表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

00

初投稿です。

拙い部分が多々ありますが、生温かく見守って頂ければ幸いです。

落日が辺りを覆い、街並みに橙が浸透していく。

高層住宅を建てようと稼働していたクレーンも今は静止しており、鉤を真下へ向けていた。

「……でさ、そしたらアイツ言うんだよ」

宙に浮かされているようなその重機から目を逸らすと、βは隣を歩く若い男へと視線を移す。

βは、赤茶色の髪を耳の辺りで切り揃えた白皙の少年である。端整と呼んでも差し支えない外見をしており、均整の取れた細い体と長身が印象的だった。

「なんて言われたんですか、先輩」

問われた彼は苦笑しながら、βの顔を見据える。色素が薄く、少し傷んだ髪をした若い男は、見た目からでは想像も付かない程の優れた頭脳を持っていた。彼の茶色の虹彩に映る自分の姿を認め、βは一瞬だけ動きを固める。

それに気付かなかった男はそのまま歩き続け、βの半歩先を行く。ざり、と足音を小さく立てると、βはその背中を追った。視界の左側では、滑る様に走る多くの自動車が道路を駆けていく。

「アンタ、なんでそんなに自由なのよ、……だって」

男の言葉に、βは困惑しながら笑みを浮かべた。

「彼女さん、的を得てますね」

「そうだなぁ……。なんとも言えねぇや」

言いながら男は、充足感のある顔をした。βは瞬きをすると、わずかに口を開き掛ける。

「でも、先輩の理論が実証されたら、凄いことになりますよね」

「ん……、そうかな?金と資材があったら、試作品は作れるんだけどさぁ」

彼は小さく笑い声を立てると、横断歩道の前で足を止めた。βもそれに倣い、男の斜め後ろに控える。

「……それを作ろうと思い至るだけで、罪過として扱われるんです」

「え?」

タイヤが回る音がβの言葉に被さり、彼は首を後ろに回す。上手く聞き取れなかったのを示したが、βは応えず、彼の目をじっと見据えていた。

「先輩、ひとつ聞きたい事があるんですけど」

βは彼に歩み寄ると、黒い瞳を少しだけ上に向ける。

「あ……、お、おう」

「……あなたは、」


あなたは、世界を守る為に死ねますか。


彼は目を丸くしたが、戸惑いながらも、少し時間を掛けて答えを出し、βはそれに頷いた。

数分後、横断歩道の備わった交差点で、大学生が乗用車に撥ねられる事故が起きる。

角を曲がろうとして、操作を誤った自動車は、信号待ちをしていた彼の背中を突き破り、胴を引き千切った。

アスファルトには点々と血液が飛び、その傍らには、色素の薄い、少し傷んだ髪をした若い男の遺骸が転がった。

円を描く様に集まった人垣の中に、黒髪の少年の姿は窺えない。

沈みきった陽の中で、街灯がまばらに点き始めていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ