑って言った。

 その表情には、どこか清々しいものを感じられる。


「オレはお前も夕歌も、大好きで大事だよ」

「なんだよ、急に」

「こんな風に歪んでなかったら、今すぐお前に飛びつくのにな」


 哀切な瞳を俺に向けて、自嘲気味に笑う。俺はその姿に、たまらなく胸を締め付けられて。ウラを抱き寄せた。


「飛びついていいんだよ。人を殺そうが、なんだろうが、お前は俺の大切な娘なんだからさ」

「このままお前を殺すかもよ」

「俺は死なない。お前達を残して死んだりするもんかよ」

「何言ってんだよ、馬鹿じゃねえの」


 伝わる体温は、凄く暖かい。酷薄で残虐と罵られる融解犯だろうと。人間なんだから。こいつなりに頑張った結果なんだから。誰にも攻めさせない。


「自分勝手でいい。最低でいい。俺は俺を尊重する」

「……もう離せよ」

「嫌だ」

「いつまでする気だ?」

「いつまでも」


 だってお前、離したら消えそうだろ……。すぐにも消えそうなほど、弱弱しいじゃねえか。自惚れかも知れないけど、お前は俺に会って救われたって思ったんじゃないか?

 後は俺と砥傾でやっていけるとか考えてるんじゃないか?


「オレさ、もう休んでいいか? 流石に疲れてさ」

「……消えるのかよ」

「ああ。もうお前と夕歌で大丈夫だろ? 夕歌は芯の強い奴だからよ。お前と支えあっていける」

「お前はどうなるんだ」

「オレはもう救われた。お前に向かって散々毒吐いたらスッキリだ。オレの思い、伝わったろ?」


 伝わったさ。痛いほどに。今こうして抱きしめてる間も流れ込んでくる。 


「恨んでるってのも、殺したいってのも、やっぱ嘘だ。そうしてくれ。ラスボスがこんなで悪いけどよ」

「ウラ」

「オレがやった事は許される事じゃないし、逃げるのも罪だけど。……頼んでいいか?」

「……分かった」

「お前が好きなのは夕歌だしな。オレは邪魔だから消える。卑怯にも、お前らに責任押し付けて」

「それぐらいの我儘、なんてことはない。俺はお前の親だから」


 最低でいい。みっともなくていい。お前は頑張ってくれたから。

 後は俺に……俺達に任せろ。


「……さんきゅ。じゃ、最後に」


 ウラは俺の首に腕を回すと、背伸びをして。

 俺の頬に唇を当てた。


「な、ウラ!?」

「娘の最初で最後なプレゼントだ」


 生意気な笑顔で俺を見て――


「ありがとな。大好きだぜ、親父」


 最後に、とびきり無邪気な笑顔を作って。膝をついてその場に倒れた。慌ててその身体を抱き上げる。

 

「ん……ん?」


 ゆっくりと目を開いて、視界に入った俺に目を剥いた。


「六月……? 何してるの?」

「……俺、どうやら主人公だったみたいでさ」


 えらく久しぶりに感じる砥傾の顔に安堵して。

 もう会うことのないウラを思い出して。


「う……あ……」

「泣いてるの?」


 自然と、涙が零れていた。



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