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03

タイヤの音が過ぎ去るのを待ってから、口を開こうと試みる。

素の僕を表に出せば、彼とは距離を置かれそうな気がする。純真そうに見えても、進学校に入れる程に要領はいいはずだ。

成績がいい、と、頭がいいは違うかもしれないが、下手にボロを出さないように努めても、特に損はしないだろう。

「県大で、うちと当たったんだっけ」

口を開くと、茜が嬉々として応える。

「そうなんだよ。俺は陸部だったから、話聞いただけなんだけどさ」

「へぇ?」

「双中から、一点も取れなかったって。全然攻め込めないし、死ぬ程堅かったとか」

「あぁ、それは……。なんか、ごめん」

「え、いや、いいよ。俺には関係無いし。藍崎、ポジションは?」


「フォワード」

「うわ、かっけぇ。レギュラーだった?」

あぁ、一応。と返して前を向くと、信号が青く灯るのが見えた。

「藍崎、推薦とかは?」

白線を踏みながら、茜が僕を見上げた。推薦という単語を聞いて僕は、半年程前に、教師と口論じみた面談をしたのを思い出した。

球を蹴るだけの3年なんて嫌ですし、と呟いた僕に、だったらお前はどうして部長になったんだと、呆れ返った様子で担任は尋ねた。

「内申が良くなると思って」

そう答えて、教師が口を半開きにしたのはしばらく忘れられなかった。

それを茜に話す必要は無いかと思ったが、奨学金が目当てでここを目指したと言っても、複雑な顔をされるだけの気がした。

「推薦はされたけど……、その前からここに来たかったから」

「へぇ。藍崎すごいな。何でもできんじゃん。イケメンだし」

その辺の凡庸より、僕の方が数倍優秀なのは目に見えてるから。

と口走ることはしない。

「いや、俺なんて大した事ないよ。ここに入れたのもまだ信じられないし」

「えー、それ俺の方だって」

「そんな事言うなよ」

ざり、ざり、とアスファルトを踏む音を後ろに残し、茜と言葉を交わす。

見立て通り彼は、天真爛漫な男子だった。表情が二転三転する、裏表の無さそうな人格である。

「藍崎さ、ここに入ったのってなんで?」

「……奨学金かな」

「へぇ。大学とか、もう決めてる?」

「そうだな……。法学部のある学校は、色々調べてるけど」

「おぉ……」

「茜は?なんで入ったの?」

「え、俺はあれだよ。親の仕事を継ごうと思って」

「へぇ……。すごいね」

「いやいや」

駅前には学生が多く、人の声がざわざわと空気の中を漂っていた。

ホームも同様に人間で溢れ、あの学校の生徒の多さを改めて思い知る。

僕の乗る電車が来るまで、それ程時間は掛からないようだ。

「俺、上りなんだけど……、藍崎は?」

「俺は下り」

「そっか。じゃあ、もうすぐだな」

「そうだね」

温い風がホームに吹き込んで髪を揺らす。

そうして間を空けずに、線路の上を電車が走ってくるのが見えた。

「あ、来たこれ」空気の音を立てて止まった車両の、銀色の扉が開くと、僕はそこに足を掛ける。

「それじゃあ」

「じゃあな」

彼に背を向けると、空いている席を探す。

けれど、人で溢れ返ったこの中に、腰を下ろせる隙間なんてものは無かった。

手摺に背中を預けたら、窓の外の景色が横に流れて行くのを漠然と眺めようと思う。

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