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第3ひねり【通常版】:或る武器を持つ色男

第3ひねり、やっとこさupです。前回も説明したように、爽ちゃんを取り巻く個性的なキャラを生き生きと書きたいが為に、この話を書きました。今回は、新キャラ登場です。じれったい!!と感じる方は、続くショートッカット(SC)版からお楽しみ下さい。

 ようやく大学に着く頃には9時を回っていた。

 街はだいぶ活気を取り戻し、学生達が躍動的に群れを成す。

 俺はもはや流れ作業の如く、大学の敷地内に足を踏み入れ、電光掲示板に休講情報を確認しに颯爽と向かう。途中途中で見知った顔に挨拶し、口うるさい教授に媚びを売る。

 掲示板の前は、相変わらずの人だかり。

 まるで合格発表を待つ受験生のようだ。

 勝ち(=休講)を得たいが為に、祈るように彼らは待っている。

 次の更新情報を。




「おっ!!やった!!!」

 俺の勝利宣言に、一斉に目が向く。

(ふふん♪)

 あちらこちらから、歓喜と落胆の声が聞こえるが、勝ち誇った俺は気にせずそのまま大学内にある生徒用のカフェに(おもむ)いた。




 今日は比較的空いていた。

 しかし、窓側と真ん中の席は比良(ひら)が嫌うから、毎回トイレの近くの微妙な席になる。

 とりあえず、比良に連絡しなければならない。これは、勝者の義務である。

「もしもし、俺だけど。」

『あ~生憎(あいにく)金は持ってません。』

 白々しい冷静な声が聞こえる。

「詐欺じゃねぇよ。今日、休講だってよ。今どこ居んの?」

『え、休講?俺、ずっと教室で待ってたんだけど。』

 やっぱりな。お前はそういう奴だ。

「休講情報くらい確認しろよ。」

『昨日爽ちゃんが「授業来いよ」なんて呼び出したんじゃーん。』

「未来予知なんか出来るわけないだろ。いつもんとこで待ってるから。」

『うー。…あ、電話切るなよ。』

「は?」

『電話でもしてないと、声掛けられるから。このまま話してて。』

「お…おぅ。」

 実は、比良はナイスガイだ。あ、これ死語かな。

 結構なイケメン。身長も180ちょいあるし、顔も美形の域に達する。

 そこら辺のモデルより端整な顔立ちなんじゃないかと思われる。八頭身だし。日本人なのに。

 普通に街中一緒に歩いてる時も、声掛けられることが多い。 

 大学でも有名で、常に女に付きまとわれてるイメージが強い。

 しかし、当の本人に興味はまるで無い。

「…あんまり話すことも無いし、無言でいいか??」

 男同士でそこまで盛り上がれるわけもない。

 しかも、教室からカフェまでそんなに離れてない。

 何を話しても中途半端になるだろう。

『あ、大丈夫。俺が勝手に話すから。』

「おけ。」

 俺はただただ律儀に携帯に耳を傾けていた。

 後から考えたら、会話するわけでもないのだから、テーブルの上に置いといても良かったのに。

『へぇー。うんうん。あぁ、そうなんだ。…え!!富士山の永久凍土消滅!!?やっぱり温暖化問題は深刻だよねぇ。うん。俺もそう思うよ。地球環境は守りたいよね。そうそう。あ、それ俺も考えた。』

 まぁ、聞いてるのもかなり楽しいんだが。

 一体誰と何を想定して話しているのやら。

 俺は微笑ましい気持ちで、無言のまま携帯を持っていた。

『何て言うか…悲しいよね。自分達で自分の星を壊してるんだもの。人間は良い意味でも悪い意味でも欲に忠実な生き物だから。文明の発達は素晴らしいけど、その代償は大き過ぎたよね。』

「ね、爽ちゃん。」

「うわっ!!」

 急に後ろから、耳元に息を吹きかけられた。

 女の子なら大歓迎だが、野郎にされても嬉しくない。

「誰と話してたの?」

「コスモちゃん。」

 …誰だよ。

 一瞬の間を置いて。

「久し振り。」

「おぅ。」

 比良の口元が少し緩む。基本、比良は真顔。あまり笑わない。

 それが「クールでカッコイイ」と思われているらしく、無駄な人気を呼ぶ。

 その意味有り気な微笑をすれば、もっと人気が出るだろうが、本人は望まないか。

(こいつの武器はコレなんだろうなぁ。)

 俺はしみじみ比良の顔を眺める。

(俺も武器が欲しいなぁ…)

 比良はそれに気付いたらしく、俺の唇まで後1cmくらまでの距離に近付いてきた。

「…っな!!」

 思わず、()け反る。

 奴の吐息まで感じられる程近かった。

「俺のこと、凝視してるから、キスされたいのかと思った。」

 と、やっと向かいの席に戻る。そして小さな声で「ごめんね。」と。

 相手が女だったら、絶対絶対にイチコロだ。

 男の俺でさえ…いやいやいや!!無い!!!無い無い無い!!!!

 危ねぇ…落とされるところだった。

「…お前ねぇ。俺、男だぞ?」

 俺は呆れた口調で、頬杖をつきながらメニューを渡す。

「うん?知ってるよ。どう見たって爽ちゃんは女の子には見えないよ。」

 メニューを見ながら、目を細めて苦笑している。

「だぁぁ!!そういうことじゃなくて!!」

「俺、爽ちゃん好きだよ。」

「っ!!」

 思わず言葉に詰まる。

 男に言われているのに、何故か顔が熱くなる。

 俺…まさかその気があるのか…?無性に不安を抱いた。




「あ、ねぇ、もう何頼むか決めた?頼んでくれる?俺、コレね。」

「…はいはい。」

 ほんとマイペースだよなぁ。

 ちなみに、比良は自分で注文をしない。

「すいませ~ん、注文いいですか?」

「…いっ、今行きます…!!」

 裏返る声。嫌な予感。

 店員の女の子が向かって来る。両手足が機械的に動いている。

 明らかに、比良を意識しているのだろう。

 完全に目が血走って、比良に釘付けになっている。

「えっと。コレと…コレ…って聞いてます?」

「………あのっ。こ、これ携帯番号とアドレスです!!もし良かったら……」

 また始まった。

 毎度お馴染みの光景。

 俺は溜め息を吐く。もう俺の声なんて聞こえていないらしい。

 これが原因で比良は自分で注文しないのだ。

 何と言うか、めんどくさいらしい。声を掛けられただけで、自分は比良のお気に入りだと勘違いする女がどうやら過去に居たらしいのだ。

 俺だったら、うひょー!!ラッキー!!と思うのだが、奴はもう慣れ過ぎている。

 果たして、最初の頃は奴も嬉しかったんだろうか。

 そんな疑問を抱きつつ、そのお馴染みの光景をシレた顔で眺めていた。

 大体、奴の対応も毎度決まっている。

 俺はその度に覚悟を決めなければならなかった。




(そろそろ来る頃かな…)

 一生懸命比良と話そうとする彼女に、それまで無関心面だった奴はいきなり笑顔になった。

「ごめんね。俺、今彼女と来てるから。」

 ほら、来た。

 俺はテーブルの上に両手を構える。

「えっ…でも…?」

 明らか困惑する彼女。「彼女と?誰も居ないじゃない!!」と内心思っているに違いない。

「目の前に居るでしょ?コレ、俺の最愛の彼女の爽ちゃん♪」

 にこやかに、そして爽やかに、何の悪気も無く。

 俺の両手を握り締めて、奴は満面の笑顔で言い放ちやがった。

「え゛。」

 彼女は一瞬フリーズした。

 そりゃ、そうだ。俺も最初はフリーズしたものだ。

 しかし、今となってはコレが奴なりの断り文句。

 お陰様で、俺と比良のホモップルは有名になりつつある。

 奴はいいかもしれんが、俺は(たま)ったもんじゃない。

 俺には実際に女の彼女も居るもんだから、俺はすっかり「両刀使い」扱いだ。

 そしていつも、奴のこの芝居に俺は最後まで付き合わなければならなかった。

「…そうなんだよね。だから諦めてくれるかな。コイツは俺の彼氏だから。」

 俺も負けないくらい引きつった笑顔で、自分の役割を全うした。

 後悔は、もう無い。

「で、君は自分の仕事をしてね?仕事中でしょ。」

 奴は顔こそ笑っているが、言葉は冷たい。

 俺は、若干の罪悪感を覚えながらも、呆然と立ち尽くす彼女に注文内容を伝えた。

 聞いているのか聞いてないのかわからないその顔で、彼女は下がって行った。

「はぁぁぁぁぁ。一気に疲れた。」

「ごめんね、いつも。」

「いいけどさぁ…慣れたけどさぁ。俺とお前が恋人だなんてのは精神的に無理があるよ。」

「そう?俺は別に、爽ちゃんのこと好きだし、満更嘘でも無いでしょ。」

「そういうのは、女の子に言うモノなんだよ。」




―ダンッ!!





 俺の言葉に、過剰に反応した。

 拳を、感情のままにテーブルに叩き落す。

(あ、地雷踏んだかも…)

 そう思う間も無く、比良はキッとした目付きになった。

「三次元は、めんどくさい!!」

(やっぱり、そう来たか…)

 比良はこの手の話になると、とにかく長い。

 奴なりの強いこだわりがあるらしい。

「三次元はね………………」

 それから小1時間程、比良の自論を展開され続けた。

 そして最後の決まり文句。

「結論として、俺は二次元がいいの。」

「はいはい。」

 俺の決まり文句も、コレ。

 もう何回目だよってくらい聞かされたから。

 1時間も経過する内に、さっきの店員さんが注文の品を持って来たが、全然見当違いの品が持って来られたのは言うまでもない。


じれったくも、こちらを読んでくれたあなたに感謝です!!新キャラ:比良君はこんな感じです。次話のSC版にも、勿論登場します。

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