第09話「オルヤ平原(鬼の住む孤島・後編)」
Aランク冒険者――その称号は、
全冒険者のわずか0.5%にしか与えられない。
名声、富、地位。望めばどれも手に入る。
だが、Aランク冒険者――雷鳴のバートンは、それらに興味がない。
彼にとって大切なのは、ただ一つ。
「真実を見極めること」である。
そんなバートンのもとに、帝からの勅命が届く。
“鬼島に潜む女を討て” “女は鬼をかばい、人間を害した”
だが、バートンはその文を見た瞬間に違和感を覚えた。
――これは、帝の筆跡ではない。
つまり、実際に、勅命を帝は出していないということだ。
それでも、勅命は勅命。従うのが当然の責務であり、
逆らえば、国賊として扱われてしまう。
バートンは決断した。
「偽りの勅命に従うふりをして、真実を確かめる。」
オルヤ平原に着くと、噂を吹き込んだ者たちがバートンの前に現れた。
彼らは口々に言う。
「鬼は人を襲う。」
「鬼をかばう女がいる。」
「討伐すべきだ。」
だが、バートンの目には彼らの言葉よりも、
その目の濁りの方が気になった。
真実を語る者の目ではない。
バートンは静かに言った。
「案内してくれ。鬼島へ。」
彼らは喜び勇んでバートンを連れて行った。
まるで“英雄ごっこ”の続きを期待する子どものように。
鬼島に渡ったバートンは、すぐに異変に気づいた。
鬼たちは武器を持たず、争う気配もない。
むしろ、怯えている。
そして、彼女――玲に出会った。
噂とはまるで違う。
鬼をかばうどころか、鬼も人も同じように見つめ、声を聞こうとしている。
玲はバートンを見ても警戒せず、ただ静かに言った。
「帝は……人の痛みを知らない方よ。」
その言葉に、バートンは驚いた。
帝を悪く言う者は多いが、玲の言葉には憎しみではなく、
深い失望があった。
バートンは思った。
――この女は、敵ではない。
むしろ、協力すべき相手だと。
しかし、事態は急変する。
バートンが連れてきた“鬼狩り”の者たちが、
勝手に鬼たちへ襲いかかったのだ。
バートンは叫んだ。
「やめろ!!誰が攻撃しろと言った!」
だが、彼らは聞かない。
英雄気取りの暴走は止まらなかった。
紅葉のそばから玲が、離れた瞬間、
数百名の冒険者が鬼たちを追い詰めた。
バートンは剣を抜き、玲の隣に立った。
「玲、俺も戦う。真実を守るために。」
玲はうなずき、鈴に触れた。
「退治されるのは、お前たちよ。」
バートンはその力を目の当たりにした。
「第4層展開――フォースE!」
空気が震え、暴走した冒険者たちの九割が戦意を失い、崩れ落ちた。
残る一割は紅葉が引き受けた。
鬼の里を守るために。
バートンはその背中を見つめながら、
――鬼は“鬼”ではない。
そう確信した。
紅葉が残る冒険者たちを引きつけている間、
玲はバートンと共に鬼の子どもたちを避難させていた。
響は震えながらも、必死に仲間を誘導していた。
「大丈夫、僕が守る……ママみたいに……。」
その姿に、玲は胸が熱くなった。
――この子は、泣き虫なんかじゃない。
戦いが終わった頃、
森の奥に静寂が戻っていた。
玲とバートンが駆けつけると、
紅葉は木の根元に座り込むように倒れていた。
その表情は穏やかで、
まるで眠っているかのようだった。
「紅葉……?」
玲がそっと肩に触れると、
風がひとすじ、紅葉の髪を揺らした。
だが――もう、彼女の気配はなかった。
バートンは静かに目を閉じた。
「最後まで……里を守ったんだな。」
玲は紅葉の手を握り、
その温もりが消えゆくのを感じながら、
小さく呟いた。
「響は……あなたの誇りよ。」
その時、響が駆け寄ってきた。
「ママ! ママ……!」
玲は響を抱きしめた。
「紅葉さんはね……最後まで、あなたにとって…
……自慢の……ママだったよ!」
響は涙をこらえ、震える声で言った。
「泣かない……僕、もう泣かない。
ママの代わりに、里を守る……
僕が……リーダーになる……!」
その言葉に、玲は胸が締めつけられた。
小さな体で、あまりにも大きな決意。
バートンも静かにうなずいた。
「響、お前ならできる。俺も協力する。」
響は涙を拭き、紅葉の手をやさしく握った。
「ママ、見てて……僕、強くなるから……。」
夜が明けて、鬼島に朝日が差し込む。
紅葉の魂を照らすように、柔らかな光が広がった。
玲は立ち上がり、バートンに向き直った。
「……あなたは、私を捕らえにきたの?」
バートンは首を振った。
「いや。あれは偽の勅命だ。帝の名を騙る者がいる。俺は真実を追う。」
玲は微笑んだ。
「そう。私も争いのない世界にするために帝都に向かっています。」
バートンは剣を背負い直し、玲と並んだ。
「次はどこへ?」
玲は遠くを見つめた。
「ヒュルゴー盆地。
盗賊が跋扈し、人々が泣いている場所よ。」
鈴が、かすかに揺れた。
「……また、誰かが泣いてる。」
バートンはその音を聞き、静かに頷いた。
「行こう。真実を守るために。」
こうして、玲とバートンのそれぞれの旅は続いていく…
そして、鬼島に残された響は、母の意志を継ぎ、
小さなリーダーとして歩き始めていた。
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