幼馴染は執事見習い
ヨーロッパをイメージしたメイド&執事喫茶。
その名も“lady”
そこには沢山のお客様がお目当ての執事、メイドを見に来る。
または出番が少ない執事“見習い”か。
そんな執事見習いは私の幼なじみ。
あ、言っておくけど私はここの事務員。メイドではない。
というかメイド服などの可愛い服は似合わないのだ。
「亮、仕事し始めろよ」
「分かってる」
矢島亮、高校2年生。一応、女。
ここのお店は幼なじみの兄でありそして数学が得意の私を脅して働かせているオーナー、和明兄と執事見習いであり、私の幼なじみの和巳が私の他に働いている。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
そう言ってあどけない笑顔が見習いの一番の武器だ。
特に女性は母性本能にくすぐられる。
本当は仕事が出来なくて失敗してもホロー出来るからという理由でついていることは内緒だ。
それを言い降らしたら和明兄に殺されちゃう。
「亮、和巳はいいから自分の仕事をしろ」
「分かってる」
「亮ちゃんは和巳君のことが気になるだけだもんね」
「?!?!?!」
びっくりして振り向くと先輩メイドの大島さんが。
「そんなに驚かなくても」
「いつ上がってきたんですか」
「今さっき」
えっ?と思いながら時間を確認する。
もう7時じゃん。
「もうそろそろ上がってきそうだけど」
「全然やってないや」
「だろうね」
「今からやるので気にしないでください」
面倒くさがり屋の私だが仕事はきっちんとやる主義だ。
例え明日やっても変わりない仕事でも。
まだ和巳はフロアに出ているみたいだし間に合うと思う。
私は急いでキーを打ち始めた。
真っ暗な道を2人で歩く。もうすぐ夏とはいえちょっと寒い。
「亮」
「ん?」
「……もうすぐ試験だねぇ」
「うん」
「2週間前から休み取れるかなぁ」
「取れるんじゃない?赤点取ったらまずいし」
「そうだなぁ」
………………で、こいつは何が言いたいんだ?
「あのさぁ…………」
「何?」
「……………………やっぱり言いデス」
「気になるじゃん」
「あっと………………テスト週間になったら一緒に勉強しないか?」
……………………は?
「そのつもりですが」
中学2年から落ちてきた成績を止めるためテスト週間中は和巳の家に入りびたっている。
あっ、去年の学年末は例外だ。
あまりに私の友達が来て和巳と勉強する状態じゃなかったから。
おかげさまで赤点を免れる点数ばかり取りグチグチと言われたが。
まぁ、反省点として友達を呼ばないことにしたけど。
「あっ、そう」
暗くて見えないがさっき笑っていたような………?
でも笑う場面じゃないし違うか。
うん、気のせいだ。
「早くテスト週間にならないかなぁ」
「やだよぉ。面倒くさいじゃん」
特に英語とか、英語とか。
「ん~~~俺にとっては嬉しいな」
なんであんなの(テスト)が楽しみなんだ。ついに頭おかしくなったか。
あっ、分かった!!
「店、手伝わなくていいから?」
コスプレしなくてもいいからね。
「あっ、それは別かなぁ。やってると意外に楽しいし」
「じゃあなんで」
「亮と一緒にいられるから」
「……………いつも一緒にいますが」
家隣だし、学校一緒だし。
「そういう意味じゃないんだけどなぁ」
苦笑いする和巳はどこか寂しそうで。
なんかしたかなぁ?
「じゃあ、明日な」
「うん、バイバイ」
そう言って家に入る。
バイバイって言っても私の部屋の窓の向こうは和巳の部屋だから用があればすぐに話せる状態。
ま、一種の家族みたいなものなんだよね。
さってさっさと支度して寝よう。
私の幼なじみは執事見習い。
誰も知らない秘密。
その秘密を守るため今日も張り切って働いています。