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創造上のクリエイター


「……思い出したか、クリエイター」

「ああ、全部思い出したよ。お前の事も」

「折角オレが記憶も溶かしといてやったのに……敵わねえよ、創るやつには」


 素直に褒め称えるウラ。

 ここは俺と砥傾が、昨日来た公園。半ば確信めいたものを持って訪れると、案の定ウラはそこに居て。ブランコに乗って俺を待っていた。


「それで、全部思い出して創造者へと戻ったお前は……何が目的だ?」

「俺、お前に謝らなきゃ」

「――っ」


 俺がお前にした事は、許される事じゃない。負の感情を全て押し付け、それを一人で背負わせた。俺の勝手で生み出されたのに、お前は俺の心配をした。だから記憶を溶かして、自分の存在をどこからも消し去って。

 ――ただの一人で歩んでいた。


「ごめん。俺はお前をずっと苦しませた」


 自分で生んでおいて、忘失した。俺はウラを殺した。殺したようなものだ。そんな俺が、融解犯だろうが、責める事を出来るはずがない。今のウラがあるのは俺の所為なのだから。


「何謝ってんだよ」

「ごめん」

「オレが忘れさせたんだぞ?」

「それでも、ごめん」

「――!!」


 左から、鈍痛が頬を射た。殴られたと気付くのに時間は要さない。

 頬はやがて燃えるような熱を帯びて、ドロリと、溶け落ちた。


「がっ、あ」


 しかしすぐに傷口は再生する。

 

「謝るなよ、お前が。何で謝るんだよ」


 泣きそうな顔で俺を見ると、再び拳が俺を打つ。

 痛い。熱い。溶ける。


「悪いのはオレだろうが! お前は癇癪起こした夕歌の為に、オレを生んだんだろ!」


 そうだ。

 幼い頃に自分の力をわけも分からず暴走させた砥傾の心を守ろうとした。

 それでお前に押し付けた。最低だ。


「お前が、お前だけは謝るな!」


 峻烈な猛攻が俺の体の至る箇所を溶かしていく。それでも俺は死なない。俺にある生存本能が瞬時に身体を復元していくから。


「お前は、それを正しいと思ったんだろ! だからお前は、オレに『頼った』んだろ!」


 ……頼った。

 俺がそんな風に考えるのは自分勝手だ。ただ、押し付けただけなのに。


「そのお前が、オレを――否定するな!!」

「ぐ――は」


 ちくしょう、痛い。

 腹に風穴が開いている。今すぐにでも死に果ててしまいたいとも思う。それでも死ぬわけにはいかない。死んで――また押し付けるなんて絶対に嫌だから。


「お前はオレの親だろうが……オレを生んでくれた、親だろうが」

「ウ……ラ?」


 泣いてるのか。それがどんな涙なのか。流石の俺にも分かった。


「お前……恨んで、ないのか」

「恨んでるに決まってるだろ。殺したいに決まってるだろ」


 涙を止めようとせず、ウラは言葉を紡いでいく。


「オレは甘かった。思い出す前に殺せば良かった。未練がましくだらだら話すんじゃなかった」

「ウラ……」

「ああちきしょう。お前がオレの親だって事を思い出された途端に、躊躇しちまう。それに何より、もうお前は殺せない」


 創造者だからな、とウラは皮肉を込めて言った。

 それでも俺が創れるのは。自分だけの幸せ。

 ちっぽけで卑しい、愚かなクリエイター。

 それが俺だ。


「違う」


 俺の心中を察したように、ウラが言う。

 もう涙は止まっていて、真っ直ぐに俺を見据えていた。


「お前は不幸だ。悩んで、オレみてえな殺人犯創って。挙句何も知らず生きて来たんだからよ」


 ――その通りだった。

 ウラの言う事は真実を射抜きすぎていた。


「だから謝るな。自分だけが幸福の上に立っているみたいな考えを止めろよ。オレもお前も夕歌も、突き詰めれば結局不幸なんだから」


 ウラは俺に一切の反論を許さない、どこまでも剛直な視線を刺し付ける。


「……何でオレがこんなこと言わなきゃいけねんだよ、くそ。いいか覚えとけ」


 慣れない為か、恥ずかしそうに頭を掻いて俺から視線を外す。

 そして。


「幸せを創れるようになってから、謝りやがれ三流クリエイター」



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