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もうすぐ豹変します

私、澪は今日オープンキャンパスに行ってきます!


高校2年生の夏。

受験自体は再来年なんだけど、来年は受験で忙しくなるから2年生のうちに行っておこう!って決めた。『大学生』か。その響きがもう素敵!

行きたい大学は学科から選んだ。高校2年生になってすぐくらい。『人を支えられる仕事』をしたい。その中で浮かんできたのはお医者さんや看護師さん。そしてお医者さんと言った瞬間に透の顔が出てきた。お医者さん家系で透自身も『医者になる』って言ってたっけ。

でも支えていくって考えたら看護師さんか、介護士さんかな?どっちがいいんだろう?


机の上に教科書を2冊左右に並べた。数学の教科書の上には『看護師』と書いた付箋を貼った。現代文の教科書には『介護士』と書いた付箋を貼った。そして使い古した消しゴムを真上に投げた。消しゴムは不規則にバウンドして『看護師』側に転がった。


うん、私は看護師になる!


考えて悩む時、なんとなくこういうランダム性のあることで選んでいる。だって、悩むってことはどっちも同じくらい魅力的ってことでしょ?だったら先にこっち!って決めてしまった方がやることが明確になってスッキリするもの。そして違うなって悩んだらその時に考えたらいいと思ってる。始まってみないと分からないことだもんね。

そして夏休みにオープンキャンパスが始まる。


あまり家から近いと『家から通いなさい』と言われかねない。一人暮らしで友人も呼んで一晩中話せるのも大学生の輝かしい部分だと思う。だからせめて一人暮らしが必要となるくらい実家からは離れていたい。できることなら灯や蓮ともずっと交流持ってたいから同じような地域がいいな。こればかりは分からないけどね。


さて、部屋を下りてキッチンに向かう。まだ誰も起きてきていない。時間は6:00をちょうど指したところだった。


今日はお父さん仕事って言ってたよね


ご飯をセットして冷蔵庫を確認。昨日の残りやお弁当に使えそうなものがいろいろ入っている。


手際よく卵と白ダシを取り出してフライパンに油を敷いてだし巻き玉子を作り上げた。3人分と、お弁当に入れるかおかわりするかは2人(両親)に決めてもらおう。あとはー

ウインナーに切れ目を入れてタコさんウインナーにしてこれも1人2個ずつ当たるように、そしてあまり2個と。

鍋に水を張ってインスタントのダシを入れる。その中に油揚げとわかめ、薄く切った玉ねぎを入れて火を止めた後で味噌を溶いた。


ご飯が炊き上がったタイミングでお父さんが起きてきた。


「おや?今日はまた早いね。もう朝食できてる」


微笑みながらいう。


「あ、お父さん、おはよう。今日はなんか早く目が覚めちゃって」

「今日?あー、大学を見てくる日だったね。楽しみ?」

「うん!」


即答する私をみてお父さんは嬉しそう。


「澪のやりたいことが見つかったんだね。」


やりたいこと。そう!動機はまだなんか薄い気がするけど人を支えられる存在でありたい!


「うん!」


力強く頷く。お味噌汁とご飯をお父さんの席にセットした。


「ありがとう。そういえば、なんで看護師さんだったのかな?」

「え?」


消しゴム投げて決めたって言ったらダメだよね、さすがに。


「人を支えるような仕事をしたくて」

「うん。素晴らしいね。澪は元気だし、澪の姿を見て元気づけられたり勇気をもらったりする人は多いと思う。人を支えると言ってもさまざまあるよね?その中で看護師さんを選んだのは?」


柔らかい口調、なのになんか試されている感じがする。ちょっと沈黙の時間ができてしまった。ちょっと気まずい。


「ふふ、大丈夫だよ。なんか意地悪なことを言ってしまったかな?」


首を横に振って否定する。


「澪が一言言うと母さんがその気になって途中から澪の意見がどっかにいってしまうことがある気がしてね。澪は澪なんだから、澪の好きなようにやってみたらいいんだよ。」

「うん!」

「その中で『看護師』さんも素晴らしいと思う。澪が誰かと結婚したら、旦那さんを支えることだってできる。家庭の中でね。澪の『人を支えたい夢』はどういう形で叶えられるのか、今から楽しみだよ。」


お父さんは静かに笑っている。『看護師と自分で言ってるんだから頑張れ!』みたいな発破をかけたりもしない。私そのものを受け入れる水のような、手では掴めない、でも包まれている安心感がある。


「昨日母さんはあまり寝れなかったみたいでね、起きてくるのはもうちょっとかかるかもしれない」


お父さんは静かに言う。


「何かあったのかな?」

「母さんの方が緊張してるんじゃないかな?澪は朝早く起きたけど、母さんは夜寝つけなかったってことだと思うよ。いつもの寝息が聞こえなかったからね。」


お父さんは小さく笑った。


「お母さん、私のことになるとたまに変なスイッチ入るもんね。大事に思ってくれてるのは肌で感じるしありがたいことだよ。」


タコさんウインナーを頬張りながらうんうんって頷きながらお父さんは話を聴いてくれている。


「たまに押し付けが入ったりするけどね。」


私も苦笑いしながら続けた。


「母さんが熱心に思ってることが伝わってるから何も言わないよ。一生懸命だから周りが見えなくなることもある。それが良くないように伝わるのは悲しいけど、澪にはちゃんと伝わっている。大丈夫。」


そう言いながら玉子焼きに箸を入れる。箸の先端がスッと玉子に入っていって無理な力を入れずに切れた。


「ふふ、今日の玉子焼きも上手にできているね。」


そう聴くと頬が緩む。玉子焼きは私の自信作。仮に居酒屋さんで働いたら即日で玉子焼きは任せられる自信がある。

お母さんの近くでずっと見てきたし手伝ったりもしてたからお皿洗いから簡単な調理なら卒なくこなせる。


「澪には浮いた話はまだ無いのかな?」

「うーん、残念ながら?」


そう言って笑ってるとお母さんが起きてきた。


「あら、今日は2人とも早いじゃない?」

「あ、おはよう」

「おはよう」


朝の挨拶してお母さんは机の上の朝食を見て


「あらあら、今日はもう朝食作ったの?随分と早起きしたんじゃない?」


と言う。


「早起きはしたけど下りて来たのは6:00だから、いつもより少し早いくらいだよ」

「そう。昨日は眠れた?」

「うん。いつもと変わらないくらいには」

「そう、ならよかった。」

「お母さんはあまり寝れてない?」

「ちょっと寝つき悪くてね」


という会話をしながらお母さんはご飯と味噌汁をよそって席についた。


「今日はオープンキャンパスでしょ?大学行くのってはじめてで楽しみで」


いつもより声が明るく大きめに出ていってる感じがする。


「そうね、受験は再来年だけど中の様子を見れるとてもいい機会だからしっかり見て、学生生活をイメージできるところを選びましょう!」

「ふふ、母さんも気合が入ってるね。」


お母さんも負けないくらい気合が入っている。お父さんはニコニコ微笑みながら私たちを見守ってくれている。


「さてと、そろそろ出発の準備をしなきゃじゃないかな?」


お父さんが時計を見ながら言う。時間は6:45を指している。予定の電車は8:20出発だから8:00には家を出ないといけない。私とお母さんはまだ寝巻き。化粧して着替えてと準備をしてたら今でも余裕のある時間とはいえなかった。


「もうそんな時間?あらあら、急がないと!」


そう言いながらもお母さんは一口ずつ楽しみながら朝食をとっていた。


私も現状で洗い物を済ませてしまって部屋に戻って準備することにした。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



スキンケアをして制服に着替えて準備は整った。なんか資料もらったりするんだろうか?何かあった時のためにA4のファイルは入るような鞄はあった方がいいよね。

時計を見る。時刻は7:50を指している。ふふ、もうすぐ出発だ。楽しみ。


お母さんも正装に着替えて準備は整った。

お父さんもスーツを着た状態でリビングで待機している。


「あれ?お父さんまだ出発してなかったの?いつもは7:30ごろ出るのに」

「いつもは早めに出て職場でゆっくり過ごしてるんだよ。8:00過ぎに出ても大丈夫。せっかくだし2人を見送ってから行こうと思ってね。」


コーヒーを啜りながら答えてくれる。こういう節目というか、イベントの時に見送ってくれるってちょっと気恥ずかしい、親バカっていうのかな?小さい心遣いが嬉し痒かった。


8:00になった。それぞれの荷物を持ち、3人揃って家を出た。私とお母さんは新たなステージの下見に、お父さんはいつもの職場に向かう。


「行ってきます!」

「行ってきます、帰りはまた連絡しますね」

「行ってきます。気をつけて行ってらっしゃい」


それぞれに声をかけ合いながらそれぞれの目的地へ向かって歩き始めた。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



電車に揺られて県外へ。


電車を乗り換えてバスに乗り継ぎ、大学に着いたのは11:30ごろだった。大学の門の前にバスの停留所がある。大学へバスを使って通うのも方法の一つだね。街中にあるから近所に住んで歩いてくるのもよさそう。友達に乗せていってもらうのもできそう。いろんな通学手段が頭の中を巡る。


「思ったより立派なところね」


お母さんもちょっと嬉しそう。


門のところに腕に腕章をつけた職員が何人か居て、

「オープンキャンパスの学生さんですか?」

と声をかけてくれる。

「はい!」

と答えると笑顔でパンフレットを渡されて

「このまままっすぐ行くと同じように腕章つけているスタッフがいます。そのスタッフからまずは入館証をもらってください。それをつけてから大学の中を自由に見ていただいて大丈夫です。それぞれ担当の者がおりますのでご安心ください。」

と説明してくれた。


指示に従って入館証をもらって大学の中を入っていく。実習室とか第○講義室とか高校では見たことない大きな部屋がいくつもある。


部屋を覗くと、車椅子が置いてあった。ADL室と書いてある。


「ここは日常生活の練習、体験ができる部屋です。足が不自由で車椅子の生活をされている方へのケアの仕方や、半身に麻痺が残った方の動きの練習をする部屋になっております。」

「そういう部屋もあるんですね」

「はい。看護や介護、リハビリなど幅広いことを学べる部屋になっております。」


私たちの他に数名、あと小さい子が2人はしゃいでいる。


部屋を見回すとスロープやお風呂、トイレ、玄関など、家にあるようなものが断片的に配置されている。

車椅子で生活されている人のケアを想定しているんだろう。


「車椅子がありますね」

「そうです。車椅子、乗ってみます?」


係員が車椅子を勧めてくれる。乗ってみると思ったよりシートは硬い。沈み込まないんだ。


「ではお母様、押してみてください。」


自分の足で歩かないのに体が動いている、変な感じだ。車や電車とはなんか違う。歩くスピードで自分の意思とは違ったところに動いている。


「このままスロープを上がってみましょうか」


と言ってスロープの方へ誘導される私。


「このまま押して上がってみてください。」


体が斜めになりながらスロープを上がっていく。今まで何気なく見ていた階段横のスロープって車椅子だとこんな感じになるんだ。


「降りるときは上がってきた時のように前を向いては行きません。お尻の方から降りていきます。そうしないとですねー」


係員が説明している横で小さい子が別のスロープを前向きで降り始めた。その子の親が慌てて車椅子を止める。そしたら車椅子に乗ってた子が慣性で車椅子から投げ出されてゴロゴロと転がっていった。


「あ……、ははは。ああなります。」

「な、なるほど。よくわかりました。」


係員も私もお母さんも顔が引き攣っていた。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



14:30を過ぎたころ、そろそろ大学を去る時間になった。再来年からここに通っている私。うん、悪くない!

教室は広くてビックリしたしADL室では車椅子に乗ったし、いろんな実習があって楽しそう。学食も広くて安くて美味しかった。何より同じ職業になろうとしている人が集まってくる。楽しくないわけがない。思うだけでワクワクする。


入館証を返して帰りのバスに乗り込む。


「どうだった?」

「どうって、うん。よかったよ!」


胸をグーッと伸ばして


「再来年か……」


と短く言った。お母さんは「よかった」って微笑んでいた。


携帯を取り出して大学の入試を調べてみた。科目は5教科と面接。特に面接が重要視されているみたい。


面接か、志望理由と自己PRは聴かれるとして他は何を訊かれるんだろう?自分の長所や短所とかかな?

志望理由はこのオープンキャンパスでここで学びたいと思ったから。面白いと思ったこと、興味を持ったことを話したらいいのかな。うん。


長所は……明るく相手に寄り添って、時には優しく、時には厳しく、相手を前向きにできる力があります。

短所は……相手を優先し過ぎるあまりに自分の意見を言うタイミングを逃すことがあります。


かな?自分で長所や短所ってなかなか分かってるようで分からないもんだよね。また今度灯に聞いてみよう。


バスは揺れている。


大きな仕事を終えてゆらゆら揺れていると眠くなってくる。お母さんはうとうとし出した。昨日あまり寝れなかったって言ってたもんね。私は肩を差し出して動かないようにして外の景色を見ていた。


バスが目的地に近づいてきた。そろそろ起こさないと。肩の方を見るとお母さんの目は開いていた。目が合った。


「まだ子どもだと思ってたけど、大きくなったね」

「うん、もう17だからね」

「ふふ、まだ17よ」


そう言いながら2人で笑っていた。


バスが止まって電車に乗り換える。お母さんは携帯を取り出した。


「ちょっとお父さんにね」


今から電車に乗るよって送ってるんだろうな。予定の電車に乗れそうだから17:00過ぎには帰れる。行きは電車とバスの待ち時間があったけど帰りは少し短い。その分早く帰れる。

17:00過ぎにと言うことはお父さんはまだ仕事だろうから私たちの方が帰りは早そう。


「晩御飯どうするの?」

「そうね、お弁当でも買って帰る?」

「卵だけあったらオムライスくらいなら作るよ」

「疲れてないの?手を抜けるときは抜いてもいいのよ?」

「まあちょっとは疲れてるけど、大丈夫!」

「早起きして朝から動いてるんだから無理はしなくてもいいの。駅着いた時の元気で決めましょうか」


いや、作るって言ってるのに……。まあいいか。気を遣ってくれてるんだし、言葉に甘えてみても。自分の意見を言えない?ううん、お母さんの意見を尊重しただけ。うん。


私たちは電車に乗り込んだ。


ガタンゴトン、ガタンゴトン


バスもだけど規則的に揺れると眠たくなってくる。さっきのバスの中でも寝てなかったからかな?お母さんはさっきより元気そう。


「今度は澪が寝る?」

「うん」


頷いて目を閉じた。

読んでいただきありがとうございます。

次話は明日確認してみてください。

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