崩壊のモノローグ
「――僕が君を助けるから」
その時その瞬間、オレは生まれた。
そんな無責任な一言から。
そんな現実逃避の無責任から。
オレは――生まれた。
最初に感じたのは、生みの親――倉六月の暖かさ。夕歌の記憶を通して、オレは自分の状況をすぐに理解した。オレが夕歌を救うんだ。
「任せろ。オレに任せろ」
安心させる為に、気丈に振舞って言うと倉六月は屈託無く笑った。
「ありがとう、ありがとう」
ひたすらに繰り返した。
オレはそれだけで、これから頑張ろうと思った。この闇を抱えていけると思った。オレだけが、夕歌を守れる。
そう、オレだけが。
「いいんだよ」
倉六月をも、守ることが出来る。彼には幸せになって欲しい。親孝行だ。
「――オレがお前を助けるよ」
背負うのはオレだけで十分だ。
力を使って、オレは倉六月の記憶を溶かした。砥傾夕歌との出会いも、自分が創造者であることも、全て忘れさせた。
決別は済んだ。
それからは、ただ転々と全国を歩き回った。夕歌を操縦するのは簡単だったから。色んな景色を見て、好きなように生きた。あの惨状を風化させようとしてたんだ。
だけど段々とオレは狂っていった。
どれだけ経っても何をしても、あの光景が忘れられない。次第に歪んでいく。記憶を消すことも出来たけど、それだけは絶対にしたくなかった。
だってそれは、オレ自身の否定だぜ? 倉六月への裏切りだ。
それだけは絶対嫌だった。
どれ程おかしくなっていたのだろう。
唐突に、オレは人を殺した。歪みはそれ程広がっていたのだ。きっとその時のオレは、多くの人を殺す事でどうにかしようと考えた。
馬鹿馬鹿しい。最高に馬鹿馬鹿しい。
大した充足感も得られず、次々人を殺した。
救いようが無い。
世間は連続殺人犯を『融解犯』だと騒ぎ始める。だから何だとどこ吹く風で、全然構わなかった。
もう、オレは駄目だった。心が死んでいた。
「倉六月に会いたい」
自分で放しておいて、そんな事を思った。オレを生んだ親なら、救ってくれる気がして。
『融解犯』を追う砥傾夕歌を利用してあそこへ戻ると決めた。




